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 また、強い日差しで目が覚めた。

 ケータイをゴソゴソ探す……。

 そうでした、ここはホテル暮らしのような異世界でした。


 異世界召喚といえば召喚された者は勇者とか聖女の担い手で、ほぼ無休・無給で働いて名誉と裏切りが折り重なって、ハッピーエンドに見合わない苦行を強いられるものと思っていた。

 それが無いだけ良かった、私それ無理だから。


 まず朝の吸入、吸入薬のカウンターは残49。


 えっと……昨日の整理をしなくては、国王陛下に悪態をついた。

 その後、ガゼボで寝て終わってしまった。


 もともと15歳の頃は……よく眠っていたような、それにしても寝すぎのような。

 召喚された直後は音楽聞いてもなかなか寝付けなかったから、その反動で睡眠負債の返済がはじまったとか? この世界に慣れてきたとか?


 慣れは油断に繋がる、それが昨日の悪態に繋がった。

 一晩たったら、不敬罪で収監されるのは嫌になった、避けられますように!

 もう遅いかもしれないけど……また今日から、今から慎重に生きよう。


 良く寝たせいか、泣いたせいか、太陽の出ている時間のせいか、昨夜の孤独感は薄れていた。


 人と関わらない方が孤独感は薄れる。

 昨夜のような涙を流すのはもう嫌だ! 一人にしてもらいたい。

 セスに看取ってもらうつもりだったが……。どうしよう、考えがブレ始めた。


 あと49回吸入薬を使った後……どうなるかわからない。

 発作止めが無い状態で、喘息発作をやり過ごしたのは幼い時しかない。


 一晩に何度も、今度こそ息が止まると思う苦しさが続く。なんとか治まった時は脱力感と睡魔に襲われて、椅子に座ったまま気を失うように眠る。そして数時間後には、だるさを引きずったまま1日がはじまる。


 明日こそ喘息発作で死ねますように! と毎夜祈った。

 祈っても祈っても願いは叶わず、苦しかった。


 あの恐怖が戻ってくるのかな? 怖い! 



 コンコンコンコン


「お嬢様、おはようございます」

「おはようございます」


 サリとの挨拶で今日が始まった。


「お嬢様、今朝のお召し物はいかがなさいますか?」

「今朝もお任せします、ボリューム控え目で」

「かしこまりました」


 シルクタフタ素材のサックスブルー色のミモレ丈のタイトワンピース、白ファーの半そでボレロを合わせた。グレー色のブーツ、髪と服にロシアンブルー色のリボンが飾られた。


「お嬢様、どうかなさいましたか? お気に召しませんか?」

「なんだかフォーマルというか、このままお出かけできそう」

「旦那様が、肌が隠れるようにと」

「そう?……そうなの……」

「爪はどうなさいますか?」

「あっ、消えている」

「昨夜、旦那様がお嬢様に洗浄術をかけた際に……」


 何かな、その洗浄術って?


「爪は、透明に近いつやつやなグレー単色で」

「かしこまりました」



 コンコンコンコン


「ローズ、おはよう。今朝も素敵ですね」

「おはようございます、セス様」


 セスにエスコートされ朝ダイニングヘ向かった。いつもの朝ごはんテーブルに……国王陛下の幻が見える気がする。思わず立ち止まった。


 私、とうとう心が壊れた?


「ローズ嬢、おはよう」


 喋った! 幻ではない。そして笑顔、爽やかな笑顔だ、その理由は? その前に、昨日の私の不敬もどきはどうしたの? 今から、昨日の続きなの? 慎重に……慎重に……うるうるの爪でも見ようかしら?


「ローズ、大丈夫だから」


 何が、どう大丈夫なの? 不敬罪が大丈夫なの?

 セスの優しい笑顔の意味がわからない。


 まって、昨夜……と泊ったの!?

 国王陛下とセスは、お泊り会だったの? 私の予想は当たった、2人の間には愛がある。応援すべき? 見守るべき?

 いやいや関わらない知らない気づかない、鈍感力って大事よね。鈍感力、鈍感力……。


 あー、でも知りたい! 

 国王陛下が、泊ったのか、一度帰ったのかだけでも知りたい。


「おはようございます、国王陛下」

「陛下が、ローズの言うスイートエッグトーストに興味を示されて、朝食を一緒にと。さあ、ローズはこちらへ」


 セスの説明では、私の知りたい答えは得られなかった、う~。


 今朝は、フルーツサラダから始まった。

 改良されたというフレンチトーストが出てきた、付け合わせはスモークソーセージとグリル野菜。甘味と塩味が絶妙~。


「お嬢様、控えているランスがお嬢様の感想を伺いたいと」


 えっ、陛下やセスには聞かないの?


「大変美味しかったです。長く卵液に浸けて、焼くときに無塩バターを増やしたのですか?」

「はい、お嬢様、その通りでございます。お好みはどちらでしょうか?」

「今朝の方が、味が染みてカリフワで私好みの美味しさでした。一昨日、いただいたのも涙を流すほどの出来の良さでしたけど……。ありがとうございます」


「我々厨房は、お嬢様のために努力いたしますので、何なりとお申し付けください」

「そ、それは嬉しいです、いつも美味しい時間をありがとうございます」


 ランスは頭を下げ、嬉しそうに厨房に戻った。

 大丈夫だろうか、陛下や雇い主のセスに何も言わずに……。


「美味しい時間かぁ~」

「そうです、まさに美味しい時間ですね」


 国王陛下の呟きにセスが応じた。

 2人の間に無駄な言葉は不要のようだ、私には理解できないが何かを共感し確かめ合っている。



 朝食は、無事? に終わった。ここから食後のお茶が始まる。

 気が重い……ダイニング横のソファー席に移った。


「ローズ嬢は、オペラとかに興味はある?」


 陛下が、さらりと聞いてきた。

 ベクトルが変わった! いつもと違い、答えやすい質問だ。


「はい、オペラだけでなく舞台上演を鑑賞するのは大好きです」

「ローズ嬢は、観劇好きかぁ」


「ローズ、明日から冬のオペラが開幕するから観に行きますか? フォード家はボックス席を持っているからいつでも行けますよ」

「それは、魅力的ですね」


 日本では、オペラ・バレエ・ミュージカル等のチケットは高価だった。しかも、上演日数も少なくて即時完売で入手困難だった。

 その点、ヨーロッパの名だたる劇場やホールでは、高品質なものを安く楽しめた。幕間のロビーホールの華やかさに驚いた。出演者リストが発表され、それを見ている関係者や役者・ダンサーの卵達。ワイングラスやショットグラスを片手に歓談している人達。みなドレスアップしていた。

 セレブごっこ旅行では、チケットは現地調達だったが、観劇用のドレスワンピース・靴・アクセサリー・バッグ一式をスーツケースに入れていた。


 それが、ボックス席なんて……行きたいなぁ。


 気づくとセスが真横に座っていた、私の手を取り私を覗き込む、目と目が合ってしまった。

 あっ、セスの目は黒でなく濃紺、ネイビー色だったのね。


「ローズ、毎日でも一緒に行きましょう。

 フォード家のボックス席は角度が良くないかもしれない、新しくもう一つボックス席を用意しますね」

「ラムセス、ローズ嬢とロイヤルボックスを使っても構わないぞ」

「陛下、よろしいのですか?」


「明日、正式に王立劇場のロイヤルボックスへ招待しよう。初日と楽日は恒例の天覧上演だから警備もシッカリしている」

「陛下、ありがとうございます。ヨハン、ローズの準備をしてくれ」

「かしこまりました」


 えっ、速い展開だったような……。明日、招待って?

 私はその招待に含まれたの? 観劇は大好きだ、しかもボックス席なんて一生の思い出になる。でも国王陛下とセスの仲を邪魔してはいけない。

 でも、行きたい!

 でも、苦手な国王陛下と一緒のボックスかぁ、私はやめようかな? でも、鑑賞中は話さずにすむ。でも、慎重を期すべきだ。

 喘息が悪化してから人が集まる劇場は諦めていた、発作が落ち着いている今なら、ボックス席なら何とかかる? でも、逆にそんな席で発作が起きたら?

 あ~でもでもが頭を回る。


「ローズ……?」

「私も、よろしいのですか?」

「当然だ、ローズ嬢を正式に招待する」

「ローズ、行こう」


 もう断る必要ないよね、劇場に行っていいよね。


「はい! 是非、喜んで」


 私の手を取っていたセスの片手が、私の髪を優しく撫で耳の横で止まった。セスに見つめられながらセスの温度が耳にも伝わってくる。なに?


「ローズ! また笑ってくれましたね」


 そういうセスの優しい笑顔が、あまりにも素敵すぎて、私はどうしたらよいか分からなくなり目をそらした。

 あっ、国王陛下と目が合ってしまった。金色の目だ。


 国王陛下は瞬きせず黒目がちにこちらを見ている、あっ視線を外されたかも……気にしない。



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