第143話 焼けるような視線を感じて
放課後。
先週からお馴染みになりかけているお茶会のお誘いを表向き快諾して参加すると、今日は熱心に話しかけてくるライリー=ローレンが静かな事に気が付く。
いや、静かというか、喋っていないだけで凄いそわそわしているのがわかる。
最初に勢いよくこのお茶会に誘ってくれたのは彼女なんだけれど……と思ったが、話したくない、のではなく、話したくて話したくてしょうがない、といった表情だ。
彼女の動作はかなりキビキビとしている。
口を開かずに各位が席に着くのを待ちつつも、所々で指揮者のように手で指示を出していく。
その動きに淀みはない。
指揮する方もそうだけれど、阿吽の呼吸で動く少女達も凄い。
元から準備が出来ていたテーブルが更に完璧に仕上がっていく。
そうして、まるで爆発する直前の爆弾のような危うさを維持したまま、全員が席に着くのを見計らってから、ようやく口を開いた。
「……よろしいですわね?」
嵐の前の静けさ。
隣に座っているため、表情はうかがえないが、あれだけ浮かんでいた焦りの気配というものが、ライリー=ローレンからは消え去っていた。
静まり返るテーブル。
他の人達も楽しんでいるお茶会の部屋なのに、何故かここだけ異様な雰囲気だ。
空気が伝染してか、さっきまで楽しそうに話していた隣のグループも何故か神妙な感じになっている。
「問題ありませんわ。ねぇ、皆さん」
自分よりも学年は先輩(年齢は同年代?)の女性がテーブルのメンバーを見渡すと、
「はい!」
という声が静かに、しかし力強く響いた。
そうして、火蓋を切られた。
「メルベリ様! メルベリ様! 聞きましたよ聞きましたよお話はしっかりお聞きしましたわ! 是非ともメルベリ様の口から真相を、真実を! 実体験をお聞きしたいのです!」
「あ、はい」
初めからフルスロットル、がばりと隣に顔を向けて前のめりに聞いてくるので、思わず背中を反らしそうになった。
聞いた、そしてこれほど興奮しているということは……ラブレターの件だろう。
自分はゼン様や神楽、フィオレンティーノ・ジャイルズといった原作キャラ達と違って目立つような存在では無いとは思っているものの、自分に対してここに居るメンバーが好意的に思っており、またファン心理そのものは理解は出来る。
ようは、アイドルが私生活でラブレターを貰ったという情報が出た時の真理というか、まぁまさにそのような感じ……なのだろう。多分。
それはそれとして他人の色恋沙汰は面白いもんね。
私もよく学生時代はキャーキャー言っていたよ、雰囲気で。
同人イベントではギャーギャー言っていたよ、興奮して。
作中、ジャイルズだって顔の良いショタキャラだ。
神楽が近づくとやっぱりやっかみを貰うイベントはあった。
ゼン様は大規模なファンクラブみたいなものが存在するものの、ラブレターを貰うような描写は無かった。
……いや、誰かが先んじて動こうとすれば周囲の牽制がイジメという形で表面化するぐらいの過激派もいるのだから、誰も出せるわけがなかったのだが。
だから神楽にゼン様が近づいただけで、原作はイジメイベントが起きたわけだし。
ただゼン様は、学生同士では無くて親同士……多数の名家から結婚のラブコールは多数貰っていた設定はある。
どれもコレも適当に投げ捨てていたらしいが、神楽が学園に来てからはもはや一瞥もしてない・認識に無いのではと思う。
設定資料以外でこの情報は出てこないもの。
しかしまぁ耳の早い事だ。
背を向けている後ろの女子から早く聞いてくださいよ! とばかりに熱視線を感じる。
ついでにいえば真っ正面から……全周囲からも感じる。
テーブルに座る子達の目が何時の間にかに異様に熱い。
ウチのクラスから始まって、他の学年も巻き込むまでに一日も経たない噂の伝染能力にはびびるしかない。
SNSも直ぐにやりとりする装置も無いのだ、この世界には。
彼女達はどうやって情報を回してるんだろう。
観念するように口を開く。
「あまり面白い話ではありませんが……」
「何を仰いますか!」
そういってライリーが机を叩いて立ち上がると、乙女にあるまじき握りこぶしを突き上げた姿勢で言った。
「首無し騎士との手に汗握る激しい戦闘・冒険譚! これの何処につまらない要素があるのですか!!!!」
あ、そっち?
という顔をしたアタシを、誰も責める事は出来ないと思う。
次の更新は引き続き土曜深夜です。
何月頃に一ヶ月ぐらい停止するか様子見中です。




