第136話 緊張が抜けた時
遺跡から脱出したアタシ達は一息吐いた後、セーフティハウスへと戻った。
セーフティハウスに残っていたクエスト仲介所の職員に今回の顛末を説明したところ、かなり顔を青ざめていたが、こちらに欠員が居なかった事を報告すると少しだけほっとした表情へと戻る。
あまりに想像していない事態になってしまった事に鳴ってしまったことを謝罪されるまでになってしまった。
が、誰も、何十年も生活感の無い廃墟の、奥のシャッターを開けたら魔獣が居ました、なんて思わないと思う。
本来ならすぐにでも街に戻る予定だったが、脱出組だった人達の一部が精神的にとても疲労していたこともあり、少しの間談笑することになった。
「なら、ついでにできるだけ首無し騎士の素材は回収してくるか」
とはここのリーダーの言である。
遺跡のために持っていた荷物を全てセーフティハウスに置いた完全に空荷した状態で、体力が残っている面々を引き連れて再び遺跡へと向かっていった。
あの遺跡に向かうような開拓者は今いない――だからアタシ達が引き受けたのだが――ものの、貴重な強い魔獣の素材をそのままにしておくつもりはないらしい。
ゼン様に買い取って貰った魔道具だけでは満足せず、しっかりと稼いでいく姿勢は手慣れた開拓者の姿だ。
そんな中で、ひとしきりリラックスムードが漂い始めたセーフティハウス内に漂い始めた、焼けるお肉の良い匂い。
調味料を使ってあるのか、ただ焼いてあるだけでは出せない、実に食欲をそそる臭いがする。
お腹がぎゅーっと思い出したように鳴り始める。
神楽達もお昼ご飯を楽しんでいる頃だろうか。
なお、セーフティハウスにはゼン様と神楽は居ない。
花……薬草を回収する件に関しては、地上に戻ってきたゼン様に薬草の話をすると一瞬で持ち帰るよう便宜を図って貰える事になった。
判断を迷う素振りもみせず、一瞬でこちらの事情……つまり、荷の使用権を持っていない事も察して貰ったようだった。薬草はゼン様達が使った馬車に乗せて頂けるらしい。
さらには後日売買した時に出たお金は支払って頂けるという。
運んで頂いた上、更にそこまでして頂くのは……! とお伝えしたけれど、ゼン様としてはついでなので気にするなとの事だ。
手間賃代として受け取って貰えればと思ったけれど、その程度のお金は要らないらしい。
薬草は売買後、しかるべき手順で市場に一部流すらしい。
……貴重な薬草ではあるので、普通に良いお値段で売れると思うのだけれど。
しばらくはお昼ご飯を豪華にしても良いぐらいになるとそれはそれで嬉しいが。
だが、こちらの依頼を聞いた、その代わりというわけでは無いと思うのだけれど……。
「……ルカが、君に付いていかないように言ってくれないか?」
という、苦渋の声を滲ませた相談を受けたため、慌てて、どんな事が見つかるか後で教えてねと、神楽にこの後のゼン様との散策を楽しむよう、必死に意識をすり込んだ。
その甲斐あってかは知らないが、ゼン様と神楽はそのまま当初の目的を続行するとのことだ。
イベント、もとい遺跡を楽しむようで、神楽とのびのびと周辺を歩いたり、遺跡の中をまた見回ったりするらしい。
神楽のルートがゼン様ルートであることは引き続き確定だが、フィオレンティーオ・ジャイルズのルートでしか救われ無さそうだった妹さんも、これで救われたりするのだろうか。
アタシも残って二人の散策イベントを見たい! と思ってはいたが、別件のクエストを進行中の身だし、一人だけ途中から別行動なんて常識がなさ過ぎるし、……何より、アタシが居たら神楽がアタシにばかり話し掛ける事になりそうな気配がしたので、断腸の思いでゼン様達を見送った。
ソファに背を預けて完全に脱力しているアタシの傍に近寄る足音。
「メルベリ。肉が焼けたぞ、お前も食うだろう?」
「……ありがと。後で食べに行くわよ」
「直ぐ来ないと無くなるぞ」
アランが以前よりもラフに話し掛けてくる。
傍にはジェラルが居ない。
手にはお皿を持っていて、確かに美味しそうなお肉がほかほかと湯気を立てていた。
そして、何故か、アタシの近くにあるテーブルに皿を置くと、椅子をガタリと引いて座る。
フォークも置いてしまい、テーブルに片肘をついて顎を載せる。
「……」
「……」
妙な沈黙。
話し掛けたいような、そうじゃないような……そんな空気が漂ってくる。
沈黙は数十秒程度か。
「悪かった」
そう、アランが口にした。
短め。次の更新も土曜深夜予定です。
最近はやりたいゲームが多すぎて嬉しい悲鳴が。今は地球を守ったり畑を耕したりしてます。




