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第129話 vs首無し騎士 1

最初にアラン、途中から主人公視点となりました。


 side - アラン



 目の前に現れた、見上げるほどの巨体である首無し騎士。

 手に持っている大剣は、人生で生きていてこれほど大きい剣は見たことが無い。

 もう片方には盾を持っている。この盾も、もはや動く壁である。

 剣など不要、ただ、振り回すだけで人が死ぬ。

 そういう大きさであった。

 

 自身の身長を優に超える大剣が鎧に覆われた腕で迅速に持ち上がっても、俺とジェラルは動けなかった――身が竦んで。


 誰かの矢が幾本、鋭い音を立てて飛んできた。

 首無し騎士に当たってもビクともしない。

 不動の城壁に当たるような、情けない音を立てて弾かれるだけだった。

 矢を意に介さず、動作に微塵も揺るぎなく大剣は振り下ろされた。

 

 大剣が空を切り裂く風切り音は、もはや剣が出してよい音では無い。

 一枚の壁が動くかのような。


 風に舞う葉のように、容易く自分達の命が消える。


 ――――俺達の前に、彼女がいなければ、だが。


「――――――ッァア!」


 腹の底から捻り出した、聞いたことも無いような声で、俺達の前に立つメルベリが吼えた。

 向かい撃つように伸び上がる、人が持つには長いその剣は、しかし怪物と打ち合うには心許ない。

 大木と小枝のようだった。

 

 しかし小枝はどちらだろうか。

 そう言わんばかりに、メルベリの剣が、振り下ろされる相手の剣を向かい打つ。

 激しく鉄を叩く音が部屋を一周した。

 直後に続く破砕音は大剣が床へと激突した音だ。

 自分達の直ぐ傍。

 激しい勢いで飛び込んできた破片で頬を切った――――そのヒリつく痛みで、体の自由を取り戻す。


「っジェラル!」


 声を上げればジェラルも同じであったらしい。

 

「う、うん!」


 お互いに慌てて、何度も足をもつれさせながらただ奥へと走った。


「――よく走れたな!」

「お前らは奥に居て隙を見計らっていろ!」


 向こうから全力で走ってくる先輩開拓者達4名とすれ違う。

 すれ違いざまに肩を叩かれると、それだけで安堵が心の底から湧いて出た。

 

「はい!」


 建物を壊していると言っても信じるような音が響き渡る中、ようやく振り返る。


 メルベリは前線で戦い続けていた。

 お前は魔獣とは戦えないんじゃ無かったのか、という考えは欠片も残さずに吹き飛ぶ。

 まともに斬り合いをしている……というわけでは無さそうだった。

 あの大剣と直接切り結ぶ事はせず、流し、逸らす戦い方ばかりだ。

 首無し騎士は階段へと続く通路を塞ぐように立っている。

 逃がすつもりは無い、という事だろうか。


 魔獣が居た場所まで辿り着く。

 そこには、同じように逃げ遅れたメンバーが二人居た。興味本位で奥まで行っていた開拓者だ。自分よりかは経験値が豊富だが、参戦出来ないのだろう。

 悔しそうにリーダー達を眺めていた。

 

 ここからあの場所まで、あの魔獣は一足で飛び上がったのだからたまらない。

 

 ちらりと、魔獣が潜んでいたという部屋の中をちらりとのぞき込むと、中は思ったより綺麗だった。しかし、一番奥だけは傷つき、床も壁も傷だらけで……そして白骨化した死体があった。

 一人だったのかもしれない。二人だったのかもしれない。もっといたのろうか。粉々にされた骨は幾つもあった。

 

 禄に原形を留めていなかったが、引き下がったレバーに絡みつくように残っていた手首がある。


「もしかしたら、あのレバーを引いて、中に魔獣をと、閉じ込めたのかな」


 ジェラルの呟きを聞いてから改めて見てみれば、残された手首から、鬼気迫るような覚悟が空気中に滲んでくるかのようだった。

 

 ゴクリと、唾を飲み込む音が耳に残った。




 side - オリヴィア・メルベリ

 


 攻撃を辛うじて逸らす。

 派手な音を出して床をたたき壊すが、威力に反して床の損傷は少ない。

 どんだけ頑丈なんだ、この建物。

 

 振り下ろし後のその隙をついてリーダーを含む開拓者達が攻撃を仕掛けるが……。


「クソ、どんな体してんだコイツはァ!」

「まるで鉄の塊に振り下ろした気分だぜ! つーか何十年も前の魔獣だろ!? 何で生きてんだよっ」

「知るかっ! 無機物系の魔獣ならそういう例もあるだろうが!」

 


 あまり攻撃は効いていなさそうだ。

 飛び出していって攻撃しても、足を切りつける、いや、足を殴るに留まる。

 こういう時、メイス持ちはいい。前衛の一人は室内向けの剣持ちだが、刃こぼれが出るのは防げないだろう。

 

 これでは攻撃しても意味が無い。

 そういう声も聞こえているが、リーダーは冷静に攻撃した部分を見ていたようだった。


「効いてはいるはずだ。――小さくとも傷はつく。続けるぞ」


 その話を前で横目に入れつつ、軽々と振り続けられる大剣を時に叩き落とすように、時に横にすらすように一撃を入れ続ける。

 

 流石に真正面から打ち合えばこちらが負ける。

 筋力はこちらの世界による補正があっても、流石にアレと打ち合うだけの力は無い。

 それに体重だけは何も変わってはいないから、この体格差ではどうにもならないだろう。

 

 盾による、巨体を生かした圧殺も警戒しているけれど、今のところは振り回すばかりで突進はしてこない。

 通路から離れるような動きは最小限にする、ぐらいの考えがあるようだった。

 

「こっちの攻撃は豆粒程度、あっちの攻撃は一撃で致命傷。やってらんねぇな……! そんな状態で攻撃を避け続けるなんて、あの嬢ちゃんはどういう神経をしてるんだ!」


 息を整える。

 長期戦に向けての戦い方。

 傷がつくのなら何時かは倒れるだろうし、仲間が助けを呼んでくれるかもしれないし。


「――――ウィンドウブレード!」


 遠くから響く女性の声、カガネだ。

 塞いでいる通路の奥から姿を現したカガネの魔法が飛ぶ。

 足下にうろつくアタシ達に当たらないよう、首無し騎士の上半身に幾つか飛んで来たが、後ろに目があるかの如く、盾で軽く弾いてしまった。

 一瞬引っかかりを覚えるも、それよりも腕の可動範囲が人とは明確に異なっている事を認識する。

 盾を動かすとき、確かに関節を無視したかのようにぐるりと動いた。

 人型でやられると気持ち悪いことこの上ない。

 

 それはやりづらいな、と眉を顰める。


 ……人型だから自分はやれているのだ。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()自分は、このことを意識しないと足下を掬われるだろう。

 明確な隙だと思って仕掛けたら、腕の可動範囲が違うのでそのまま致命の一撃を貰いました、なんてのは洒落にならない。

 命のやりとりをしている時に、魔獣である事を意識する事はかなり難しい。


 リーダーが階段側に待機していた中間勢に救援を呼ぶよう大声を上げる様子を見ながら、魔獣である事を忘れてはならないと肝に銘ずるのだった。

 


次の更新は引き続き来週の土曜日ですー。

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