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朝食は無事に終わり、食後のお茶になった。
「ローズ様は、学園に通われるのですか?」
「…………?」
宰相に話しかけられた。
学園というのは、どう考えても学校ということかな?
考えているうちに、セスが口を開いた。
「ローズが、学園に通うことを希望したらと考えています」
「私の娘が、来月入学でして、気になりまして……」
「そういえば、宰相のところのご長女はもうそんな歳か」
「はい、陛下」
来月入学って? 今が、12月だから……、この世界の学校は1月開始なの?
勝手に4月開始と思い込み、私とは縁がないと思い込んでいたけれど……。
学校にはもう通いたくない。勉強嫌いなのに、親の泣き落としで大学まで行かされて辛かった、高校も大学も卒業はかなり大変だった。
「ローズ、学園の事は気にしなくていいから」
「ローズ様、学園に通われる際は、どうか我が娘と仲良くしてください」
「…………」
えっ嫌だ、この流れ一番苦手。社交辞令なのはわかるけれど……。
いきなりお友達になってください系は、気持ち悪い。
誰か、話題を変えてください!
「もしかして、宰相は『娘と仲良くしてくれ』と言うために、ロイヤルボックスに招待する令嬢に事前に面会をしたいと無理に今朝……」
「ラロール卿!」
「いえっ、まあ……つい引っ込み思案な娘が可愛くて……」
「ほぉ、宰相の弱点はご息女のようだな、鬼宰相にも親心があるようだ。
でも、人見知りの激しいローズ嬢にお願いしても無駄な願いになったな!」
国王陛下が含みのある笑顔を浮かべた。
何が起きているの? 国王陛下が、私の気持ちを代弁している。
「陛下は、ローズ様や娘の交友関係にまで口を出すおつもりですか?」
「ラロール卿、朝から我が家に押しかけて、はじめて会うローズに自分の娘と仲良くしろというのは口出しではないのですか?
ご息女の引っ込み思案をローズに押し付ける気ですか?」
「いえっ、そのようなつもりは……」
おおっ、国王陛下とセスの言っていることは大正解だ。
私が、見知らぬこの世界の面識のない令嬢に気を使うのは筋違いだ。
周囲に決められた仲良しほど面倒なものはない、どちらかが我慢していることが多い。
そして、目の前の状況も面倒な事になっている。こんな険悪になるような話でもなかったはずだ。
私が、取り繕う必要はない、いい歳の大人三人で勝手に揉めてくれ、火の粉だけは払わなくては……。
「お嬢様、本日はお早めにお部屋にお戻りください」
サリ、いつもありがとう。
私は、無言で立ち上がりお辞儀をし退席した。
サリと部屋に戻った。
この部屋に愛着が湧いたのか、戻ってくるとホッとする。
扉を閉めたサリの目がキラリンと輝いた、何かしら?
「お嬢様、ここからが勝負です」
「しょ、勝負なのね? なんの?」
「お嬢様の今日のプレデビューに向けてです」
何だか、怖いよぉ~。
「はい……、よろしくお願いします」
服を脱がされ、薄い布一枚を巻かれ指示されたところに立つと、私は半透明のドームに覆われた。サリの他にメイド二人もドーム内にいる、いつの間にかにそこある台の上に寝かされた。
サリがスチームを発生させ、ドーム内が真っ白になった。
サリによるとタラソテラピーが始まるらしい。
エステサロンは行ったことあるが、タラソテラピーって何だろう?
15歳の身体に老廃物はないと思われるのだけど、まずマッサージが始まった。
おお、これは快適です。
「お嬢様、お目覚めください」
えっ……2時間ぐらいたっていた。なんてもったいないことを……。
スッキリと全身が引き締まった感じがする。身体が軽い。
結局、タラソテラピーとは?
厨房から、軽食が届いた。
ダイニングでゆっくり食べる時間は無いようだ……。
軽食と言っても、随分豪華なサンドイッチだった。
「美味しい! サリ達も一緒にどうですか?」
「私どもは、後ほど……」
一人の食事は、久しぶりだ。
やはり、サリやメイド達は私との同席の食事は禁止されているのね。
「さっ、お嬢様、仕上げに入りましょう」
サリの目が再びキラリンと……。
黒とネイビーのシルクシフォン素材のアメリカンスリーブ・プリンセスラインのドレスとダイヤ尽くしのネックレスを纏った。
お化粧を施され、髪を緩く巻き後ろに流しカチューシャティアラを乗せられた。ティアラにも色々な名称があると教えてもらった。
ティアラとお揃いのイヤリングを付けられ、これ耳が痛くない!
肘クッションを使いロンググローブをはめられ、サンダルを履かされた。
昨日のネイビー色の星型のコロンとしたクラッチバックの持ち方を指導された。
「サリ、これには何を入れるの?」
「本日は、私も同行いたしますので特段なにも」
「……そう? ありがとうございます」
「お嬢様、お綺麗ですよ、いつものように姿勢よく! そうです、完璧です」
メイドが扉を開けた、それと同時に……。
コンコンコン
セスが、慌てて入ってきた。
「サリ、ローズの準備は問題ないか?」
サリが笑っている、まさかセスは扉が開くのを待っていたの?
「旦那様、お待たせいたしました、今からバングルをーー」
「ローズ、左腕をこちらに」
セスは、サリの視線の先にあるバングルを2つ取り、私の左腕に通した。
「ああ、ローズ……今日のローズも綺麗だ」
「ありがとうございます。サリ達のおかげです」
「ローズ、綺麗だ……髪型も可愛い」
「……セス様も昨日と違う正装ですね、素敵です」
差し色にネイビーを使い黒色基調の正装の麗しいセスが、顔を赤くしている。
「ローズ、何か軽く食べる?」
「お昼に厨房から軽食が届けられたので大丈夫です、セス様は?」
「私もローズと同じものをいただいたよ」
なんかセスが幸せそうだ、確かにあのサンドイッチは美味しかった。
サリが、ミント水を用意してくれた、スッキリと喉を潤した。
「サリ、ローズの髪を隠すようなヴェールは?」
「旦那様、お嬢様の艶髪を引き立たせるために髪飾りを減らしています」
「それならば、髪飾りを増やしてくれ」
「プラチナで編まれたヘッドドレスに変えると可愛らしさが増しますが」
「……仕方ない、今のままで……」
サリは、何かを学習したようだ。
次は、ストールにするかショールにするかで揉めている。
結局、サリかシルクシフォンのストールを、セスがロシアンセーブルのショールを手にしている、決着つかなくて両方を持っていくようだ。
こういう時は、私は置き去りになる。
祖父母の家にいた時もそうだった、高級な物を与えられるが、着たいもの食べたいものを得られるとは限らない。
私は、高級な束縛を避け自由を求めた。それには経済的に不利でも自立を選ぶしかなかった。家出に近い自立をしたはずなのに、異世界で……皮肉なことだ。
サリが、ストールを私の肩にかけた。
「ローズ、手を」
「はい、セス様」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
メイド達の言葉を背に、セスにエスコートされ玄関ホールへ向かった。
車寄せには、機械馬4頭立ての馬車が待機していた。今日の機会馬は金色だ、機械馬もドレスアップしている? 車両もツヤツヤして、先日のより装飾が多い。
そういえば、国王陛下と宰相はどちらへ?
どうでもいいかぁ~、朝食後のお茶の雰囲気は最悪だった。
サリのタラソテラピーのおかげで、遠い記憶になった。
癒しって大事よね。




