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第101話 夢の中で

 周囲が目に入った時、最初に感じたのは強烈な懐かしさだった。

 その懐かしさが、ここが夢だという事を自分に突き付けてくる。

 

 締め切ったカーテン。

 脱ぎ散らした服が載せられ、申し訳程度に服が隅に寄せられたソファ。

 壁際には量販店で買った本棚があり、大小様々な――主に娯楽向けの――本が幾つも入っていた。

 ソファの前にはノートパソコンが載ったローテーブルがある。

 

 女性が一人、ソファの足を背もたれにしてパソコンを触っていた。

 正確には、ノートパソコンに映像入力装置を取り付けて、別のゲーム機からの映像を出力している。

 手にはそのゲーム機のコントローラーが握られている。

 部屋用にテレビを買わなかったがために、何時の間にかこのスタイルでゲームをすることになれてしまった。SNSとかでスクショする際に便利だったという事もある。


 猫背でノートパソコンの前に齧り付いている女性……この世界ではない、前世での自分の後ろ姿。

 自分を後ろから見るという、初めての体験ながら懐かしい光景だった。

 まだ元気だった頃だ。見た目は、今と違ってぱっとしない見た目をしている。


「うーん、やっぱゼン様が強すぎるわぁ……まさに一強……」


 プレイしている画面には見慣れたスタッフロールが映っている。

 何度も見た景色。

 二人が向かい合っている絵が背景に映っている。神楽ルカと、男性――冷静な印象を与える、シルバーが印象的な眼鏡を付けた香月院ゼン様。絡み合う視線と指先。仲睦まじいワンシーンを切り取った絵。

 ならば、ゲームは『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』だ。

 前世では特に好きなゲームの一つで、オンリーイベントにもよく足を運んだ。

 ED曲は、香月院ゼンの声優さんが歌っている曲。

 懐かしい……と思っていると、目の前の自分は考えに耽っているかのように顎に手を当てる。

 初のクリアではないのは明白だ。初めてクリアした時は目から涙を出しながら放心していたからわかる。


「魔獣の群れに対して神楽を守るためにああも立ち上がっちゃうと痺れちゃうよねぇ。作中屈指の名シーンだよ。ダイアモンドダストが美しく、そして強すぎる……」


 最終章を反芻するかのように、頭の中で追いかけているようだった。

 


 場面が切り替わる。


 ソファの上にある着替えは前と変わっていて、でもある程度積んである状態に変わりはないようだった。確か、見かねた母が部屋に突撃してくる前に洗濯物を出して自分で洗濯していたはず。

 今度も同じゲームをプレイ中のようだけど、進行途中だった。

 画面にはやや幼い金髪の少年が、見た目に反する鋭い目で雷を纏っているシーンが映っている――フィオレンティーノ・ジャイルズだ。

 傍には腕を押さえた神楽ルカが地面にへたり込んでいる。


「連れ去られた神楽を、組織に意向に反してでも脱出させようとするその姿勢、若さの暴走って感じでいいよねー。雷雲を引き連れてきた少年って章も好きよー」


 うんうん頷きながら、握ったコントローラーのAボタンを押し続けていた。



 場面が切り替わる。


 ローテーブルの上にはノートパソコンの他にアルコール度数の低いお酒の缶が置いてある。

 ノートパソコンにはまた違う場面だ。

 檻の中で項垂れている、病弱そうな男の前に神楽が立っている。 ガスト・レナード。


「こいつのシナリオはなぁ……斜に構えていた部分が消えて純朴になっていくのはいいんだけど、他ルートだと徹底的に悪役なんだよねぇ……そりゃコアなファンだらけになるよ」


 

 ポチポチと、ボタンを押下する度に視線が変わる。視点が変わる。時々、急に若返った自分が出たりして驚く。だが、基本的には時が進む方向性があるようだった。

 巨漢の攻略対象である塔仁義ゴウ先輩のシーンもあったが、僅かしか無かった。個人的には好みでは無かったので、ルートを繰り返す事が無かったからだろう。

 まだガスト・レナードのルートの方が繰り返している。忘れた頃にやりだす、という程度だったけれど。

 時にはスチル回収のために、あるいはルート回収のためにバッドエンドも見たりした。その度に、視界に映る自分がずーんと落ち込んでいた。


 あるときは手元にファンブックを持ちながら、あるときは公式の出した設定集を、あるときは同人誌を積み重ねた状態でゲームを続けていた。

 時が経つごとに、髪からは艶が抜け、肌はカサカサし始め、目の下のクマが強くなる。


(……夢の中だったら、他の光景も出して欲しかったなぁ)


 映るのは永遠と自室だけだ。

 それに自分一人だけが登場人物。

 実家暮らしなのだから、もっと色々と人が出てきて欲しかったものだ。

 仕事終わり、または休日にゲームをやっている後ろ姿を見続けている。部屋は少しずつ汚れていき、帰りも徐々に遅い日が増えた。

 偶には、家族とか、友達とかが部屋に来ているシーンがあっても良かったのに。


 ゲームで見る神楽ルカは……違和感があった。

 絵師の素敵な絵なのは違いない。間違いなく美しい絵だ。

 でも、物足りない。

 

 アタシは、神楽ルカが動き回る様を知っている。

 普通なら作中では言わないような台詞、収録する必要も無い些細な言葉だって知っている。

 ゲームのように、表情が一瞬で変わるわけじゃない。

 きょとんとした表情から、徐々に笑顔に変わったり、難しそうな表情で自室の机で悩んだり、追い詰めたような表情で日々を過ごす様子を知っている。

 優しさを感じ取れる指先を知っている。

 彼女の傍で眠るときに感じる暖かさを知っている。



(でもまぁ、前向きで頑張る所はゲームと一緒だよね)


 もっとゲームの中身を覚えていれば良かったな。

 夢の中でのゲームは、所々歯抜けだったり、ぼやけた映像として見えていた。

 改めて思い出したこともあるけれど、見えない部分は多い。

 前世では覚えていたのだ、ルートの細かい所まで。でも、既に十年以上も新しい人生を生きている。



 ……そろそろ、起きる頃合いなのだろう。

 連動するように、カーテンの向こう側から日が差し込む。

 目の前には、テーブルに突っ伏したまま、朝を迎えた自分の姿。

 仕事で疲労困憊となっていき、友人関係もうまくいかなくなり、家族の心配の視線が逆に心労を募らせ、趣味の時間も減り、寂しさを埋めるように続けたゲーム。

 ノートパソコンの画面には、主人公と4人の攻略対象が出ているタイトル画面が表示され続けている。


「お疲れさま」


 聞こえていないアタシ(XXX)に声を掛けると同時、アタシ(オリヴィア)を優しく呼ぶ声に従うように、夢から目覚めたのだった。

 今日は惰眠を貪ることが出来ない。

 

 今日からまた、学園が始まるのだ。


プロットはあーでもないこーでもないおもいつかねーと思いながらも過ごしていました。エルデ○リングは今日でプレイ時間が100hを超えました。G○7も楽しくプレイしています。いやぁ面白い。

完結に向けて、多少色々あっても飛ばせるとこは飛ばすかーと指針を決めつつ……。

次の投稿は一週間後の土曜です。


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