第137話 人斬り女
思わずアランの顔を凝視すると、すっと視線を逸らされた。
顔はやや赤い。
どんな心変わりがあったのだろうか。
反抗期だった近所の少年が、ある日を境にピタッと収まったかのような衝撃がある。
「どうして謝るの?」
「その、今まで……」
そこで一度言葉を止める。
わかるわー。今までの自分の態度を振り返って認めて答えるのって大変だよね。
今世では経験が無いけれど、うんうんと前世の経験を振り返る今のアタシは確実におばちゃんかもしれない。
何処に長剣を脇に置いてソファに座るおばちゃんがいるのか。
そんなアタシなどは置いておいて、アランが口を重そうに開く。
表情もバツが悪そうである。
「結構当たりがキツかっただろ……」
「よくぞ言えた……」
「あ?」
おっと、思わず口に出してしまった。
しかしまぁ、なんだかんだでアランの態度は軟化していたのだ。
当初の、『何も知らねぇお嬢様風情が』みたいな態度から見てみれば。
「別に気にしてはいなかったですが……当たりが柔らかくなるなら私としては楽で良いですね」
深刻そうな顔をしているが、アタシとしてはこの程度の認識だ。
アランの表情が、ホッとしたような、拍子抜けしたような感じに切り替わる。
「……お前もちょっとは気にしろよ」
「価値観の違いはありますからね。でも、どうして今回から態度を軟化させたんですか?」
「……」
また黙る。
ただ、今度の沈黙は何かを思い出すかのような沈黙だ。
今日の流れでも振り返っているのだろうか。
小さく――いや思ったより大きかったけれど――、他の開拓者達が料理を楽しんでいる声が聞こえる。
ジェラルがいないのは来ないよう伝えているのだろうか。
アランとジェラルはセットのイメージだ。
「お前があそこまで強いとは思ってもいなかった」
「……はぁ?」
思わず素の口調で見る。
が、アランは真面目な顔でこっちと、あとアタシの剣を見ている。
何かをなぞるような視線で剣を見ては目を瞑った。
「首無し騎士と切り結ぶなんて尋常じゃない。俺は後ろから見てただけだが、ぞっとするような速度で飛んでくる大剣を、お前は物怖じせずに迎え撃った。あんなことが出来る開拓者は、俺は誰も知らない。ちゃんと強いってことがわかった。強いヤツなら認めないといけねぇだろ」
そうしみじみと言うが……理屈が男の子って感じだ。
それに、アタシが戦ってる様子は何度か見ているはずだが。
「ええっと、それだけが理由なの? 私が戦っている姿なんて、何度か見ているよね? それでわからない?」
「はぁ?」
今度の『はぁ?』はアランの言葉だ。
しかも心底バカにした感じの。
アタシの言葉に頭を痛むように振る。
あのな、と前置きをした上で。
「今までやってた魔獣狩りの、何処にそんな尊敬出来る要素があるっていうんだよ。バカみたいに動けるのにバカみたいに攻撃を外すわ躊躇するわ。おまけに相手のカスみたいな攻撃に何歩も後ろに下がりやがって。攻撃や立ち居振る舞いはジェラルの方がマシって状態だったんだぞ、お前は。アギトさんが連れてきた女性開拓者ってだけで腹立つのに、魔獣との戦いはへっぴり腰だった姿を見てどれほど俺が苛立ったかなんて知らねぇだろ」
「私が把握出来ない事で苛立たれてもそれで? としか言えないわよ。……魔獣との戦いは返す言葉が無いけれど」
「そうだな」
言いがかりである事もすでに自身に飲み込んだわけか。
男子三日会わざれば刮目して見よという言葉があるけれど、この唐突に変わったアランはかなり新鮮だ。
男の子ってのは成長が早くて困るね。
「でも、いったいどんな動体視力してりゃ、あの剣戟を防げんだ? というか、どんだけ鍛えてるんだよ、メルベリはよ。学園にいる連中が開拓者になるってのはよく見かけるけど、お前はなんか違う」
「乙女のたしなみぐらいしか鍛えてないわよ。あとは経験だけは積んでいるからね、私は」
「ふん?」
ふと、眉根を寄せて思い出す表情。
悩む素振りを見せてから、そもそもだけどよ、と切り出される。
「なんで首無し騎士とは戦えたんだよ。メルベリは魔獣相手には禄に戦えてなかっただろ。動きが違い過ぎるんだよ。同じ魔獣だろ? なぁ、何でだ?」
そんな事か。アタシとしては明々白々だが。
「何故って……首無し騎士は魔獣とは違うじゃない」
「魔獣とは違う? ……魔獣だろ、アレは」
あれを魔獣と見なすのか。
そういう感覚は無いなぁ。
この世界の人達は、人の括りから外れてると魔獣として強く認識出来るって事なのだろう。
「いやいや、そうじゃなくて。アレは人型じゃない。だったら、人として相対すれば大丈夫でしょう? 人を倒すようにやれば良かったのだから、やっぱり今までの魔獣とは違うわよ――――慣れた相手が一番よねぇ、戦うなら。勿論、腕の可動範囲とか、首が無いとかは困ったけどね」
「……そうか」
そう答えると、数秒思案した後、アランの顔からやや血の気が引いていくように感じた。
どうしたのと尋ねるより早く、アランが急に『飯が冷めるからいこうぜ』と言い出すもんなので、尋ねる機会を逃してしまうことになった。
次の更新は引き続き土曜深夜となります。
いったん一ヶ月ほど更新を止めるのは1月か、2月かどっちにしようか検討中です。
まぁ進捗を見て決めます。




