第122話 ロウボア
セーフティハウスから離れてそろそろ十分。
遺跡までの道中は流石に何もなしに到着、とはいかなかった。
そこは魔森林、起こるのは当然、魔獣とのエンカウントである。
「――備えろ!」
前衛に中堅開拓者勢、後衛にはアタシを含む若手勢と1名の中堅が緊張を高める。
警戒能力に長けた開拓者――今回のリーダーが静かに、それでいて注意を促す声を込めるという器用な叫びから少し。
徐々に聞こえてくる、草木が折れる音。
細い枝ばかりではないのか、時折重量感を思わせる低い音も響く。
全員が周囲を警戒している中、視線を一身に浴びての登場。
バキリバキリと木々を折りながら悠然と歩いてくる魔獣がいた。
現れたのは――――大量発生しているロウボアだ。
イノシシを巨大化し、模様を茶色からくすんだ黒へと変えて、鼻の頭を真っ白なロウのようにしたもの。
続けて茂みから現れるロウボア。
2体目の登場だった。
出てきた直後、警戒したようにこちらを見て、足で地面を掻き始めている。
馬車の移動中、荷台から見ていた為、こうして剣を構え、実際に向かい合うのは初めてとなるが、これは……。
「大きい、かも」
外から見ているのと実際に相対するのでは分けが違う。
そんなものは当たり前だったが、改めて実感する。
と思ったのだが。
「……普通の個体より大きいな」
アタシの呟きは単純にロウボアの標準の大きさについてだったのだが、近くにいた開拓者は斧を構えて舌打ちしながら通常よりも大きいと言った。
あれ? じゃあアタシが大きいと感じたのはただ単に本当にそうだっただけか、と少しだけ気が楽になる。
変にプレッシャーを持っていたためにそう感じてしまったのかと少しだけ思っていたのだ。
「今回のクエストがロウボアの素材回収なら諸手をあげて喜んだんだが」
と続けて言うと、前衛からやや下がってきた女性の開拓者がカラカラと笑った。
「そんなこと言ってもね。どうせここにおいていくしかないから、帰りに持ちかえれば?」
「その頃まで、ゴブリン達に持ち去られてなければ、な」
「「――――おお!」」
二人の男性の大声が響いた。
両刃の大斧を持った前衛だ。
全体的に斧とメイスが多いのは、一撃の威力と取り扱いのしやすさか。
走り込みながら、下から上へと掬い上げるように振り切る。
「プギィ!」
「ギャプリ!?」
タイミングはややずれたものの、同時と言っていいタイミングでこちらへと二体への顎へとジャストミート。
これで決まったか……と思ったのもつかの間、血を吹き出しながらも首を振るって猛然と加速し始める。
刺さった斧から漏れ出る血の量からして、悪くない一撃のはずだがしぶとい。
体の大きさの分だけ、致命傷までの壁が厚い。
だが、攻撃した二人は慌てる様子もなく、刺さった斧をロウボアの加速と首を振る仕草に合わせて引き抜く。
一撃で死ぬとは当初から思って無い動きだった。
その様子に、隣にいたアランとジェラルは感嘆の声を漏らしていた。
ロウボアの頭の先ある蝋燭のような鼻が真っ赤になると、突然、ボウ、と火が吹き出る。
蝋燭といった可愛らしい物ではなく、勢いを伴った火炎。
あれで頭突きをくらい、壁や地面に押し付けられたら火によって二次ダメージを負うだろうし、要らぬ火傷はその後の行動に差し支える。
前衛がロウボアを避けるその前から、軽口を言っていた女性は詠唱をしていた。
「――見えぬ風の刃よ、自然に添う流体よ、姿を現さぬまま敵を切り裂け――ウィンドウブレード!」
事前に自分への刷り込みを加えての魔法詠唱。
魔法は発動出来る、しかし魔感知力が低い場合、自己への刷り込みとして使う。
魔感知力が上がればその分だけ魔法はコントロールしやすくなる。
学園の上級生達はもっと短いし、何なら数語で終わっていたと思うので、ちゃんとした教育を受けた生徒との違いを自然に知ると共に、内の学園の生徒は戦闘に偏り過ぎじゃなかろうか。
まぁ魔森林と隣接する修羅の国、ヨルム王国だしそんなものか。
見えぬ風邪の刃は、風を吹き出しながら地面に沿って飛んだようだ。
草を揺らし、あるいは切り飛ばした先でそれぞれのロウボアの片足を適切に切り取った、あるいはぐっと半ばまで入り込んだのかもしれない。
ロウボアはプギィ、という悲鳴を上げてぐらついた。
「おーおーよう当てるな」
「あんだけロウボアとやりあっていればこの程度は、ね!」
こちらを守るようにいる男性と、やり切った感を出す女性。
そして、こちらへとロウボアが迫る前に、姿勢を崩した魔獣へと飛び出す先ほどの前衛。
体を回転させ、更に今度は、相手が転ぶ勢いを利用して更に威力を乗せた一撃。
先ほどよりも斧が深く顎下へと入り込み、ロウボアは弱々しい声を上げるてゴロゴロと地面を転がる。
間違いなく今度はダメージとして通った。
その瞬間、更に別の開拓者が剣を片手に踏み込む。
人数を利用した連続攻撃。
のし掛かるように、細身の剣が首の後ろから一気に入り込むと、悲鳴も上げずに一体が倒れ伏し、続く二体目も、別の開拓者によって同じ道を辿る。
会敵からのあっという間の決着。
ただ身構えていた若手を尻目に、周囲の開拓者達は緩く、ほっと息を吐く。
濃い顔をしたリーダーが静かに周囲を見た後、声を上げる。
「――さて。軽く息を整えてから進むぞ」
手慣れた中堅達は、緩く緊張を解きながら頷いた。
ちょっと短いですが、次の更新は来週の土曜夜です。




