第142話 どうしよっか
「……やっぱり、そう思いますか?」
「見てしまってすみません……それと、そう思わない人の方が少ないと思いますよ……!?」
静かに慌てるという器用な事をするクラリッサ。
声を潜めて会話をしているが、明らかに教室の空気が一瞬変わった気がした。
今は何事も無かったかのようにざわめきが戻っている。
これがもし、クラスメイト達と仲の良い子なら、きっと人が集まってきてお祭り騒ぎになるかも――いやこの学園の子達はそこまでいかないか――知れないが、残念ながらアタシは何となく距離感のある扱いを受けているため、そういう自体になっていない。
まぁ、変に騒ぎにならいよりかはそっとしておいてくれた方がありがたいのは確かだ。
……メルベリは自覚が無かったが、高嶺の花という立場にいるメルベリに対して、誰かが不遜にも抜け駆けをしようとしたのではないか、という事を確認しようとしただけだった。
手紙の主が女子学生である可能性が高いことをクラスメイトは知らない。
年齢が高めの男子学生達は興味深そうに、そうではない学生達はやや焦ったように周囲を見渡していた。
……反して、女子達は一様に敵意の籠もった目で男子学生を見ていたが、幸いにも、男子学生がそれに気づく余裕は無かった。
うっかりとクラリッサがラブレターだと口を零してしまったが、流石に教室内でこの話題を口に出したくない。
もしかしたら手紙を出した主がいるかも知れないし。
本人が居るかも知れないところでこそこそと話をするのはあまり良くないだろう。
そのため、ちょっと廊下へ行こうかと声を掛けると素直についてきた。
視線も少しついてきたようだったけれど、廊下にまで来る子はいないようだ。
……のだが、クラリッサが何かが足りないとばかりに周囲を見る。
「そういえばルカが居ないですね?」
「今お手洗いにいっていますよ」
「あー、それは、良かったのか悪かったのか……」
クラリッサが何故だか真剣に悩む。
この後、話しておこう。たぶん驚く。
それはそれとして、反応的にこの手紙の差出人は少なくともクラリッサでは無いのだろう。
何となくだけれど、普段話す長月達や、原作のイジメ主犯格として振るわなければならなかったクラウゼでは無さそうだ。
「ちょっと明後日が楽しみになりますね」
「……!? た、楽しみって……!」
ゴクリと息を飲むと、顔を赤らめながらテンパったように問われる。
「あ、あの、もももしかして、お付き合いされたり、とか……!?」
「流石に相手もわからないのにそれは無いですよ」
無い無いとばかりに笑うと、クラリッサも釣られて笑う。
「……ですよね!」
「でも、お友達としてからなら、あるかもしれませんね」
「え」
そういって、ちょっとだけ雰囲気を変えてクスリと笑うと、クラリッサの顔が笑顔で固まった。
「まぁ、私はお付き合いするなら男性と、と考えているので、この手紙の方とはお付き合い出来ないと思います。字から見てきっと女性でしょう」
「そうですか」
まぁ良くてお友達としてのお付き合いだけで、カップルとして付き合うことは無いだろう。
字的に女子であるだろうし、そうなるとお付き合いしたい、と言われてもアタシは断るしかない。
お付き合いする相手は男子にしたいものだ。
とはいえ、本当に来たのが男子だったらどうするか。
「……仮に、ですよ。その手紙の主が男性だったら……どうするんですか?」
そう考えていると、クラリッサから思考を読んだかのようにピンポイントで質問が来る。
「んー。そうですねぇ……」
腕を組み、真面目に考えてみても。
……付き合うなら男子とはいったものの、前世から男の気配はからっきしなので、情けないことに想像が付かない。
推している男性はいるが、それは香月院ゼン様であって、崇める対象なのであって、付き合いたいとかは恐れ多くて考えることすらしたくない。
あとは他のメインキャラクターとだって付き合いたいとは考えられない。
性格が悪いか、マッチョか、ショタだ。偏りが酷すぎる。
誰もが一癖も二癖もあるし……原作にガッツリ干渉することになるのが特にイヤだ。
そもそも、アタシなんぞを選ぶ事は永遠に無かろう。
普通に考えると、容貌や性格といったものの好みが多分に影響するのだろうが、いまいち自分の望みが分からない。
アタシとしても守って貰いたいかも、的な乙女な望みは薄らとあるので……強いて言えば……。
「……とりあえず、私に勝てるぐらいの人が良いですね」
「それは無理だと思います」
「なんで即答」
即答されたのは、ちょっと納得がいかなかった。
いや、この世界にはゼン様だっているし、遠距離から魔法で撃たれ続けたらアタシだって勝てる戦いも勝てないんだけれど。
「私は別に無敵では……」
「あ、授業の時間ですね。ルカも戻ってきましたし、教室に戻りましょうか。――――授業始まるよ、ルカー」
「……はい」
男性と付き合うことはなさそうですね、という顔になったクラリッサをちょっと恨めしそうに見ながら、渋々教室へと戻り始める。
アタシだって付き合えるのなら付き合って見たいが、今のクラスメイトからの扱いを見ていると、きっと在学中に彼氏が出来るような事態になることは無いだろう。
教室のドアをくぐるその間際に神楽がとててと駆け寄ってくる。
「オリヴィアさん、クラリッサさんと何のお話をされてたんですか?」
「ちょっとしたお手紙を貰ったから、どうしたもんかなって」
「お手紙……?」
「でもなんか……釈然としない終わりになったんだよ」
「?」
神楽が不思議そうな顔で目をパチパチとしているが――――また後でね、と声を掛けると、魔獣学の準備を始めるのだった。
ふと、たぶん在学中に彼氏が出来て色々と一抜けするのは神楽であることに気がついたが……。
相手があのゼン様であると思うと、特に抜け駆けされたとか、そういう気持ちは抱かず、ただただ、推しが幸せになるなら全部オッケーかな、という気持ちを抱くだけであった。
次の更新は来週の土曜深夜ですー。
今年もよろしくお願い致します(前回書いてなかったなと。




