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第103話 お高いお昼ごはん


 魔法の授業は既に終わりを告げ、学園内のカフェエリアで一人、お昼ご飯にする。

 この二週間、クエストで稼いだ身。ということで、お昼ご飯はお高いメニューであるデコレーションされた分厚い三層パンケーキ。財布の心配をせずに悠々と楽しめる。

 一層目を切り取るとフォークを優しく差し込み、甘い蜂蜜と雪のようにお皿の上に盛大に振りかけられたホワイトシュガーをこしとるようにして食べる。

 ぱくりと口に運ぶと溶ける様に消え、絶妙な味が舌に染みわたる。

 思わず、


「美味しい――!」


 と小さく声が零れ、唇が形を変えるのを止められない。

 

 添えられたバニラクリームを載せると味がまた変わって楽しめる。

 元々のストーリーでは神楽のイジメっ子であったヘンリエッタ=クラウゼと、ここのカフェで時折一緒にお昼を食べている時も、他の人が食べるのを眺めるばかりで、お高いこのメニューを頼むことはなかった。

 目の前でクラウゼがこのメニューを注文した時は必死の形相にならないよう気を逸らすのに必死だった……。

 この学園に来る子は基本誰もがお嬢様やお坊ちゃんではあるから、みんな値段を見ずに注文してる感がある。

 だがそれも遠い昔、クエストで稼げばここの美味しい食事も一週間に一度くらいなら問題無く食べられる。

 今後も休日にクエストはやらせて貰うのでそれくらいのペースで問題無いはずだ。

 ……でも、しばらくは余裕があるからもっと食べても良いよね!

 

 美味しすぎて思わず小さくパタパタと足を振りたくなったが、一人である状態で行えば変な視線を貰う事は避けられない。

 何故一人かというと、別にハブかれたわけではない。意図的に独り身になっただけだ。

 分厚いパンケーキの一層目を攻略しながら記憶を振り返る。

 

 お昼休みになってしばらく、何処で食べようか考えていると神楽から一緒にと誘われてはいたのだ。

 が、その前にクラス内の友人から、神楽が食事に誘われているのを目撃。

 神楽が流れでとことことこちらに近づき、アタシに声を掛けた時にちらりと彼女らを見ると、彼女たちに緊張が走ったのが見えたのだ。目の動揺もしっかりと確認した。

 久しぶりの学校だし、友達どうし、休み期間中の話が積もる程あるだろう。

 ほとんど話したことがない子達だったし、アタシが緊張させる要因ならばと辞退させてもらったのだ。

 模擬戦で近接はメリオトロイ先生の代わりにビシバシと男女問わずしごいている姿が見られているので緊張されたり、怖がられる理由はわかる。

 となれば身を引くべきだろうと考えたのだ。

 神楽は残念そうだったが、神楽との話なら学園が終われば幾らでも出来るしね。


「……むぅ」


 しかし、授業中に考えたことが頭を過る。

 直近のイベント、お茶会事件。

 

 神楽が光栄宮学園内の上品なお嬢様方に誘われてお話をする……のだが、そこで仕草や振る舞いを見られ、その程度では○○さんと一緒にいるには不適合! みたいな事をやられるイベントだ。

 なお〇〇さんの部分にはその時点での好感度が一番高いキャラの名前が入る。

 そのため、最初のルート確認地点と言えよう……とうんうん頷きながら、二層目と突入する。

 皿の上は端からホワイトシュガーを掬っているのだが、あまりお嬢様っぽい食べ方ではないかもと一瞬固まるが、美味しいには勝てないので引き続き同じように食べる。頬が落ちそうだ。

  

 そこから発声したイベントは地続きで、学園内の森で魔獣狩りの実施訓練まで続く。そこでお茶会メンバーが神楽を自分達の班に入れて役立たずと貶そうとし、そこを狂暴な魔獣に襲われてしまう。

 恐怖で動けない彼女達の為に、神楽が囮となって彼女達を逃がし、信頼を勝ち取る――という物だ。

 

 その後、ピンチになった神楽を助けに来るのは勿論、好感度が一番高いキャラだ。

 香月院ゼン様やショタのフィオレンティーノ・ジャイルズ、巨体の塔仁義ゴウはともかく、人気の無いあのガスト・レナードルートでも助けに来る。まぁ、最後のキャラは心底、神楽を見下した状態でやってくるのだが。

 本当に好感度高いの? と疑うぐらいだ。アレを楽しめるのは後でこの子を屈服させたい! と胸をきゅんきゅんさせる層ぐらいである。

 

 ここでは神楽の遺伝魔法の一端が現れ、それによってヒーローが助けに来るまでの時間が稼がれる。

 この時点では神楽が、自分に遺伝魔法がある事を知らないために困惑して終わる。

 徐々に魔獣との戦闘経験を経て、実は自分には何か遺伝魔法が存在するのでは? と気づいていくのだ。

 

 ちなみに、好感度が軒並み低いと何故か遺伝魔法が発動せずにバッドエンドである。

 乙女ゲーでは賛否分かれる……というか明確に非難が多かったバッドエンドではある。

 意図的に見ようとしないと見られないし、バッドエンド自体も魔獣に襲われて助からなかった……ぐらいの数行で終わるような物ではあるらしいが、見たくないものは見たくないものだ。

 特にルートを通る事で攻略パーセントが増える事はないので、アタシもそういうのがあるという事だけ知って見てはいない。

 

 とりあえずまぁ、間違いなくゼン様が助けに来るので欠片も心配はしていない。

 パクリと二層目を食べきり、幸せな気分。ふと、表情を変える。


「……神楽が助け出される際の場面には何とか潜り込みたい」


 真剣な表情をしてああでもないこうでもないとプランを練った。

 どうすればゼン様の傍にいて、イベント発生時に駆けつけられるか。

 合同授業ではあるものの、アタシとゼン様が同じ班になることはありえない。

 基本的に飛び抜けて強い人間は分散させてお手本として動くよう、教師陣は配置するだろう。

 

 なお、真剣な表情をしていたのは、最後の三層目に取りかかり、この美味しさも終わりかと思ったためだった。

 しばらくは、美味しい物を好きなだけ食べようかな、なんて事を暢気に考えつつ、お昼休みは過ぎていった。

 

矛盾がありそうで心がひゅんひゅんします。

胃の調子が悪すぎて更新できないかと思いましたが、文字数は少なくとも何とか滑り込みといったところ。

次の更新は引き続き土曜です。


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