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サリに連れられ、いつもの朝ダイニングルームに着いた。
「ローズ、おはよう」
「おはようございます、セス様」
「ローズ、青色の服にパールが綺麗ですね。似合っていますよ」
「ありがとうございます」
いつものセスに戻っていた。
この数日、色々と試して私の定番朝食パターンが出来つつあった……。
でも、今朝はフレンチトーストかパンケーキが無性に食べたくなった。
「ローズ、今朝のパンはどれにしますか?」
「あの今日は、甘い生地で温かいもの、フレンチトーストかパンケーキというものはこちらにありますか?」
「ヨハン、料理長に確認を取ってくれ」
「ローズ、今まで食べたいのをずっと我慢していたのですか?」
「いえ、我慢していたわけでなくて、ふと食べたくなったのです。良いことがあった時や頑張ろうと思う時等に時々食べていたものです。でも、料理長に確認する騒ぎになるなら……」
「旦那様、料理長が確認をしたいと参りました」
「料理長のランスでございます。甘い生地ということですと、小麦粉・卵・砂糖・ミルクを混ぜて焼いたシンプルモーニングケーキと、卵・砂糖・ミルクを溶いてパンを漬け込んで焼いたスイートエッグトーストでしたらご用意できます。両方お持ちしますか?」
「ローズどうしますか?」
「まさにパンケーキとフレンチトーストです。今朝はスイートエッグトーストをいただきたいです。よろしいですか?」
「ああ、もちろんだよローズ。ランス、私も同じものを」
「かしこまりました」
「あの……ランス料理長、いつも美味しい食事をありがとうございます。厨房の皆様にもよろしくお伝えください」
「は、はい、皆喜びます。すぐにご用意いたします」
「ローズ、嬉しそうですね」
「はい、うれしいです。今朝はお騒がせしてしまって、さらに我儘を言ってしまい申し訳ございません」
「ローズ、そんなに……気にしないでください」
運ばれたスイートエッグトーストは、懐かしい味だった。
召喚される直前にファミレスモーニングで食べていたフレンチトーストを思い出した。食べたいものを食べられたのは久しぶりだ。
以前は、自分のお給料で食べたいものを食べていた。行きたいところに行っていた。着たい服を買って着ていた。何をするのも自分一人でお財布と相談しながらサクサク決めていた。
そんな当たり前の事を懐かしく思うなんて、随分と心が元の世界から離れてしまったのだろうか……。当たり前という幸せの中に私はいたのか? で、一般的によく言う……それを失ってはじめて気づいたということなのか?
「ローズ……? ローズ、泣いて…… どうしましたか!?」
「えっ、泣いてなど……スッ…グスッ……あれ?」
「ローズ!」
セスが立ち上がり、私の椅子のすぐ横に跪いた。俯いた私の顔を覗き込むように見上げた。
「ローズ、口に合いませんでしたか? 体調を崩しましたか?」
「あっ、あの、優しい味で……グスッ……美味しくて、懐かしくて……」
「ローズ……」
「この涙に……深い意味は無いのです……」
「……ローズ」
「なんだか……ごめんなさい」
膝にかけていたテーブルナプキンで涙を抑える前に、セスがハンカチで私の涙を拭いた。
セスは涙ぐんで悲しそうだし、もう何なの……。
食事中に泣き出すなんて、情緒不安定すぎる、大丈夫かしら私。
泣いた事なんて小さい時ぐらいしかないのに、あっ15歳でした!
感受性まで豊かになったの? ドライアイが治ったの? 涙が止まらない。
「ローズ、朝食が終わったら街に買い物に行きましょう」
今、それを言う? 脈絡が不明すぎ! とにかく今は……涙、止まれっ!
「ヨハン、サリ、準備をお願いします。サリは同行してくれ」
「「かしこまりました」」
「ローズ、大丈夫だから」
何が大丈夫なの? と思いながらも、涙声を聞かれたくなくて話せない、涙を止めるのに必死になった。目を赤く腫らして、なんとか朝食が終わった時には、街への外出に向けてメイド達が動き出していた。
朝食後のお茶の時には私の情緒は持ち直し、目の腫れをセスが治してくれた。治癒魔法、便利です!
ダイニングルームから部屋へ戻ると、服の掛かったワードロープと大量の箱が運び込まれていた。
「お嬢様、外出着を幾つかご用意いたしました」
「ずいぶん地厚というか厚手な物が多いのですね」
「はい、外は寒いですのでお風邪をめされないように」
ん? 外は寒い?
こちらの世界に来てから快適な気候で生活していたはずだ、春夏物のような服に、素足にミュールかサンダルで過している。窓が開いていても、肌寒いとも思わなかった。
外は寒い……。異世界の外は寒いものなんだ、そういうことにした。
用意された多数の地厚のノースリーブワンピース、コート、ブーツ、帽子、手袋等を見て思う、寒いの? 寒くないの?
こちらの世界の初めての外出なのでサリの意見を参考に選ぶことにした。
ワンピースは、淡いグリーンのシルクサテン素材、地紋がほどこされ角度によってボタタニカル柄が浮かぶ、ウエスト切り替えが無い丸首スレンダーライン、お気に入りの形だ。
首もとが寂しいけど、大きいアクセサリーもどうかな? と考えていると……私の手持ちのパールのネックレスをサリが勧めてくれた。
これは、祖母が成人のお祝いに「10年後の貴女に似合うように」とオーダーして贈ってくれたものだ。淡いグリーンパールをセンターに三個配置しチェーンで繋いだシンプルなネックレスだ。三個とはいえ、緑だとわかるこのトーンの色と大きさを揃えるのは大変だったと思う。35歳で身に付けても見劣りすることもなく、反対にフォーマル感もなく普段使いもできる優れものだ。
ホワイトグレー色のロングブーツ・セミロンググローブ・マリンキャップ、この三点は少しハードなイメージで揃えられた。
コートは、カシミヤ素材のチャコールグレー色のフード付きロングコートにした、フードの端・前立にはシルバーフォクスのファーが施されている。
コートを羽織るとモノトーンな外見になった。どれも贅沢な逸品だ!
コンコンコンコン
外出着に正装したセスが来た。黒シャツ、黒ズボン、ブルータイ、ネイビーと黒のベスト、着丈の長い黒のフロックコートが似合っている。服の金具やチェーンも手が込んでいる、格好いい!
「外出の準備ができたようだね。ローズのコートを預かろう」
「お嬢様、ストールを」
サリは私に、ホワイトグレー色のストールをかけ、帽子をかぶせた。
私は、ドレッサーの鏡でそれを確認するふりをしてケータイと吸入薬をワンピースの隠しポケットに忍ばせ、グローブを手にした。
セスが私にエスコートの手を出すと、部屋のメイド達が「いってらっしゃいませ」と頭を下げた。
セスにエスコートされ廊下を進み階段ホールに来ると、セスが立ち止まり手が離れた。
「ローズ階段を使ったことはありますか?」
「……はい、普通に使っていましたが」
「この屋敷の階段を使うのは初めてになりますね」
「そういえば……、はい」
「抱き上げなくて大丈夫ですか?」
「……はい、大丈夫です」
いや、抱き上げられるほうが怖い、他人に命を預けるようなものだ。やめてっ!
どうして、セスは寂しそうなの?
セスが先に階段を一段降り、振り向いて優しい笑顔で私に手を差し出した。
「ローズ、ゆっくり降りよう。手を」
「はい、セス様」
久しぶりの階段、初めての階段エスコート、私は一段ずつゆっくりと降りた。




