マルク・ステードの人生【中編-21】
「それじゃあ、早速行こうか。」
そう言って立ち上がるとマリーもヨイショと立ち上がった。前はすっと椅子から立ち上がっていたのが、今はテーブルに手を付いている。それだけで、随分と時が経ったのだと思い知らされる。
マリーと目が合うと、一房こぼれ落ちていた髪を耳に掛けてくれた。そして髪と目がしっかりと隠れるようにマントを整えてくれる。
「見られちゃまずいんだろ、ちゃんと隠しな。」
やっぱり、マリーは察しがいい。俺がマリーのマントを着た意味を、フードを被った意味を理解してくれていた。
こういうところは変わっていない。
少し沈んでいた気持ちが浮上する。
「人目を避けるなら回り道になるが、裏から行った方がいいね。」
部屋を出て、慣れた様子で軋んでいる階段をリズムよく降りて行くマリーの後に続く。外に出ると高く登っていた陽が少し傾いていた。
「俺がいなくなってから、道が増えたり減ったりはしている?」
ほんの少し早足で整備のされていない道を行く。俺の言葉にマリーは振り返らずに首を横に振った。
「あの頃のままさ。いや、人がいなくなって通ることが少なくなった道はいくつかあるね。そこは雑草がぼうぼうだし、知らない連中が勝手に住み着いていたりするね。」
マリーの言葉に俺は考える。そこの辺りはきちんと調べてもらった方が良さそうだ。だが、横の繋がりが強いこの地域で、知らない人間となると少し危険だ。
「リックにその辺りを調べさせるよ。」
マリーは足を止めずにこちらを振り返り、僅かに口角を上げた。
「リック?あの、リック?」
「リックと言えば、利かん坊のリックしかいないだろ。」
声を上げて笑うマリーの肩が揺れる。
「リックは今でもマルクのこと、気にしてるんだよ。」
言葉に詰まってしまった。リックは悪ガキで俺の初めてのケンカ相手。取っ組み合いをして初めて勝った相手。初めての親友の一人。
「酔っ払うと、あんたと一緒にいた時が人生で一番、楽しかった!面白かった!って管巻いてるよ。」
なんだよ、なんだよ。俺だけじゃなかったのか、俺だけが覚えてたんじゃなかったのか。今でもリックは、あの時、あの場所で、駆けずり回って、悪戯して、怒られて、一緒に過ごした日々を覚えていたんだ。
立ち止まってしまった俺を、少し先に行っていたマリーが戻ってくる。
「リックは、あんたのためなら喜んで協力してくれるよ。」
マリーが俺の背中に手を添えて撫でてくる。そんな目で見てくるなよ。肩を抱き寄せないでくれよ。
涙が止まらなくなるだろ。




