サラの人生
サラは一応は男爵の娘であったが、辛うじて爵位を維持していたような家のため、平民よりも質素な生活を送っていた。侍女としての礼儀作法は知らず、身元だけははっきりしているため、なんとか伝を辿って伯爵家のメイドとして働くこととなったのだ。
サラの生活は変わらなかった。実家にいた時と同じだからである。日が昇る前に起き、身支度を整える。井戸で水を汲み、屋敷にある水瓶をいっぱいにし、その後は料理で使うじゃがいもやにんじん等の皮を剥く。庭の掃き掃除と主人たちの食事の片付けが終わった後に小さな黒パンと野菜の屑が入ったスープを食べる。
まだまだやることはある。屋敷中の衣類やシーツをかき集め、木桶に溜めた水で洗濯をする。汚れを落とそうと力強く洗うと高い服をダメにしてしまうため、優しく、でも汚れは完璧に落とす。垢切れの痛みはいつの頃からか感じなくなった。
屋敷の掃除も行う。シャンデリアの埃を落とし窓は曇りなく遠くも見通せるように磨き、床にはチリひとつ残してはならない。それから再び厨房に戻ると、またじゃがいもと玉ねぎの皮を剥く。終わればお湯を沸かしてもらい、何往復もして主人達の浴槽をいっぱいにする。温度調節をするのは侍女の仕事。
朝と同じで主人たちの食事の片付けが終わればやっと晩御飯。食事の内容は朝と同じ。それでも食べられるだけでありがたい。僅かな蝋燭の明かりで繕いものを終わらせて、主人が使った冷めたお湯で体を清める。そうしてサラの一日は終わる。
僅かな給金のほとんどを、実家に送り残りは貯めてた。結婚し、自由を手に入れたら小さな家を買い子供と暮らしたい。その小さな小さな夢を胸に抱き、一生懸命働いた。
しかし、それは叶わぬ夢となった。
ある日、サラは伯爵に襲われたのだ。部屋に連れ込まれ、嫌がるサラに手を上げ、欲望のままに弄んだ。それから何度も何度も、サラは辱めを受けた。サラは抵抗が出来なかった。当たり前である、伯爵家当主と男爵令嬢。身分の差は歴然だった。僅かといっても給金がなければ家族は生活が出来ないし、自分自身も生活できない。だから、歯を食いしばって耐え抜いた。
そんな生活も終わりを告げる。サラは妊娠したのだ。日に日に大きくなるお腹を隠し通すことは難しく、伯爵夫人にも露見しゴミ屑同然に追い出された。実家を頼るも、未婚の妊婦など置いてはおけぬと縁を切られた。失意の底にいたサラはそれでも希望を捨てなかった。腹の中で懸命に生きようとする我が子を見捨てることが出来なかったのだ。
王都の救護院に助けを求めた。出産し産後の数ヶ月だけお世話になり、貯めたお金で小さな部屋を借りてそこで子供を育てた。サラはなんでもした。洗濯婦や掃除婦、子守から酒場の給仕まで。あらゆる仕事を朝から晩まで行った。ただ、体だけは売らなかった。子供に恥じぬことはしたくなかったからだ。
子供に障害があったもの、すくすくと成長した。それがサラには嬉しかった。自分に似た可愛い子供。パサついているけれども亜麻色の髪に、王国では珍しい湖畔のような澄んだ水色の瞳。可愛くて可愛くて仕方がなかった。
そして、子供はとても利発だった。一を聞いて十を知る。文字も簡単な計算もすぐに覚えた。自分より体の大きい子にも何度ケンカで勝った。
この子は立派に育てよう。この子が自由を手にいれるために。好きなことをできるように。そう心に誓い、ますます仕事に励んだ。
そうして子供が十歳の誕生日を迎える前に、サラは亡くなった。可愛い可愛いオリビアを残して。




