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第125話 遺跡に踏み入れる


 side - アラン



 なんだかんだで拍子抜けしていた。

 

 アイツ――メルベリとジェラル、それに中堅手前と中堅と呼んでも差し支えない人達が9名。

 総勢12名だ。

 

 馬車道中やこの遺跡に来るまでの間、魔獣相手に苦戦することはなかったし、余裕を持ってローテーションして戦闘をしている為に体力が削られているという事もない。

 まさしく、万全な状態で遺跡に突入していた。

 4名ずつのグループとなって間隔を開けて歩いている。

 建物の複雑さによってはうち1グループを入り口に戻すか検討するそうだ。

 こちらのチームは、俺に、ジェラル、あの女と別チームの女性……確か、カガネ、という女性開拓者だった。

 

 ちらり、と後ろを見る。

 ジェラルは興味津々で、カガネは興味と警戒心の二つを持って周囲を見ている。

 そして、あの女――メルベリは遺跡に対して強い執着があるかのように見ていた。

 壁の一つ、模様一つ、砕けた花瓶類一つ一つを、さっと、それでいて食い入るように見ている。

 いったい何を考えてるんだか、さっぱりわからない。

 魔道具でもあるまいし、朽ちた物を見て何か価値でもあるんだろうか?

 つい、と自分も視線を周辺に送るが、初めての遺跡探索ということで目新しさはあるものの、泥や葉っぱが散乱しているな、ぐらいしかわからない。

 

 魔獣との戦いなら間違いなく俺の方が戦える。

 メルベリよりも強いし、間違いなく俺の方が役に立つ。

 

 アイツの戦い方は不安的極まりない……当たると思った何もかもが当たらないその姿は驚くべきことだが、攻めるべきタイミングで常に攻めあぐねる姿もまた、別の意味で驚き、呆れてしまう。

 

 どうしてあんな奴がアギトさんのお眼鏡に適ったのかと当時は苛ついてしょうがなかった。

 ……アギトさんもカイトさんもいたのに負傷者が出た、あの魔道具大規模窃盗事件。

 あの事件の幕引きに携わったメルベリが無傷で帰ってくるまでは。


「アラン、どうかした?」


 と、こちらを見たことがわかったのか、ジェラルが少しだけ歩く速度を速めると隣に並んで来た。

 ジェラルは、俺とだけの会話ならつっかえる事は少ない。

 後ろの二人からの注目がされていないことで、その口は流暢だった。

 

 その時、前のグループ二つが通路の両側に並んだ部屋に時間差で突入するようで、前のグループからサインが送られ、それに返答しながら答える。

 

「……別に。何でも無い」

「メルベリは話せる相手が出来たんだね」

「別にメルベリを見ていたわけじゃないっ」

「見ているっていってるようなもの」

「もう黙れ。前を向けって」


 小声ながら語気を強めたが、ジェラルの肩を楽しげに揺らしただけだった。

 ……絶対なんか面白がっているだろう!

 舌打ち一つすると、気を逸らすように警戒を強めた。

 

 そんなやりとりをしている間に、目の前のグループが片方、部屋に押し入る。

 緊張の瞬間――――何も起こらない。

 

 数秒の間を置いて、問題が無さそうと判断した二つ目のグループも反対側への部屋へと入っていった。

 こちらも緊張を高めたが、やはり何も起こらなかった。

 

 残った俺達のグループは、この入り口の見張りである。

 暗闇の中のはずだが、不意打ちは防げる十分な範囲は明るいままだった。

 移動に合わせて追従する、魔法の光。


「この魔法、便利だよな」


 周囲の警戒をしながらもジェラルに話し掛ける。

 と。

 

「ね、でしょー!」

「う、わ」


 女性開拓者が、元気いっぱいとばかりに割り込んでくる。

 

「出来るようになるまで何年もかかったしお金も高かったよ!」

「……そうなのか」


 思わぬ乱入者に半目になる。

 移動中の馬車では静かだった……と思ったが、2台の馬車のうち、こちら側に乗っていなかっただけだったと思い出す。


「うん。半年分の稼ぎは吹き飛んじゃったかな」


 あれは高かったなーと呟く。

 その声に合わせて、部屋の中を探索しているグループが物を動かすようなドスン、ガラガラという音が聞こえてきて興味をひく。

 出来れば自分だって部屋に突入するグループに入りたかった。

 

 

「そ、そんなに……」

「魔法の習得ってお金もかかるし日数も掛かるから、本当にもうドバドバと飛ぶんだよ……」

 

 自分達より十分に装備も良く、今もこうして話しながらも剣を持った手は揺れてはいない開拓者がこう言うのだ、今の自分達では逆さになっても払えない額だろう。

 

 そもそも、開拓者がそんなお金を貯金している事が驚きだ。

 見知った限り、開拓者はそんなにお金をため込まない。アギトさんやカイトさんだって盛大に使うタイプだ。

 

 アギトさんやカイトさんから教わる事が出来れば……と一瞬思ったが、憧れの人に対して格安になるから教えを請う……という有様は気に入らなかった。


「お、俺もやっぱり難しいかな、使えるなら使えるようになりたかった、けど……」

「んー。才能に依存するところが多いみたいだからね。私はまだマシだったみたいよ」


 才能がマシでそんなにか、思う。 

 

「あ、そろそろ出てくるみたい」


 と言われれば、部屋に居たグループがもう出てくるようだった。

 部屋は大きくないようだった。

 その時、物静かにしていたメルベリが、ふと何かに気づいたかのように廊下の奥を見た。


「やっぱり何もないな」

「そうだな。部屋も汚れて荒らされたままだったが、そっちは――――!?」


 ガン! という、鈍く、低い音が廊下の奥から聞こえてきた。

 全員が緊張を高め、前衛二人が前に飛び出す。


 その瞬間にまた、ガァン、と低い音が響いた。

 

 何時の間にか、魔法が使える後衛が手を空中に掲げている。

 カガネも、自分達より前に出て剣を構えていた。

 

 十秒。三十秒。一分。

 

 何も起こらない。

 

 手に持った剣を握り直して……濡れた柄の感覚で自分が緊張していると初めて気がついた。

 拍子抜けと評していた自分に舌打ちをしたくなる。


 大きく、誰かが息を吐く音。


「……っだよ脅かしやがって」


前衛が警戒を緩めると、グループ全体にそれが広がった。

 まだ経験が同じように浅い人がm先輩に肩を突かれて驚かされているのが目に入る。

 

「音からして距離がありそうねー。そもそも、この階層じゃなさそう」

「そうだな。それはそうと、だ。全員、やっぱり何かありそうだ! 気を引き締めろよ!」


 リーダーが言うと、楽にはいかないもんだ、という軽口が飛び通う。


 何かがいる。それがわかり、全員が改めて気を引き締める中。

 

 メルベリだけは、未だ顔を――聞いたことがあるような音だったかのように――顰めて、首を少しだけ、傾けていた。


 

次の更新は来週の土曜ですね。

次もアラン視点か他の視点の予定です

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