第48話 楽しませてやれⅣ
「離れろって言ってんだろ!」
「くそ! おい! 手ぇ貸せ!」
何本もの手が俺たちを引き離そうとする。その隙間を縫い、サラヴェリーナの腕が背に回された。強く抱き返してくる。でも、助けを求める抱擁じゃなかった。
「!」
抱きしめられた瞬間、呼吸が滑らかに通る。痛みが消えていく。背中から流れ込んできた陽だまりのような温かさが、頭痛を、内臓が圧迫された苦しみを消し去る。ひびの入った脛や肋骨まで音もなく繋がっていく。これが復元か。目に見える外傷はあえて残し、内部の損傷だけをピンポイントで「巻き戻して」いる。
「サラ……お前……」
サラヴェリーナの血色が青白さを通り越して死人のような土気色に沈んでいく。瞳の光までがうつろに濁る。全身から生気が抜けている。きっと、ただでさえ足りてなかった生命力を俺に注ぎ込んだ代償だ。
「いいの、私は……これから……補充できる、から」
途切れ途切れのその言葉で、こいつが俺の意図を汲み、これから自分の身に降りかかる地獄を受け入れたことを理解する。充分だ。これ以上の言葉はいらない。黙って一度だけ頷いて見せた。お互いに腕の力を抜く。すぐに首根っこを掴まれ、強引に引き剥がされる。
「いいな! 絶対に殺すんじゃねえぞ!」
喉に輝く紋様に向かって叫んだ。その叫びを村人たちが嘲笑う。
「何言ってやがる、イカレ野郎が。心配しなくても、あとがつかえてるからな! まだ殺んねーよ!」
「ははは。いっそ死んだ方がマシだと思うぜ」
「おい! このクソ野郎は向こうに連れてけ! 縛ってろ!」
引きずられながら視線でサラヴェリーナの姿を追う。たくさんの男たちに囲まれ、女たちからは遠巻きに罵られ、宿の奥へと連れられていく。会場はあそこか。探す手間が省けるな。
「くそが、てめえなんかここで殺しちまえばいいのによ……」
ぶつぶつ言いながら誰かが俺の手首を後ろ手に縛った。乱暴に馬車の荷台へと放り込まれる。俺たちが乗ってきたおんぼろ馬車だ。染みついた血からはすでに腐臭が漂っている。御者台が軋む。座ったのは二人。鞭をしならせながら、馬を手なずけようと話しかけている。
「心配するなよ母さん、全速力で走らせてすぐ戻るから」
「ああ、戻ったらあの魔族の女も片付けてやるよ」
「頼んだよお前たち。まったく……坊やがあんな調子じゃ、頼れるのはあんたたちだけだ」
ベルジェと短いやり取りを交わし、腰に剣を下げた二人の息子たちが荷台に乗り込んできた。死刑執行の立会人はこいつらか。
「いいぞ、出せ!」
ひとりが足を踏み鳴らし合図を送ると、馬車が揺れて走り出した。行き先は怪物の胃袋。あとに残したのは、指を失い、凌辱を待つ、俺の所有物。
……あぁ、いいぜ。せいぜい今のうちに、その汚え股間を膨らませておけばいい。まだ笑っていろ。その臭い口が許しを乞う悲鳴しか上げられなくなるまで、そう時間はかからない。
俺は戻ってくる。お前たちにふさわしい地獄を見せるために。俺は必ず戻ってくる。傷のひとつひとつに利子をつけて。代償が生やさしい死で済むと思うなよ。




