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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第4章 それでも貴女に恋をする
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第12話 恋は雪のように降り積もり

「クロエ!!木崎さんと別れたって本当か!?」


 帰りの飛行機の中、着席ランプが消えた瞬間、カンナが色んなものにつまづきながら、クロエたちの席に駆け込んだ。


 いつもは我先にと傍多の元にやってくる取り巻きたちも、それは気になるようで、固唾を飲んで見守っている。


「……その木崎さんが、隣にいるわけだけど」

「え!?あっ……すんません……」


 カンナは、さすがに気まずく思ったのか、素直に謝る。しかし、傍多は、「私はいない方がいいわね」と、ふいっと席を立ち、取り巻きたちの所に行ってしまった。


「……本当よ。まあ、別れたっていうか、最初から付き合ってはいなかったんだけど」

「そうなの!?だって、あんなにイチャイチャしてたじゃん!」

「まあね……でも、『付き合おう』って正式に言ってたわけじゃないし。それで言えば、恋人ではあったけど、正式にお付き合いしてたわけじゃないのよ」

「ん……?んーーー?」


 カンナには少し難しい言い方だったらしく、腕組みをして、頭をかしげる。


「そんなことより、カンナと理奈は、上手くいったみたいね」

「えっ……ふえっ……待って……」


 カンナは、動揺しすぎて、喉からおかしな音を立てる。遠くの席で心配そうに見ていた理奈も、両手で顔を覆う。


「ってゆーか、なんで皆、私たちのこと知ってるんだよ!!」

「……あの『学校へ行こう』並みの大声告白しておいて、隠そうとしてたという事実に驚きよ」


 カンナは、また別の方向に首を傾ける。

「学校へ行こう?なんだそれ?『愛なんだ!』のこと?」

「おっとっと……」


 クロエは、つい口に出てしまった、というように、口を押さえた。クロエの実年齢は、ゆうに100歳を超える。それが、ぽろっと出る単語が通用しなかったり、時代遅れになっているのだから、人間の社会は難しい、と眉を寄せる。


「でも、お前らが別れたってことは、皆知ってるよ?」

「…………なんで知ってるのかしらね……?」

 クロエは、人間の、噂を共有するためにはどんな努力も惜しまない、というゴシップ体質に、若干の呆れを伴いつつ、言う。まあ、この旅行中の傍多とクロエのすれ違いと、最終日の今日、やたらと晴れ晴れとした表情で2人、ホテルから出たところを見れば、わかりやすいとも言えるのだが。


「でもまあ、人の噂もなんとやらって言うじゃん!そのうち誰も気にしなくなるって!」

「ああ……人の噂も四十九日だったかしら?」

「……クロエって、頭良さそうで、時々そうでもないよな……」


 カンナのような脳がプリン状態の女に言われたくない、とクロエは思うのだが、実際に間違って覚えていたのは事実である。クロエは、ため息をついて、負けを認めた。


「……で、そのカンナさんは、やーっと手に入れた恋人の理奈さんを放っておいて、噂話の確認?そんなんじゃ、愛想尽かされるわよ?」

「いいよ。だって理奈もこういう話大好きだし、二人で楽しむんだから良いんだよ」

「…………」


 クロエは、眉間を指で揉む。本当に、女子中学生の、噂好きには敵わないと思ったのだった。


「……まあ、そういうのも、ひょっとしたら、良いのかもしれないわね」

「ひょ?クロエちゃん、今日は妙に素直すぎない?可愛いんだけど!」

「あんた、ちょっとうるさいわよ、カンナ?愛しの理奈ちゃんのところに行きなさいよ」


 カンナは、「そーかなー?」と頭の悪そうな返事をしながら、渋々理奈のところに戻っていった。


 クロエは、そのまま、飛行機の外の青い空を、見つめていた。手首にはめられた赤いリボン付きヘアゴムを無意識に指先でいじりながら。



――

「クロエさん」


 飛行機から降りて、適当に先生方の注意をかわし、各自解散となったところで、背後から声をかけられる。


「……もう、『さん』付けは止めましょうよ……」


 クロエは、そう言って、振り向く。……そういえば、この少女には、後ろから声をかけられてばかりだな、と思いながら。


「……でも、なんだか、クロエ、って言うの恥ずかしいわ」

「そうかしら?私はあなたのこと、雪、って呼べるわよ?」

「……それは、あなたがそういうキャラだからよ」


 そう、言うのは、昨日、新しく恋人になった、宮島雪である。


 クロエは、不思議そうに雪をジロジロと見た。


「……何?何か変なところがあったら教えるのが恋人ってものよ……」

「いえ?雪、あなた、今日は髪をくくってないんだなと思って」


 そう、クロエが言うと、雪は、後ろ手にしていた腕を、するりと前に持ってくる。


「……あ、そういうこと。雪、あなたって意外とロマンチストなのね」


 雪の右腕には、クロエの左腕に付けた、リボン付きヘアゴムが巻かれていた。おそらく、クロエのことを想いながら、クロエと対になるようにはめたのだろう。

 雪は、白い頬をほんのり赤く染める。


「……だって、恋人じゃないの……」

「うん。そうよね」


 そのまま、クロエと雪は、自然と指を絡め合って、歩き出す。お互いの右腕と左腕の、ヘアゴムがこつんと当たる。


「……そのうち、ちゃんとしたペアアクセサリーを、プレゼントするわ」

「……雪……結構貢ぎたがりなのね……」



 そのまま、新しい恋人たちは、手を繋いで、人混みの中に溶けていった。

 それは、恋人の名前である、雪、のように。

一段落ついたので、少しお休みをいただきます。また、再開した際に、お会いしましょう!

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