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 この世界に来て7回目の朝を迎えた。

 吸入薬を手にし、朝の吸入を行った。


 カウンターは残51。


 喘息症状が治まっているため、安定の1日1吸入が続いている。

 ベッドに入り仰向けになっても咳に中断されない良質な睡眠がとれている。

 もう一種類の吸入薬や抗アレルギー剤が無くても、今のところ大丈夫のようだ。

 連日眠れるなんて、もしかしたら身長が伸びるかも。


 至れり尽くせりの生活は、人としてどうなのかと不安にもなる。

 カレンダーや時計を見る事もなくなった。

 食器と本を持つ以外は何も持たなくなった、握力10ぐらいかな?


 プライバシーもなくなった気がする。

 召喚早々に、殺してください、毒をください、出て行きます等と不穏な言葉を使ってしまったせいだろう。あの時は、本当にそうしようと思っていた。

 思いとどまったということか? 今は不穏な感情は薄れている。


 現状維持を続けるためと変な事を色々と考えないためにと活字を追った。

 健康的な生活のため昼寝を避け、テレビやネット環境がなく、日に何度もセスが本を届けにくる。

 その結果、睡眠と食事と着替えとお茶以外の時間を読書にあてていた。


 15歳の脳と体力は素晴らしい、かなりの読書量でも眼精疲労も肩こりもない。

 あ~、頭を使った気がする。

 読書だけで、私の身分取得・生存戦略は上手く進んでいるのだろうか?

 今回は4日では終わらない長丁場だ、私の頭脳と気力は耐えられるのか?



 良質な睡眠のおかげで記憶の定着が良く、この国の事が少し解った。


 かつてこの国の動力は、魔力保有者の魔術・魔法が主力だった。200年前に石に魔力を蓄積することが可能となり、元の世界で言うところの産業革命の代わりに魔石革命を遂げて現在に至るようだ。


 身分制度は、王家を頂点に特権階級を貴族と、それ以外を平民と称している。

 貴族は、血統や国への貢献度の高い順に公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵と称号が分かれていた。上位3爵位は上位貴族と、それ以外を新興貴族と呼ぶこともある。


 200年前の事より興味深いのは、国王陛下とセスの絆についての記述だった。


 10年前このフォンテ国に政変があった、好戦的な他国も絡み情勢は混迷を極めた。王位継承権保有者は、事故死・病死・暗殺・亡命と次々と消えた。唯一生き残った継承権第七位の15歳の若きアレキサンダー王子が幽閉され、この国は終わると思われた。


 その時、アレキサンダー王子は親友のセスと共に起死回生の一手を打ち、幽閉から7日間後には戦うことなく国難をのりきり新国王に即位した。政変は内乱事件として幕を下ろした。

 二人の始まりね。


 その後、アレキサンダー新国王陛下は要職人事を刷新し国内の綱紀粛正を図った。セスは要職に就かず影で新国王を支え続け、5年もするとフォンテ国は周辺国に一目置かれる強国となっていた。

 蜜月の期間ね。


 現在、頭脳と魔術の腕を国王陛下にかわれ側近になったセスは、陛下と共に国政に当たり影の宰相とも言われている。

 側近として……共に……キャー!



 15歳の頭脳は、刺激を求めすぎている気がする。

 私、こんなにBL脳だったかしら?

 国王陛下とセスは同級生で現在25歳、あの美しすぎる見た目に反しかなり残念な実態が、そうさせる気がする。きっと、そうだろう、そういう事にしておこう。


 国王陛下の即位の誓の一つに「異世界召喚術の禁止」が掲げられていた。

 私は、異世界召喚された。完全な公約違反だ!

 でも、この国に公約違反の概念はないようだ。即位の誓は、単なる努力目標だったようだ。薄い誓いだ!


 内乱事件後に何度も法律改正され。法体系は明解なものになっていた。


 そういえば15歳で即位したあの国王陛下を近頃見かけないけど……このまま永遠にお会いしたくないなぁ~。



 朝の準備にサリ達が来る気配がない、未読の本も無い。


 ふと、目についた刺繍道具箱を開けてみた。


 刺繍用のハサミってこんなにクールなの? 手にとってチョキチョキ動かした。

 刺繍糸って、こんなに色数があって艶があって綺麗~。

 ピンクッションに刺繍が施されている、これって細かいけど手刺繍?


 プチッ 痛っ!


 刺繍針を誤って指に刺してしまった。


 その衝撃に思わず刺繍道具箱を机から落としてしまった。寝起きのボヤボヤの状態で触るべきではなかった。

 刺繍針って刺さると地味に痛い。道具を拾い片付け始めると、廊下が騒がしい。えっ何?


 カチャ・バタッ


「ローズ、大丈夫ですか?」


 セスとサリ達がバタバタと入室してきた。

 やはり、プライバシーはない。


「ローズ、手を見せて……なんてことだ、血が出ている、何がありました?」

「刺繍道具を、朝で手に力が入らなくて針を刺してしまって、慌てたら散らかってしまって……」

「すぐ治します、これから刺繍をするときは私が同席します」

「お嬢様、刺繍をするときは私どもがお手伝いしますので声をかけてください。針が散らばっていないか確認します。動かないでください」

「はい」


 なんて騒ぎだろう?

 何がどうしてこんな騒ぎに?


 セスが、私に治癒魔法を施してくれた。地味な痛みが消えた。

 セスは、傷の消えた私の指をそっと持ったまま動かない……ん?


「セス様、指は治りました、ありがとうございます。手を……手を放してください」

「……うっ……」


 セスは、小さく呻いて両膝を床について私の両手を包み込むように握り、それをセス自身の額に軽く当て俯いてしまった。


 治癒魔法の儀式?


「セス様、ありがとうございました」

「ローズ……」

「…………セス様、どうかなさいましたか?」

「ローズ、大丈夫? 怖かった、もう危ないことは止めてください」


 貴方の方が危なくて大丈夫じゃないよ、なんだか怖い……。


「はい……」

「ローズ、もう本には飽きてしまいましたか? どこかに行きたくなったのですか?」


『本に飽きる』『どこかに行きたい』の関連が判らない。この世界では、刺繍をするということは、本に飽きてどこかに行きたいということを意味するのだろうか?

 本に飽きたら違う本では? 本に飽きたから刺繍では? かつて週末廃人、引きこもりインドア派としては……どこかに行きたいという発想は皆無だ。


 異世界常識は分からないなぁ~、返事のしようがない。


「旦那様、どうか落ち着いてください。お嬢様は大丈夫ですから、朝食に致しましょう。サリ、お嬢様の準備をお願いします」


 ヨハンが、セスを引っ張り……連れ去って行った。


 う~ん? 何だったのだろう。


「サリ、なんだか騒がせてしまって……私の何がいけなかったのでしょうか?」

「お嬢様、大丈夫ですよ。朝のお召し物はどうしますか?」

「…………」

「お嬢様?」

「あっ、青系の服でお願いします。アクセサリーをロングパールにしたいです。履きなれたミュールにします。髪型は、お任せします」

「かしこまりました、お任せください」


 ブルーグレー色のコクーンワンピースにピンクパールの一連ロングネックレス、髪はハーフアップにしアクアマリンを一列に並べた細い髪飾りをして、お気に入りのライトブラウンのミュールに同色のストールを羽織った。


「旦那様がお待ちです。お嬢様、お手を」


 サリに手を引かれ、ダイニングルームに向かった。




ー 上記のもう一種類の吸入薬について ー

長期管理薬としてエアゾールソフトミストタイプの抗コリン薬を想定しています。

ー 上記の抗アレルギー剤について ー

ロイコトリエン受容体拮抗薬を想定しています。


投稿開始から約1カ月が経過しました。

早々にアクセスして、お読みいただいた方、ブックマークに登録してくださった方、評価を付けてくださった方、心からありがとうございます。   吉良 玲   


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