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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
29章 みんなの署名
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109話 救護班打合せという名のもとに




 夕食の時間、記録写真など各係の生徒には先生たちから呼び出しがかかっていた。


 このあとホテルのロビーに集まるもの、先生の部屋に来るようにというものなど。


 それ以外の生徒にも明日の班行動での打合せをしておくようにと言う内容で指示が出た。


 そんな中で長谷川先生からも、私たち救護チームに夕食後に先生の部屋に来るようにという話があった。


「花菜、先生の部屋に行くんでしょ?」


「うん、一度部屋に戻っていい?」


「いいけどぉ……?」


 不思議そうな表情の千景ちゃんと一度私たちの部屋に戻って、キャリーバッグの中に入れていた区役所で受け取ったそのまま折らずに持ってきた封筒を取り出す。


「それが必要なの?」


「まぁね……」


 そもそも救護班は先生と私たち二人だけの班行動だから、本来なら打合せもその辺のテーブルとかでやればいい。


 先生もそれは分かっているはずなのに、あちらの部屋に行くということの意味に緊張してしまう。


 エレベーターを降りて廊下に出たとき、廊下に人の気配がして、左右を見る。


 目的の部屋の前に誰かがいる。


 本当に勘でしかなかったけど、ここでは顔をあわせてはいけないと思った。咄嗟に並んでいる自販機の間に二人で身を隠す。


「……長谷川先生……」


 息を殺していると声が聞こえてきた。


「申しわけありません。先ほどの言葉は嬉しくはあります。ですがお気持ちを受け取ることは出来ません」


「どうしてですか? 同じように他にもいるんですか? それとも先生にはもう交際している人がいるんですか?」



「それはいつもお話ししているとおり、お答えできる質問ではないと分かりますよね。それ以外に何か困ったことがあればいつでも相談にのります。さぁ、他の生徒に見つかってしまいますよ。今のうちに」


「はい……」


 足音が近づいて、身を隠していた私と千景ちゃんの前を涙を手で拭いながら走って行く女の子。


「6組の中島さんだったよね」


「うん……」


 確かバレンタインの時も彼女のメッセージカードが添えられていた覚えがある。文面から純粋に先生のことが好きなんだということは当時からよく分かっていた。


 彼女の気持ちを考えると、今から私たちが行おうとしていることに少しだけ罪悪感も感じてしまいそう。


 廊下に誰の気配もなくなったところで、今度こそ目的の部屋の前に立つ。


「長谷川先生、橘さんと松本です」


「どうぞ、中に入ってください」


 扉はすぐに開き、先生が招き入れてくれてすぐに閉じられた。


「先生……、中島さんは……」


「えぇ、最近よく声をかけられていました。中島さん一人だけではありませんけどね」


 やっぱりそうだったんだ。うちの5組だけでも、《《にわか》》カップルが何組も誕生しているって噂は聞いている。


 他のクラスにはある、男女の班が常に同一行動をしないという約束事……。そもそもあるだけ無駄だと分かっているようなものは5組には設定されていなくて、二つのグループが一緒に回ってもかまわないことになっている。


 明日の班行動、明後日の自由行動をきっかけにして、また悲喜交々を見ることになるんだろうな……。


 修学旅行が終わった新学期の教室を想像すると、千景ちゃんと二人で顔を見合わせてしまった。


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