マルク・ステードの人生【中編-24】
「だから俺は復讐したい。伯爵家に、公爵に。」
俺の発言に怒りを宿した鋭い目が揺れた。
「復讐?」
俺は頷いた。いきり立っているロベーヌ神父の側に寄り、転がっている椅子を起こすとそこに座らせた。ロベーヌ神父の両肩を掴み、顔を耳元へ近づける。
「そう、復讐。母さんを弄び殺した伯爵家に、母さんを侮辱した公爵に。」
肩を掴んでいた手に自然と力が入った。
「侮辱?公爵様が?」
こちらを向いたロベーヌ神父は訳がわからないといった声を上げた。俺は体を起こすと向かいに戻り椅子に座る。
「サラと公爵様に繋がりがあったのかい?」
俺は首を横に振る。
「ない。」
そうはっきりと答えるとロベーヌ神父は困惑し眉間に皺を寄せた。
「でしたらなぜ公爵様が復讐の対象に?」
俺はあの、公爵家の図書館での出来事を思い出す。
「母さんを売女だと言った。」
公爵から発せられた言葉、蔑んだ声。
「母さんを馬鹿だと罵った。」
全てがたった今起きた事のように一言一句違わずに覚えている。
「母さんの悲痛も苦悩も知らないくせに。」
自分はなんと言われても構わない。気にもならない。だが、母さんの事となると違う。伯爵に嬲られることがなければ、マルクが産まれさえしなければ母さんはきっと尊厳を奪われることもなく、生きていたかもしれない。たらればは嫌いだが、母さんに関してだけはいつも考えてしまう。だから。
「俺は公爵も許せない。」
自分でもこんなに声が出せるのかと思うほど、低く唸るような声が出た。
ロベーヌ神父はテーブルに肘をつき、指を組んで額につけている。祈るように懺悔するように。
表情は分からない。じっと、ただじっとそうしている。
「知らないのは、あなたもではないのですか?マルク。」
憐憫を含んだ目がこちらに向く。未だ祈るような姿のままで。
「知らない?何を?」
そう吐くように言えば、ロベーヌ神父は真一文字に口を閉じた。迷った様に視線を漂わせているのは、何かを言いあぐねているように感じる。
「公爵のことをですよ。」
「は?」
俺は自分でも醜く顔が歪んだのが分かった。




