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第102話 久しぶりの授業


 すり鉢状の講義室に入るのも久しぶりだ。

 目の先では、一人の教師が大きな黒板を背にして話している。

 ややお腹がたるんでいそうな中年男性の教師だ。

 この人とご老体の教師が主に一年生を担当する魔法学の教師だが、場合によっては別の若い非常勤教師みたいな人が担当する時もある。概ね、メインの教師が研究で手が空けられなかった場合などだ。


 チョークを片手に講義をしつつ、一段落ついたらこちらに見えるよう、教師がゆるく片手を上げた。

 すると、緑色の光がうっすら手に見えたかと思った数秒後、周囲にそよ風が通っていく。

 隣に座る神楽は、何となく目をぱちくりしてその風を目で追っているように見えた。


「このように、風の魔法発生時に起こる魔力消費や含まれる魔力に関しては――――」


 今見せた例に元に、黒板に式が板書されていくのをアタシなりに解釈してノートへと書き写す。

 黒板に書かれた魔法理論を実際に見せつつ授業するのは見ていて面白い。理科の授業みたいなものだった。

 アタシも早く魔法が使えるようになれれば面白いのだけれど……適正としてはかなり低い部類に入るので望み薄だ。

 卒業までに使えたら御の字くらいかもしれない。

 

 この授業に関しては既に予習してある範囲内に留まっているので、頭をあまり動かさずにチラリと周囲を眺める。

 この状態で頭を動かすと割とよく目立つのだ。

 前方、隅に座っている学生達がお互い何かを書いてはノートを交換して密かに笑いを耐えている姿を見ていてそう思う。

 大半は前世の学生達より真面目ではあるが、こういう授業中の遊びは、世界が変わってもあるもんだなぁとしみじみ思う。 

 

 仲良しグループで固まりつつ、多くの学生が真面目にペンを取っている……が、やはり中途半端に長かった休み明けのためか、何となく気が乗らなそうな雰囲気が蔓延している。

 長い休み明けのため、復習要素を入れつつの授業も影響していそう。

 

 隣に座る神楽を見れば、真面目にノートを取りつつ、やはり何となく気も漫ろに見える。

 手元にある教科書を見れば、今やっている範囲より先の内容のページ。

 気が漫ろなのは、既にこの授業内容を知っているからだろう。

 

 休みが終わる一週間前からこのままだと勉強のやり方を忘れそうでマズいと思って復習をし始めたら、神楽はもっと前に日中復習していたそうだ。

 念入りに復習していたそうで、アタシがわからないことを聞くと直ぐに教えてくれる。

 クエストから帰ってきた後、中央のローテーブルで帰りに寄って買ってきたお菓子を食べながら勉強するのは楽しかった。

 アタシはそんな長く集中出来ないので、何時も神楽より先に終わってのんびりしていたのだけれど。 

 

 アタシはこの休みの期間、クエストはほぼ毎日行ったために懐はかなり暖かくなり、少なくとも神楽やクラリッサ達に遊びに誘われても少しは大丈夫になった。

 金銭的に見れば、この二週間で前世の社会人の一ヶ月分を軽く超える給料を手にした事になる。

 それも、ゼン様と一緒に賊を狩りに行った分を除いて、だ。

 あの日の報酬はそれ以外の日を含めても追いつかない額を貰ったのだ。捕まえた賊の強力さを吟味された結果との事だ。

 改めて揃えたかった日常品の買い出しをこれで行えた。

 なお、コップは未だに買い忘れていて、神楽のを借りっぱなしの現状が続く。


「で、あるからして、加算された魔力が影響を及ぼし――――」

 

 これだけで生きていけるほど稼げるのはありがたいが、賭けているのは自分の命と考えるとうーんといった所である。

 魔獣と戦っていたばかりでは無く、時には出来そうなクエストが無いのでただ街の散策をしたり、アタシをする日もあったし、年下だけれど仲良くなった友達も出来た。

 時折、仲の良い友人達トオコとマリアンネだが外にいる関係でクラリッサが部屋を尋ねてくる事もあったので、中々充実した休日だったと思う。 


魔感知力(まかんちりよく)が高い学生なら、先ほどの魔法発動時にその片鱗を感じる事が出来たと思います。普段よりわかりやすいように構築した魔法で――――」


 と教師が話している最中に、アタシだけに聞こえるような声で神楽がぽつりと呟く。

 

「あ、わかったかも」

「ん? 何が?」


 目を向けると、視線が噛み合って照れ笑いされる。

 思わず口から出てしまったのだろう。

 

「えっと、魔法の感じ方みたいなの、です。さっき飛んで来た風が何となく気になってたんですけど、先生の話であれが風魔法が纏う魔力かなぁって」


 気が漫ろだったわけではなく、どうやら魔法に注意がいっていたらしかった。

 

「凄い! アタシなんて全然わからなかったのに。休みの期間中に魔法の練習してたのが効果出たんだね」

「そうみたいです! ゼンさんや星井さんには改めて感謝しないといけないですねっ。あとフィオさんにも!」


 休みの期間にも頻繁に様子を見て貰っていたらしい。

 フィオはともかく、一瞬、星井さん……? と少し思い出すのに時間がかかったが、保険医の名前だったかと思い出す。

 ゲームだと保険医ルートは無いのだけれど、現実だとどうなるかわからないもんだね。

 といっても、この世界ではゼン様ルートなんだろうけど。

 

 この二週間の休みは原作ゲームから見ると極端な逸脱ではあるものの、ゼン様との仲は原作通りに深まっていっている。

 となれば、イベントも似たような事が起こるに違いない。起こってくれないと困る。非常に困る。

 嬉しそうな神楽を見ながら、アタシは直近に起こるだろうイベントをノートに書く。

 そこには、お茶会事件、とだけ記載されていた。

 

次の更新は次の土曜日です。矛盾があるじゃないかとハラハラしながら書いてます。

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