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死ねない少女は、もう死にたくない  作者: トウロウ
第1章: 洞穴の底から
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第14話: 何度目か分からない二度目

「ふう」

 

 通算何度目かも分からないスライムとの激闘。それを今回は一切の怪我無く切り抜けられて、自らの成長を実感して息をつく。肩を回してみても、不具合は感じられない。弾はいくらか無駄撃ちしてしまったが、完勝だ。

 

 すぐそばに石柱が現れたのをなんとなく気配で感じるが、振り向かない。現状あの報酬群はもう十分な数が集まっているものばかりで、受け取ってもインベントリを圧迫するだけだからだ。

 今考えるべきは、あの老人の怪物を突破することだけ――。

 

「……いや」

 

 毎度のスライムとの激突、しかしいつもとは違う箇所がある。サヨの消耗具合だ。この状態でタブレットを確認したらHPの表記はどうなっているのだろうか。

 

 これまでの戦闘でも、HPの定量的でない表示方法に疑問はあった。こけて全身を強打していても4くらいしか減っていないときもあれば、かすり傷だけなのに半分も減っていたこともある。

 現状なら少なくとも1つの基準が――と改めて石柱に向き、文章を眺めて、

 

「――ぁ?」

 

 表示されていたのは、相変わらず同じ文言たち。いや、違う。それぞれのHP表示の前に、何やら文字が追加されていた。これまでにない変化に目尻を歪め、目を凝らして、思考の足場が消え去る浮遊感を感じた。書かれていたのは、

 

「サヨ……HP、98/100……」

 

 問題は一切ない。なぜ2だけ減っているのかは、まあなんとなく分かる。それはきっと戦闘には全く関係なくて、今の状況にも関係ない。問題は、

 

「サヨ、HP、0/27」

 

 二行目の、その理解しがたい文言だ。スライムの体力を示していたはずの場所に、明らかに有りえない名前があって、だってサヨは生きている。なら、このサヨは、誰だ。

 

「ぅ、ぶ……おぇ……」

 

 理解してはならない、と脳が警鐘を叩き、嫌悪感が腸の底まで沈殿して逆流してくる。胃液の酸っぱい匂いが充満して、思わず口を開けて床に全てぶちまけてしまった。収まらない吐き気がどうしようもなく現実的で、サヨを逃してくれない。

 この、人の形をしているサヨを。

 

 多分これは、不快で残酷な誘拐犯の仕業だ。敵の名前を自分と同じにして、嫌がらせをしているだけだ。色々なことを考えさせて、それでサヨに精神的な苦痛を与えているだけだ。

 

 普段なら息をするように発せるそんな軽口が、防衛機構が、どうしても働いてくれない。だって見てきた全てが、やってしまった過去が、見ないふりをした疑問が、サヨを鎖で縛って放してくれないから。

 

サヨは、意図して『ログ』のタブレットを確認していなかった。

 

 自分が死んだ記録なんて、見ていて気持ちのいいものでもない。本来なら打破すべき現状を見直せる重要な情報を、そんな薄っぺらい欺瞞で蓋をしてきた。だって確かに、一番最初に確認したときに、スライムと戦って自殺してしまったときに見たのだ。

 

『シアナと遭遇: 戦闘開始』という、現状と矛盾した文言を。


 シアナ。名前だ。きっと女性のものだろう。あの場に女性なんて一人もいなくて、それどころか人間すら、私だって、必死に。

 

 状況証拠の全てがサヨを責め立て、それでも拒む本能がサヨを突き動かす。

 

「はっ、は――」

 

 このままじゃ、きっと駄目だ。

 

 既に気づいてしまっている。魂が悲鳴を上げて、理性が罪を望んでいる。ただの妄想だと、論理の飛躍だと、切り捨てられない。これは最早そういう姑息な思考実験で片づけられない。

 

 何か大事なものが崩れ去ってしまうのを、きっと避けられない。

 

 ふいに、指先に冷たいものが触れた。それは何度もサヨを助けて、一度救ってくれたもの。

 

「――」

 

 大丈夫。私は、大丈夫だから。

 

 既にやったことがあるのだから、失敗なんてしない。

 

 無意識の内に引き攣る頬をなんとか宥めて、ぐっと手に握ったそれを、スマートの銃口を右耳の上あたりに向ける。

 

 これは悪い夢だ。

 

 目が覚めたらきっと顔の輪郭が朧げになってしまった母親と他愛もない会話をして、表情が見えなくなった父親と笑いながら何でもないことを言い合い、名前も思い出せない大事な友人と遊ぶ約束をするのだ。

 

 ――『人』を殺した普通じゃない私が、普通に過ごすために。

 

 指の力を込めて、全てを投げ出して、明日を望んで、幕引きに至る。普段なら重たいトリガーが、何だかずっと軽いように思えて。

 

 瞬間閃く真っ白な光を最後に、凶弾が優しく私の意識を刈り取ってくれた。

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