第133話 見逃したイベント?
知り合いだと分かると、開拓者全員の気が抜けていく。
リーダーは逆に緊張しているようだけれど。どうやら、ゼン様についてはある程度知っているようだ。まぁそうなると緊張もする。
安堵9割の気配を背後に感じながら問いかける。
「何故こんなところへ?」
「ルカと気分転換に遠出をしに来ただけだ」
そう言いながら、珍しそうに周囲を見ている。
香月院ゼン様と神楽ルカの遠出……?
何となく、覚えるのあるフレーズだ。
「あ……」
脳裏を過る、原作ゲームの設定。
魔森林へと足を運び、遺跡でピクニックをする、ゼン様と神楽にフィオレンティーノ・ジャイルズのスチル。
ピクニックと称して遊びに行くシーン……!
それって……原作イベントじゃない……!
まさか、こんな所で発生するなんて!
ゼン様ルートの場合はゼン様と、フィオのルートの場合はフィオとの間で専用イベントが挟まれる。
特にフィオの方は物語の根幹を成すようなイベントだ。
この世界では間違いなくゼン様ルートを通っているので、発生するのは前者のはず……!?
思わず、顔が某麻雀キャラのようになりかけてしまう。
見たかった! 遠くから、それでいて近くからそのイベントを見たかった……!
顔が凍り、頬が引きつけを起こしそうになる。
無論、ゼン様はアタシの不自然な様子に気づかない。いや、気づかせないようにアタシが頑張っているだけだけれど。
今歩き出したら、手足が一緒に動く気がする。
「前から目星を付けていた遺跡へと足を運んでみたら、先着がいて、助けを請われた、というわけだ。ルカも――「オリヴィアさん!」」
ゼン様の後ろから駆けてきたのは神楽だ。
軽快に走ってきたかと思うと、アタシに抱きつこうとした――ので、ひょいと躱す。
「どうして避けるんですか?」
つんのめった神楽に恨めしそうに言われる。
その目には心配したんですよという気持ちが見えるけれど……。
「私、派手に体を動かしていたし、汗臭いから……」
「別にいいじゃないですか」
もう、という感じの顔。その耳元にそっと口を寄せる。
他人がいる以上――更に言えばゼン様もいる以上――雑な言葉使いは見せる事は出来ない。
「あのね、今度アンタが走った後に同じ事しようか?」
「……すみませんでした」
「わかればよろしい!」
「でも、本当に無事で良かったです」
そういうと、まるでそこが定位置のようにアタシの横に佇む。
が、それをゼン様がちょっと眉を寄せてみている。
ゼン様が誘ったのに、どうしてアタシの傍にいるのか、といったところだろうか。
いや、アタシとしてもそっちいってよ!? って思うんですけれど!
ゼン様は、神楽が楽しそうなのでその件には特に口を挟む事も無く続ける。
「……まぁ、こういうわけでな。ルカもそこまで来ていたんだ」
「となると、ジャイルズさんは上で待機ですか?」
「……? なんでそこでヤツの名前が出るんだ?」
不思議そうな表情をされる。
アタシとしては、原作との乖離に少しだけ動揺した。
大筋の流れは同じとはいえ、変化は起きている。
蝶が羽ばたく様の瞬間を目撃したかのような動揺が胸を襲った。
今までを振り返ればそれはそうなるだろう、という結論しか出ないけれども。
学園で起きているお茶会事件だってあれは本来は神楽限定なわけだし。
しかし、主要キャラ三人が揃うピクニックイベントで差異が出るとは。
……今回の神楽達のイベントが、本当に原作イベントだとすれば。
遺跡の入り口に戻った後、周囲を探せばあるはずだ。
それを確認するまでは、実は今回のイベントが原作イベントではなかった、という事になる。
心を落ち着かせて、先ほどよりも意図的に、動揺が表に出ないように答えた。
「あ、いえ。何となく、です。放課後はよく三人で訓練しているのを見ていましたから」
そう告げると、ゼン様が少しだけ眉根を寄せた。
放課後、神楽と二人で居たいのにフィオが邪魔している光景でも思い浮かべているのだろう。
「ルカと二人きりになる時間だ。邪魔をされては堪らない。魔森林ならば、オレ一人でもルカを守り切れる以上、戦力としても必要としていない」
「失礼しました」
「ちょっといいか? 話がしたい」
そう割り込んできたのは、今回の探索でリーダーをしていた人だ。
「最終的にはアンタが首無し騎士を倒した。その件と、あとは発見した魔道具について相談がしたい」
「いいだろう」
そういうと、首無し騎士の前で話し合いを始めた。
魔獣としてどこか有用な部位は無いかという事を聞いているようだった。
魔道具に関しては、香月院家を知っているなら確かにクエスト仲介所よりも良い値で買い取ってはくれそうである。
クエスト仲介所としては嫌がりそうだけれど。
神楽はまだ周囲を面白そうに見渡し、他のメンバーも徐々に上へと戻ろうとしている。
と、そこで近づいてくる二人の人物。
「……無事だったか、メルベリ」
「す、凄かったよ、メルベリ」
「見ての通り。問題無しよ。そっちも無事のようね」
「あぁ」
近づいてきたのはアランとジェラルの二人だ。
奥にいたようだが、二人とも無事だったようだ。
割と激しい戦いをしていたし、破片などで流れ弾が当たったのじゃ無いかとほんの少しだけ心配していたのだ。
「助かった。お前がいなかったら死んでたな」
「……」
「……何だよ?」
思わず、アランを凝視してしまった。
今の台詞をジェラルが言うならまだ分かる。
だが、敵視されてもいたアランから言われると……。
というか、初めてちゃんと名前を呼ばれたような……。
そういう疑問を込めて、どうなっているのだとジェラルを見れば、苦笑しているだけで何も答えてくれない。
こういう時、男の子は……ジェラルはちゃんとアランの味方になるんだなと思ったりもしたけれど、今は疑問に答えて欲しかった。
次の更新は引き続き次の土曜となります。深夜です。
最近改めて作品資料を整理しようとしてたんですが、気がつけば積み重なった本文で身動きがががという感じです。
量が増えると記載しきれない情報が膨大になって矛盾が怖いことになってますね……(遠い目




