マルク・ステードの人生【中編-20】
「マリー、一緒にロベーヌ神父のところに行ってくれないか?」
俺はマリーを抱きしめていた腕を解くと、彼女の表情を伺い見た。座っていたマリーは俺を見上げ、不安そうに眉を下げた。俺がロベーヌ神父を巻き込もうとしているのが分かったのかもしれない。
「ロベーヌ神父には俺とマリーの仲介をして欲しいと思って。」
俺は壁にかけてあった少しカビ臭い黒ずんだ麻のマントを羽織るとフードを目深に被った。
「仲介?」
顰めっ面をしたマリーが俺を見てくる。だから俺は安心させるように、昔、悪戯を思いついた時の笑い方をした。片方の口角を上げて、目を細めて。
「俺が直接、マリーと手紙のやりとりをしていたら怪しまれるだろう?しかもマリーは字が読めない。」
あぁ、確かにとマリーは頷いた。
「そこでロベーヌ神父だ。」
短いヒールを鳴らしながら歩くと再び椅子に座る。
「貴族の奥様が神父に手紙を送っても怪しまれない、保護してもらった教会なら尚更だ。」
「保護?」
俺は頷くとガタつくテーブルを指で叩いた。
「迷子になった俺はマリーに案内されて教会を訪れる。教会はやってきた貴族の奥様に驚き、貴族家に連絡を取る。無事に使用人と会えた奥様は後日教会にお礼の手紙を送る。」
マリーが聞き取りやすいようにゆっくりと順序立てて説明していく。
「教会に興味をもった奥様が神父と手紙をやりとりし始める。」
どう?と肩を竦めて首を傾げる。
「確かに、普通な感じがするね。」
納得したように頷くものの、まだ懸念があるのか眉間に皺が寄っている。
「でも、中身を見られたらおしまいじゃないのかい?」
マリーにしては至極真っ当な質問に目を丸くし、声に出して笑ってしまった。
「あんた、私を馬鹿にしたね?」
昔のように頬をつねられる。その痛みと懐かしさで薄らと涙が浮かぶ。
「違う違う、そこまで気がつくとは思ってなかったんだよ。」
マリーの指から逃げるように体を傾けると、ニヤニヤしてしまう口角を指で揉んだ。
「暗号でやりとりをするんだ。」
「暗号?」
俺は懐から一枚の折り畳まれた上質な紙を見せた。
「この中に暗号の読み方を記した。」
紙をテーブルに滑らせてマリーへ渡すと、マリーは紙を開いた。文字を読めないマリーからしたらみみずが這っているようにしか見えないだろう。
「私には良くわかんないが、大丈夫なんだね。」
折った状態で手渡された紙を懐にしまうと頷いた。
「それにロベーヌ神父なら、これを見たら一発で理解してくれると思うよ。」
紙に書かれているのはロベーヌ神父にも懐かしい暗号だ。だって、ロベーヌ神父が母の事を知りたくてバレないように作った暗号だから。




