第115話 思わせぶり無自覚ムーブ
主人公視点に戻ります。
「つ、疲れた……」
お茶会は盛況に終わった、と思う。
学園へと街から来ている人は、日が暮れる前に帰宅しないと危険度が上がるため、思ったよりは早く終わったと思う。街と学園の間は人の行き来が多いとはいえ、学園の敷地並にきっちりと魔獣対策をやっているわけではない。夜間は学園が契約している、街と学園の往来馬車はやっていない。
学園の通路を歩きながら首を回すと、慣れないことをやったためにかゴキリと乙女にあるまじき音がした。
お茶会が盛況に終わった理由、それはアタシ自身が何か積極的に何かやった結果……ではなくて、なんかもう、アタシが口を開く度にキャーキャー言われるのだ。
剣を振るったでキャーキャー言われ、そこのお菓子をいただけますかと言うだけで大盛り上がり。紅茶が美味しいといえば全員がその紅茶に殺到する。
「ヨルム王国に来る途中で山賊と切った張ったをしたお話でなんで喜ぶんだ、みんな……」
せがまれた話とはいえ、普通の女の子なら血しぶきの話で顔を青くしそうな物なんだけど。
他のグループもお茶会をしている以上、大きな声で話すわけにもいかず、かといって聞こえなくては意味が無いという無意味に難易度が上がっていた。
途中から、街のクエストで初めての魔獣と戦ったエピソードになったが、流石学生、すぐに授業の話題へと結びつけて魔獣解体の話になっていった。こういう所で賢い人達の集まりなのだなぁと感じる。
特に、上級生の方は相対経験があり、学年が上がるとチームを組んで魔森林のレポートを組むという危険な授業があるという事を教えてくれた。その時に相対したらしい。
その話題はもっと聞きたかったが、アタシの話の方が聞きたいということで中途半端に打ち切られてしまった。
あらゆる言葉で喜んでくれるのは楽でいいと当初は思っていたけれど、話題の何処に地雷があるのか欠片もわからなくて、これはこれで大層なプレッシャーとなるのだなと認識を改めたぐらいには大変だった。記憶の彼方の有名人は凄かったんだなぁと、今更ながら自身の凡才感を感じる。
誰かが駆け足で近寄ってくる気配。
気配の向け方から、アタシに用があるのは間違いない。
となると、もしかしたらまた話をせがまれるのでは……?
少しだけ覚悟を決めて、振り返ると……そこに居たのは見知った姿で、張りかけていた緊張を緩めた。
「お疲れ様でしたわ、オリヴィアお姉様」
「クラウゼ。早めに帰らなくていいの? アタシは寮だけどさ。あとお姉様は勘弁して……」
「オリヴィアさん」
「よし」
ヘンリエッタ=クラウゼ。アタシが何ともなしに図書室で話し掛けていたら実は神楽イジメイベントの首謀者であり、アタシとの相談が切っ掛けでイベントが未遂で終わってしまった事は記憶に新しい。
作中では彼女が悩んでいることは描かれなかったし、現実で話してみて初めてあのイベントが彼女の立場から起きた悩みから発生したものだという事を知ったものだ。迂闊に相談にのった結果、イベントが起きなくなったものの、彼女自身は良い方向へと転がったに違いない。
そして、アタシの素の状態を見せた事のある数少ない一人である。
クラウゼから、今回の経緯とか、知っていれば聞きたいとは思っていたので都合が良い。
「今日は友人達が寮で泊めてくださるの。パジャマパーティですって」
クラウゼの顔は明るい。
少なくとも、アタシによって大きく未来が変わってしまった一人であることは間違いないだろう。
周囲から期待され、慕われているからと無理して虚栄を張っていた彼女の姿は何処にもない。
同じくゼン様を推す同士であるため、元気であると嬉しくなる。
「それは楽しそうね。少し前は見栄を張っていたのに、良い事だわ」
冗談交じりに返答すれば、向こうも思い出すかのように柔らかく目を細めた。
「その話は、今思い出しても恥ずかしいですわ。今も変わらず慕ってくれる子達ですけれど……前寄りかは、ずっと素の自分でいられるから」
「ふふ……可憐な笑顔をするようになった」
「――――」
走ってやや乱れた髪をさらっと直してあげる。
うお、神楽に負けず劣らずのサラサラ具合だ、クラウゼの髪……。
シャンプーやリンスが違うんだろうかと思ったが、神楽はアタシと同じのを使ってるのにサラサラだったことを思い出して少し凹んだ。
「ここだと他の人に捕まりそうだし、少し移動しましょうか」
ひとまず、もうちょいだけ人の目の無い所にいこう。
まだお茶会が終わったばかりの廊下だし、部屋から離れたといえど、他の人からまだ十分に個人が識別出来る程度に見える。お茶会の主催者であるライリー=ローレンという少女に捕まると帰れなくなりそうな気配がする。
ちょっと移動するよ、と声を掛けていたのだが、気配が変わっていない。
振り返ると、先ほどの位置で佇む彼女の姿が。
「クラウゼ? 顔が赤いけど、もしかして疲れてる?」
「い、いえ! 大丈夫よ、そう、私は大丈夫よ、お姉様……」
胸を押さえて、赤い顔をするクラウゼ。
風邪の引きかけかも知れない。言動もなんか危ういし。
引き返して、失礼と声を掛けてからおでこの下へとさっと手を伸ばす。
「本当に大丈夫? 熱は無さそうだけど……」
「――――」
おでこに軽く手を当ててみるが、熱は無さそう……って!?
「何か急に熱くなってるけど! 大丈夫なのクラウゼ!? 本当に熱が無いの!?」
「だ、大丈夫ですから……! これは問題無いものですので……! いいから行きましょうお姉様あそこの教室は空いてますから!」
ぐあ、という音が聞こえるほど反り返ると、すぐさま顔を俯かせるようにしてずんずんとアタシを追い越す。
そうして近くの教室へと入り込んで扉を閉めてしまった。
「いや、アタシも入るんだけど……」
時折、クラウゼは固まるよねと思いながら、クラウゼによって閉められた扉を再び開けるのであった。
次の更新はいつも通り来週の土曜です。
稼働限界まで働いたので7月は余裕がありそうです。わー。




