表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/261

第140話 あの子の為に

「ど、どうしたの!?」

「また発作です……!」


 倒れた少女に慌てるアタシに対し、店員の女性は苦々しい表情だが、そこには見慣れた様子があった。


「こういう事は、よくあるんですか……!?」

「ええ。昔はそれこそ、人が常に居ないといけないぐらいだったんです。ただ、ここ最近は症状も軽くなりつつあって、普通に動く分には問題が無さそうだったのに……!」


 明らかに軽いという様子では無い。


「何か、どこか病院に運んだほうが!?」

「……この子の病気は特殊なんです。お付きの人がいるはずなので」


 と店員が言いかけたところで、誰かが走ってくる。

 

「――――お嬢様!」


 その言葉から、この人が言っていたお付きの人だとわかった。

 

 店員が抱き上げていた少女を慣れた手つきで抱き直す。

 その仕草には愛情が見えた。

 長い付き合いなのだろう。心配そうに表情が歪んでいる。

 少女は、ちょっとだけ安心したような表情になると、彼女の服を摘まんだ。

 それだけでお互いの信頼関係は見える。


「倒れてからの時間は!?」

「先ほど倒れたばかりです!」

「それならまだ良かっ、た……!?」


 お付きの人が女性店員と話をした後、そっと後ろに下がったアタシを見て――いや、アタシの何かを見て驚愕の表情を見せる。

 

「こんなことが……! これも神の采配でしょうか……! そこの貴女!」

「は、はい?」


 少女を抱きながらすっと立ち上がると、アタシに対してずんずんと詰め寄ってきて。


「――――取り急ぎお話があります。私達の家まで、ご同行お願い致します」


 鬼気迫る様子で言われる。

 彼女の目には焦りと……希望? のような物が見える。

 何かしらの罠も一瞬疑ったけれど、少女が見せた信頼の証しを見て消し去る。

 少女との付き合いはまだ片手で数えるほどしかない。

 それでも、少女に対する恩返しが少しでも出来るなら――――。

 

「お手伝い出来る事があれば、喜んで!」


 言うや否や、ついてきてください! と駆け出す。

 店員に詫びを入れると、アタシも彼女の後を追って走り出した。




 彼女達の家は、走って数分もすれば辿り着いた。

 行動範囲はそんなに大きく出来ないのだろう。

 

 ……驚いたのはこの付き人の体力だ。

 

 この世界の人達は容易く現代の人間を凌駕するパフォーマンスを得る事が出来るが、それでも少女一人を抱きしめて全力疾走し、軽く息を整える程度で済むというのは、相応の訓練をした人である。

 後ろから見る限り、少女が揺れないよう注意もしていたように見える。

 開拓者達は問題無いだろうが、街中の人達が出来るかというと疑問が残る。

 ……こんなレベルの人を雇っているなんて、思ったより高貴な子なんだろうか。

 それにしては服は普通の少女だし、街をふらふらと歩いている様子からは想像しづらい。


 少女の家は普通の集合住宅だ。マンションとかそういうのではなくて、2階建てであっても上と下で住民が違うとかそういう類いのヤツ。この街では一般的なので、直前に高貴な人かと想像した分だけ落差がある。

 玄関を開ける際に、器用に片手で鍵を取り出してドアを開ける仕草は、この少女の発作が少なくない回数、起こっている事を思わせた。


 そこから怒濤の勢いで室内に流れ込み、ベッドに少女をそっと寝かしつけると、フラスコやら蒸留器やらアルコールランプのようなものやらが並んだ薬剤室となっている一角から何かの粉末を持ってくると、それを水と一緒に少女に飲ませた。


 それで様子が落ち着くのだろう……と思っていたのだけれど。


「……これも、効き目が落ちましたか」

「うう……ん……」


 少女の意識は朦朧としたままだ。

 見た限り、苦しそうな様子が減ったのか、アタシではよくわからない。だが、お付きの人の様子を見る限り、あまり良い結果では無いらしい。

 お嬢様、と静かに声を掛けていたが、返答は無かった。

 ふぅとため息を吐くと、アタシへと向き直る。


「……少し、お話をしましょう。お嬢様へはこれ以上の対処が出来ません。そちらへお座りください」

「はい」


 部屋に置かれている二人掛けのテーブルに座る。

 いったいアタシに何を要求するのだろうか。


「単刀直入に申し上げます。……お持ちであるエレン草。その買い取りを行わせてください」

「エレン草……?」

「そこに括り付けていらっしゃる草になります。……まさか、ご存じ無い?」


 そういって指さしたのは、アタシの小さめのバックパックに括り付けてある草である。

 これは例の……フィオレンティーノ・ジャイルズの妹イベントで入手する薬草だ。

 市場に流通する分は引き渡したものの、幾つかは拝借させてもらった。

 もしかしたら、ジャイルズに引き渡して妹イベントを進めようかとか思っていたりもしたが。


「……まさか、魔感知力が暴走する病気なので?」

「ご存じでしたか! ……お嬢様は魔力過剰反応症を身に患っております。あともう一年か二年。それだけ持てば、体力も十分に付くはずなのです……そう、普通の薬が使えるほどに……。しかし、今年を超えれるかは……!」


 恐らく、ジャイルズの妹と同じ病気だろう。正式名称はそんな名前なんだ。

 大人では大丈夫という説明が作中にあったけれど、子供が使える薬では無いのか。

 その口ぶり、表情からは苦しみが見える。


「しかし!」

「うわ」


 と手をがしっと掴んでくる。

 

「そのエレン草だけでもあれば、数ヶ月は耐えられる薬になるのです……! まだ希望は次につなげられる……! 今月と来月の不安をなくす事が出来るのです……! ですから、どうか……!」

「わかりました」


 その必死に懇願する様子を見て、本当に少女の安否を気にしてしょうがないという事がわかる。

 ここでアタシが出し渋る、なんてことは意味が無いし、するつもりは無い。

 ジャイルズの妹救済イベントに関しては、市場に流れたので正しく行き渡ることだろう。

 元々ジャイルズがこの国に来た理由の一つなのだ、彼のアンテナには直ぐに引っかかるだろう。

 手に入れていた薬草は、きっとこの少女に使う為にある。


「こちらをお渡しします」

「ありがとうございます! お代は金貨で……」

「いやいや、そんなに受け取れませんよ!? タダで良いですから!」

「そんな!? 無料でなんていけません! 貴女に報いねばならないのですよ!? その貴重な薬草に対する正当な対価を……!」


 といって提示された額は、買い取って貰った薬草の数倍の価格だ。

 それも買い取って貰った全体額に対して、だ。

 それに、誤解しているが。


「あの、ここで高額に買わなくても、エレン草ならこの後流通しますよ? クエストで入手したのを市場に流して頂いたので……」

「なんと!? それはほ、っほんとですか!?」


 目を見開く様子。

 まぁ、身内が病で何時死ぬかわからない……のが、何となるというのがわかったらこうもなる。

 涙ぐむ女性に、エレン草とやらを渡す。

 この分量で数ヶ月持つなら、今後も問題無く、普通の薬が使える頃になるまでは生きていけるだろう。

 市場に流れる予定の量はこんな比ではないからだ。ジャイルズの妹だって余裕だろう。


「これは私が個人的に手に入れていた物なのでお代は良いです。私はもう、この薬草に関しては別件で金銭を得ていますし……」


 何より、とベッドで寝ているだろう少女へと視線を向ける。


「彼女には恩がありますから。受けた恩を返したらお代を頂いた……っていうのは、ダメでしょう?」

「……そうですね」


 笑みを浮かべながらそう言うと、希望を見つけたような笑みでありがとうございます、と静かに告げ、薬草を受け取ってくれた。

 ……少女に何か恩を返せないかと思っていたけれど、こうして力になれたなら良かった。

 薬草を持って調合代へと向かった女性へと言う。


「私はもう帰ります。この後調合されるんでしょう? この子の邪魔になりそうなのは避けたいですし、これでもクエスト帰りですので……」

「それは……お疲れでしたでしょうに、無理矢理こちらへお連れしてしまい、大変失礼致しました」

「この子と元気に遊べるならこの程度問題ありませんよ」

「本当に、本当にありがとうございました!」


 それでは、と告げると、感謝の言葉と共に深く礼をされる。

 それに口元を緩めると、家から去った。


「……良かった」


 ジャイルズのイベントの為とはいえ、こうして無関係な人も助かって。

 ふと、お互いの名前の交換もせずに出てきてしまったなと、街中を歩きながら思う。

 確か、彼女の名前はシズエ……という名前だったはず。

 前に少女がそう呟いていた。

 何時か、少女の名前を知らねば。

 今度、元気になった少女と出会うとき、ちゃんと名前の交換をしよう。


 そう決めると、晴れ晴れとした気分で歩き出した。


 

  ◆ ◆ ◆

 

 side - シズエ


 お嬢様の様態は見る間に良くなった。

 手元の材料だけでは不安を消え去る事は無いけれど、彼女の話では十分な量が市場に流れるという。

 ならば、不安はいずれ消え去るだろう。

 主であるこの子の兄の心労も消える事だろう。

 任務に合わせてヨルム王国へお嬢様を連れて行くのはこの薬草の為だったから。


 そっとお嬢様の頬に触れると、普段の高熱が無い。

 穏やかな呼吸。

 それだけで笑みがこぼれて止まらない。


 どれだけそうしていただろうか。

 気がつくと、この家の主が帰ってくる音が聞こえた。

 私は正しくはメイドでは無いけれど、こうして家の事を任されているとメイドも悪くないな、と思う。

 ベッドから立ち上がると、小柄な主へと歓喜の表情でお迎えをした。


「お帰りなさいませ――――()()()()()()()()()()()()()()様」

「ただいま。その堅苦しい挨拶はやめてっていったよね――――って、何か妙に嬉しそうだね。エウレシアが何かしたのかな?」

「ええ、ええ! 実は……!」

今年もお付き合い頂き、ありがとうございました。

先週はSEKIR○はやんなかったですが、ED○6はやってました。

次の更新は1月2日(月)になりますー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ