第123話 遺跡に圧倒されて
それから二回だけ交戦した――どちらもロウボアで、最初の戦いをリピートしたかのように速やかに処理された――後、問題の遺跡へと辿り着いた。
遺跡周辺は開けていた。
木々もなくなり、膝下程度の草が茂っているだけで、時折土がむき出しで、ごろりと岩が陽を浴びている程だった。
ここまで開けていると警戒するのも楽になる。
速やかに前方へと移動し、周囲を確認していた二人の様子をリーダーが見た後、頷く。
それを見てから、残るアタシ達もゆっくりと遺跡へと近づいた。
建物が日差しを遮るところまで来ると、今まで我慢していたとばかりに声が漏れる。
「すっげぇ、これが遺跡なのか……!」
「う、うん! 凄いね……!」
「これは……確かに……」
上から順にアラン、ジェラル、アタシであった。
天を貫くには欠片も足りない。だが、それでも想像以上に大きかったのだ。
遺跡は草木に完全に覆われており、一部を除いてまともに露出している箇所がないといった有様だった。
前世でよくあった古ぼけた、石で出来た建物……ではない。
この世界はかつては今よりも優れた技術が大量に存在した。
この建物も例外ではなく、遺跡という呼び名でありながらも、非常に現代的、あるいは未来的である。
這い回る蔦に覆われていてもそれはわかる。
傾いているものの、言うなれば研究所の上方が露出しているような状態だ。
露出しているのは2階部分か、3階部分か、それ以上か。
近くまで来て見上げると、上がやや見づらいぐらいには高さがある。
それに見えている横のサイズ感もでかい。
学校の体育館……それも横向きにしたぐらいのサイズが余裕であるとは思ってもいなかった。
横がこれなら、奥もどれほどあることか。
むしろ、横向きで奥行きはそんなでも無いのではと思いたくなる。
ちらりと向けた視線の先では、前衛とリーダーが奥行きを確認しに横に回っているのが見えた。
歩いて行った後が倒れた草木となって現れていた。
他の開拓者達も、遺跡を見慣れていない組が建物に近寄ってペタペタと触っている。
アタシもそれに習うかのように近づく。
一階部分ではないので入り口らしい入り口はない。
近づいたところも、背の丈を超える一面のガラス窓だ。
蔦に覆われていない、一部の例外箇所。それもかなり健全な状態のままのガラス。
一部の窓は割れてはいるが……幾年も超えても8割以上の窓が健在という点は凄すぎる。
まるで蔦がその部分を避けたかのようにも見える
コンコンと叩くと、かなりしっかりとした反応がある。
傾いているという事は建物が歪んでいるだろうに、捻れによる破損も無い。
普通、ガラスというのは捻れに極端に弱いと思うのだけれど……。
ううむ、と顔を顰めながらも更に近づく。
「このガラス……奥が見えない……」
向こう側が不自然に見えない。
マジックミラーかと思って手で暗闇を作ってみても変わりは無かった。
こんだけ暗いと窓としての機能は無いように思えるが、反対側からは普通に見えるとかいう反則状態なのかもしれない。
「何やってんだよ」
「……こうやって暗闇を作ると、見える鏡があるから」
「へぇ」
「こ、このガラスだけでも……価値はありそうだね……」
ぺたりと触ったジェラルが言う。
それはまぁ、ありそう。
現代でも価値になるだろう代物だ。
この世界で価値にならないわけがない。
「確かに、このガラスには価値がある。買い取る富豪も居る」
そういいながら近づいてきたのは前衛の一人だ。
柄の長い大きな斧を背負っている、マッチョマンである。
アタシら子供達よりも頭一つ二つ分飛び出ているため、近づかれるとちょっと威圧感がある。
「そうなのですか?」
あぁ、と頷かれる。
「ユピ神国なんかはご自慢の神殿作りやら何やらに使っているという話だ。時折、かなり大規模な隊を組んで、ヨルム王国を越えて魔森林に行く光景を見ることさえある」
宗教国家であるユピ神国は見栄と虚栄と策略渦巻く国だ。
窓一つとっても相手を圧倒するための手段として欲しがるのだろう。
あるいは、その耐久力の高さこそ欲しいのかもしれない。
自室から下界を見下ろす。その自室にこそ、このガラスを。
「だが、これを持ち帰るのはかなり難しい。問題なのは重量と、道だ。取り外せたとしてもかなりの重さで、人がそのまま運ぶのは不可能なんだ、こいつは。ユピ神国の連中も、何ヶ月も掛けてどうにかするぐらいだ……何気なく叩いたりしているが、外れたら確実に押しつぶされて死ぬぞ」
「え」
という声と共に、小心者3名が飛びずさる。
それを見てにやりと笑いながら、「そう簡単に外れたら、もっと解体が楽なんだがな」と言うので、そんな事態は早々無いのかもしれない。
ちょっとドキドキとしてしまった。
ふぅと胸を押さえながらアランと共に再び近づく。
ジェラルは……あまり近づきたくない様子で、あからさまに遠巻きに遺跡を見始めた。
「確かに、ここまでの道のりは平坦ではありませんね」
「あぁ。魔獣も多い上に、道中はでこぼこ。伸びきった草が車輪に絡み、倒れた木々はどかしたり破壊したりしなければならず、場所によっては土が柔らかい。馬車を近づけるだけでも一苦労……どころじゃないのさ」
メリットは大きいのだがね、と大きくため息を吐いたので本当に良い値で売れるのだろう。
渋い顔をして未練そうに見上げる前衛を見ていると、リーダー達が戻ってきて声をあげた。
……横より奥行きの方があるらしい、という話を聞いて、誰かがぽつりと「こりゃ、思ったより時間がかかるな」と呟いた。
次の更新は引き続き土曜ですー。
最近は零時越えが続いてるので、ううむ……。




