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「ローズ嬢、ラムセスも一緒に王宮に残る。王宮のメイドを付ける」
「あの、喘息は一度落ち着いてしまえば……」
「ローズ、まだ顔色が悪い。指先だってこんなに冷たくて痺れているのでは?」
鋭い、指先の感覚は戻っていない。
吸入薬を、もう1吸入するべきなのかもしれない。
私が吸入薬から手を離さないからいけないのか? 吸入薬を持つ私の手をセスが握って離さない。
「ローズ、今日だけでも王宮に泊まろう」
本当は、喉が馴染んだ慣れた部屋の方が良いのだけど……。
今の喉の状態では、歩いて馬車にたどり着く前に息切れを起こす自信がある。
不本意だが、頷くことにした。
「陛下、リビングにお茶の準備が整いました」
「ああ、ヒース。本日からフォード家の方々に王宮に滞在してもらう」
「かしこまりました」
「特にローズ嬢には、失礼がないようにしてくれ」
「かしこまりました」
小声で話している国王陛下と側近のヒースと呼ばれる人の会話が漏れ聞こえる。
なぜ、私の待遇がそんなに良いの?
「陛下、フォード卿には、隣の客間をお使いいただく予定です」
「ああ、そうしてくれ」
「フォード卿がお連れのご令嬢をなんとお呼びすればよろしいですか?」
「ココ・カグヤ、いやレディ・カグヤと呼ぶように」
「かしこまりました」
えっ、ココ・カグヤ!
「こほっ……」
「ローズ……」
セスが、私の背中をさする。セスが泣きそうだ……、困ったなぁ~。
「お嬢様、何かお飲みになられますか?」
こういう時のサリは、絶妙だ。
「ローズ嬢、お茶の準備ができている」
「是非、紅茶を」
「ローズ、歩ける?」
「はい、歩けます。ご迷惑をおかけしーー」
答えている途中にセスに横抱きされて、隣室に動いた。
王宮の客間のリビングルームのソファーに座らされた。
室内が壮観だ! キョロキョロしたい。
「レディ・カグヤのお好みの紅茶は?」
紅茶を入れる専門の方だろうか? 小柄な紳士に聞かれた。
「しっかりとしたコク深い紅茶をストレートで……」
「かしこまりました」
私にだけお茶が出された。緊張する。
「ローズ」
「えっ、……大丈夫です」
セスが熱い紅茶をフーフーして私に飲ませようとした、何のプレイだろうか?
とにかく、私が紅茶を飲まない限り、この沈黙は続くらしい……。
「いただきます」
カップを持っただけで紅茶の香りを感じる。
緊張のなか紅茶を口にした……これはっ! 記憶に残る美味しさだ。
私の好きなアッサム地方の茶葉に似た香りと味を堪能した。
「美味しい、深くて、でも渋くも重くもなく、香りも良いですね」
紅茶紳士は、微笑んで頷いた。
やっと、国王陛下にもセスにも紅茶が行き渡った。
「ローズ嬢は、紅茶好きなのか?」
「はい、もともと紅茶好きです。それに、コーヒー・紅茶が喉にも良いと聞いたこともあり、意識して摂るようにしています」
「そうだったのか、ローズ気づかなくて……」
「気づかれては困ります、隠していたのですから」
「ローズ……」
「セス様、ごめんなさい」
「ローズ、謝らないで」
そう、私は隠していた。病気であること、それを隠していたことを謝った。
国王陛下もセスも真剣な顔つきのままだ。
空気が重い。
「フォード卿、後ほど客間にご案内します」
「ヒース、そんなかしこまらないでくれ」
「はい、ですが……」
「そうだな……、来客としてよろしくお願いする。特にローズを頼む」
「もちろんでございます。レディ・カグヤにメイドは何人必要ですか?」
「ローズにはサリを残す。王宮からの専属メイドは一人で大丈夫だ」
「フォード卿は、いかがなさいますか?」
「私は、困ったときだけ誰かを頼む」
「レディ・カグヤの苦手な食材をお教えください」
「ローズは、何でも食べるが少食だ」
「かしこまりました、軽食を用意させていただきます」
こうやって見ていると……セスは、本当に私の保護者のようだ。
保護してもらっているのは確かだけど、何から何までありがとうございます。
ヒースと呼ばれている方はセスの同僚?
細身、色白、プラチナブロンドの髪、目の色も薄いブルーだ、色素が全体的に薄い感じがする。王の側近はルックス審査があるようだ、 ヒースも間違いなく美形男子だ。
物語に出てきそうな、金色の王、漆黒の魔術師、白銀の側近だ。
「ローズ、少し何か食べられそう?」
「はい、もう大丈夫です。本当にお騒がせしました」
「お嬢様、先にお召替えを」
サリに客間のドレッシングルームに連れていかれた。
その奥がクローゼットになっていた、服や靴が用意されている。
この美しい、ドレスとお別れかぁ~。異世界の記念になった。
鏡の前で、自分のドレス姿を見ていたら……。
「お嬢様のプレデビューは無事に終わりましたね」
「サリ本当に色々ありがとう、最後が残念になってしまって……」
「大丈夫ですよ、ご立派でした」
サリは、優しい。
「レディ・カグヤ、王室メイドのミヤでございます。ミヤとお呼びください」
「ミヤ、よろしくお願いします」
「陛下の命で用意した物でございます、お召替えを」
「ありがとうございます」
服を見せてもらった、こちらも凄い数だ……。
いつの間にサイズの合った服を用意したのだろう?
王宮で保護しよう。そう言われた事を思い出した。
……やはり、何かあるのかな?
服を見ながら、答えの出ないことをぼんやり考えた。
用意された服の中には、カジュアルな服もあった。
おおっ、パーカーがある。デニム素材のミニ丈のタイトスカートもある。久しぶりに、こういう服を着たいと思い手に取った。
「お嬢様、陛下もいらっしゃいますから……」
うー、確かに通勤時にも着ないカジュアルさだ。
「レディ・カグヤ、こちらは?」
ミヤが、シルク素材のリボンタイのブラウスとデニム素材にレースや刺繍が施されたマーメイドラインのロングスカートを手にしていた。
どちらも明るい同系の色で、顔色が明るく見える気がした。でもデニムとか大丈夫かな?
「お嬢様、そちらのブラウス・スカートでしたら大丈夫です」
「サリ、ミヤ、ありがとうございます。それにします」
サリとミヤが着替えを手伝ってくれた、サリとミヤの関係に上下を付けるとしたら?
……わからない、どちらにも失礼に当たらないようにしよう。
脱いだドレスは「責任を持って手入れいたします」と王宮メイド達がトルソーにかけて何かをしている。魔法?
久しぶりのブラウスは、新鮮に感じた。
服って、いいなぁ~。
着替えが終わり、リビングに戻ると軽食と程遠い贅沢な食事が運び込まれていた。
「ローズ、大丈夫?」
「ココ・カグヤ、少し落ち着いたか?」
国王陛下は、まだココ・カグヤ呼びだ。
この国の人は、命名するのが好きなのだろうか?
「はい、落ち着きました。
国王陛下、本日は王立劇場へご招待いただきありがとうございました。私事でご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。その上、このようなご配慮をいただき感謝申し上げます。
セス様、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。色々とお気遣いいただきありがとうございます」
私は、丁寧なお辞儀をした。
「ココ・カグヤ、気にしないでくれ。食事を用意した、無理のない範囲で食してくれ」
「ありがとうございます」
「ラムセスも少しは落ち着いてくれ。明日、ラムセスが同席の上でココ・カグヤと少し話をしたい」
承知した旨を伝え、セスも私も頭を下げた。
国王陛下は、執務室へと去っていった。




