第146話 戻る、戻る
魔獣が見えた瞬間に息を飲む音が聞こえた。
「ま、魔獣!? 本当にいたの!?」
「走って!」
来た道を駆け戻る。
ジェリーフェイカー自体は動きは遅いが、じゃあ向かい合ったままでいいかといったらそんな事は無い。
ジェリーフェイカーが侵入してきたということは、更にその後ろに魔獣がいてもおかしくない。
「クラウゼ、実は魔法使えたりしない!?」
「じ、実践で使えるようなレベルじゃ無いわ! ……お姉様、あっちも!」
お姉様じゃない! という言葉は飲み込んで、曲がり角から現れた新たな魔獣から逃げる。
「コボルトですわ!」
その言葉に立ち止まり、一匹だけならとお互い目を合わせたが。
「いけ……無いか……!」
蹴って倒せない事もない……かと思ったが、奥から一匹、二匹と現れて来たために諦めた。
これからどれくらい増えるかわからない。
授業では、魔獣と徒手空拳で戦う術は教えられない。武器を持たない場合は、魔法が使える事前提の戦い方を教えてくれる。
生身で魔獣に立ち向かう馬鹿はいない、という事だ。
しかし、次に現れたのはコボルトか。
これが足の速い犬系の魔獣だったらかなり危なかった。
それだけで詰みになりかねない。
「もー! またぁ!?」
「こっちです、お姉様ぁ!」
これでまた一つ道が使えなくなった。
そうこうしているうちに。
「ここ、さっきの所では!?」
「戻ってきた……みたいね!」
走り抜けながら話す。
お互い真っ当に魔獣と戦う術を持ってはいないけれど、体力だけは授業できっちり身に着けさせられるので、アタシはともかくクラウゼもまだまだ体力には余裕がある。
話しをしていても息切れの予感はまだ無さそうなのは救いか。
お茶会を開いた部屋の前を通り抜けた。
人は誰も見かけない。不思議と誰ともすれ違わない。
そう言うと、すでに夜も遅いですからね、という言葉に頷く。
幸いな事。だけれど……!
「っく! 他学年の生徒でも見つかれば……!」
「上位学年でしたら、魔法を使えるかもしれませんからね……」
まだ魔法で戦える可能性が出てくるというのに、と歯がみする。
「ど、何処かの部屋に隠れますか!?」
「……流石にリスクが高すぎる。武器があれば……」
部屋を通り過ぎた先。次のT字路でやはり片方から魔獣が現れる。
足の速い魔獣が出ないのは助かるけれど!
何処かに誘導されている感はある。
魔獣もこっちが走れば確実に追いつけない魔獣ばかりで、誰ともすれ違わなければ、外が大騒ぎという気配も無いのは流石に異常だ。
これで何かの思惑が無いなんてそりゃもう嘘だろう。
魔獣が現れてはまた道を変える。
学園の廊下は今もまだずっと明るく、いつも通りの夜にしか見えない。
アタシはなんだかんだ魔獣とやり合う機会が多いため、正直精神的なプレッシャーは少ないが……。
授業以外ではやり合ったことの無いクラウゼは大変だろう。それでも冷静さを失わずに行動する点は賞賛に値出来る。
いざとなればクラウゼを、身を挺してでも助けなければ。
そして、ふと。
天啓のような物を得る。
……この先は、もしかしたら。
誘導されているかもしれないこの先に対して、ある光景を思い出す。
お茶会の終わりだし、運が良ければ、あるいは……!
無いよりマシな武器が手に入るかもしれない!
「武器、見つかるかも!」
「え!? 模擬専用の剣とか、ここら辺にありましたっけ!」
「そっちじゃないけどね! それに、恐らく期待している物でもないけれど!」
「謎ときですかぁ!?」
武器の名前を告げたら不安にさせそうだ、と思いながらも正体を告げると、正気ですか!? とクラウゼから言われた。
アタシは正気であると、走りながら答える。
武器としては心許ないけれど、あの場所にはおそらく、アレが置いてあるはずだ。
クラウゼも、不安そうではあったがその点は同意してくれたようだった。
2月は展開を考えるためにお休み……という期間でしたが、仕事の稼働が最高潮に達して土曜出勤もしていたのでかなり助かりました。(時間はまったく割けませんでした(
今回は短めですが、またお付き合いよろしくお願い致します。
次回は来週の土曜深夜予定となりますー。




