第118話 お疲れムード
「うーん、本当に関係無いんだろうか……」
「どうしたんですか?」
寮に戻ってだらりと一人用ソファに伸びていると、神楽が備え付けの勉強机から振り返ってこちらを見る。
「いやね。この一週間、ずっとお茶会だったなぁ、という所に思う所があって」
「あはは……私よりずっと多いですもんね。お茶会が無かった日の方が少なかったんじゃ無いでしょうか」
「真ん中しかお休みはなかったよ。腹をくくりなさい、って神楽にいったけど、くくる必要があったのはアタシだったね」
思わず苦い顔で言う。
彼女達の熱烈ぶりは何なんだろうか。
てっきり、神楽のお茶会参加によって、神楽の帰りが毎回アタシより遅くなるのかなぁと思っていたのだがそんなことは無かった。
アタシへのお茶会参加回数が神楽のお茶会より上回ったのだ。
毎回同じ子ではなく、8割の人は入れ替わり立ち替わり参加してくるため、予想していたよりこの派閥モドキの規模は、だいぶ大きいんじゃないかとドキドキし始めている。
結果、先に帰るのは神楽であり、アタシがへろへろで帰ると神楽が優しく迎えてくれるのである。
……おかえりなさい、と優しく原作ゲーム主人公に言われると、その台詞を是非ゼン様に向けて欲しいな、とほっこりした気持ちになれる。
同人誌では学園卒業後の甘々生活編があって読み込んだものだった。同人誌の中でも、疲れたゼン様を迎える言葉を言うとき、神楽はきっとこんな感じなのだろう、と思う。
「正直、ほとんど毎日はやめてほしい……」
「日に日に、ソファの座り方が雑になっていってますね」
座り方が崩れて言っている自覚はある。でも疲れがたまったOLは、自宅ではこんなものよ。
今回の疲れは、戦闘している時の疲れとはあまりに異なる。
とにかく顔が痛い。頬の筋肉がずーんと来る。瞼も痙攣するじゃないかって感じだ。
だらだらしながらむにゅむにゅと頬を触り、動かすと、笑顔の形になっていたようで強制的に戻した。
「来週には体も頬も床に落ちてるかも」
「床の掃除を念入りにしておきましょうか?」
「ダイジョウブデス」
このままだと、来週には笑顔が張り付き、心が死んでしまう! かもしれない。
模擬戦の授業ではついついやり過ぎてしまっているし、悪影響が出ているのはよろしくない。
「今週の休みも街に行ってくるよ。クエストを探してストレス発散だね」
「そうですか……となると」
何度か考えるように宙を見て、眉根を寄せた。
「今週はお話しする時間がちょっと少ないですね」
「ごめんね。でも、アタシが休日予定がなくても、神楽は魔法の習得が加速度的に進んでるでしょ? ゼン様とかジャイルズが休日に来るんじゃ無いかな。保険医は……休日には来ないか」
あの人も、廊下ですれ違うと神楽には特段話し込む姿を、神楽の隣でよく見ている。とはいえ、ちゃんとした大人なので、休日の女子学生の元に突撃はしてこないだろう。やるとしたら、事前にアポとってやってくるだろうな。
アタシの言葉に、またしても視線を上に向ける。先ほどより長めに考えて。
「そういえば、似たような事は言ってたかもしれません」
「そうなったら、アタシは基本そっと見ているだけだよ」
「ゼンさんとあまりお話になりませんもんね、オリヴィアさん」
「恐れ多い……」
神楽の魔法は、日々を追う毎に上達している。
先週と今週では、既に魔法が発動する時間が目に見えて早くなっているし、発動失敗も減りつつある。
そんな様子を、驚きながらゼン様が見ていたので、まぁ休日もどうだろうかという話を神楽に振るのは自然なことだ。
「模擬戦で魔法ありとか、そのうちやってみたいね」
「それでも私は一瞬で倒されちゃいますね、きっと」
神楽が思い返しているのは、今週の模擬戦の授業だろう。
精神的疲れから、リラックスした状態で戦っていたら普段より相手の限界ギリギリを攻めてしまい、つい体力切れを連発させてしまったのだが、それによって普段は並ぶアタシとの相対に空きができ、神楽がやってきたのだ。
魔法よりは上達速度は遅いものの、ゲームの神楽とは比べ物にならないだろうなぁ、と思って感心するぐらいには上手くなっていた。
作中、ここまでバリバリに近接戦闘を仕掛けてくる描写は皆無だし、同人誌ですら『剣を振るって戦える神楽ルカ』なんて概念はなかった。いや、男性向けの二次創作ならワンチャンあったかも。
この調子でいけば、女子生徒内での戦闘力ランキングで上位に潜り込んでいくことも不可能ではない。
なお、戦闘力ランキングとは、アタシがひっそりと作っている代物である。神楽は下位層を脱出しても良いかなとは思う。将来、多くの学生が対魔獣と戦うことがあると想定している以上、女子生徒も、対人であってもよく動くから、このランキングを上がるのは難しかろう。
「いやいや。アタシは基本的に近距離専門だからさ。距離とられて行動を阻害する系の魔法を使われたら苦戦させられるよ? 神楽は水魔法が得意だから、相手の体を濡らすだけでも重くなって絶大な効果があるし、凍らせることも可能になってきているから、苦戦して後退した……と思わせて足下をしっかり凍らせてあるとか、単純に相手を冷やし続けるとかでも色々できるよ」
ちょっと力説して言ってみたのだが。
「本当ですか?」
神楽は背もたれに顎をのせてちょっぴり口を尖らせる。
「な、なんでそんなジト目なの……?」
「んー、まるで経験しているかのような感じなので、私が考える手は、全部封じられそう、って思うんですよね」
「……気のせいだと思うよ?」
鋭い。過去にはそこを克服する必要があったので実はやれることはやれる。得意では無いけれど、学生レベルなら何も支障は無い。
神楽とは、魔法ありで実際に相対したときにビックリさせよう、と一瞬思っていたけれど、この様子だとトラップを仕掛けられて突破しても、動揺せずに次の手を繰り出してきそう。厄介な。
「あーあ、早く二年生にならないかなぁ」
「授業では魔法を使う模擬戦は基本しないからねぇ。授業以外なら全然できるけどね。ま、それはこの先の楽しみとして。前にクエストをやりに行った時、魔獣が多めに発生してるから素材ラッシュだったんだよね。今もまだ続いてるかなー」
魔森林での魔獣との遭遇率が高いなら、このたまりたまった精神的ストレスを派手にぶち当てたい物だ。ゲームと関係無い所で足を取られ、作中にあったゲームイベントを見逃す、なんてことは無いようにしたい。
ただまぁ、
……見慣れた魔獣限定で。初見の魔獣だとへっぴり腰なので。
「へぇ! じゃぁ、街に遊びに行ったら、魔獣の素材で作られた物が安くありそうですね」
「……ん? あぁ、確かにね」
武器防具系、魔道具は分かるけど、日常生活品の中でなんか使われてるんだろうか。
確かに耐火性とか耐水性とか、汚れにもねじれにも強いだろうし、有効活用はできるだろうけど。
実はコップの素材に魔獣の骨を砕いたのが入れてあるとか……
ふと、手にした神楽のコップを凝視してしまったアタシを、神楽が不思議そうに眺めていた。
次の更新は次の土曜ですー。
身内が巷で噂の奴で次々ダウンして戦々恐々としています。ひー。




