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アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


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第46話 楽しませてやれⅡ

「……っ! ……っ!」


 みるみるうちにニクラスの顔が赤黒い怒りの色に染まっていく。開き直れば、こいつは男として終わる。黙っていれば、群衆に悟られる。これは挑発じゃない。選択肢の削除だ。こいつはもう、ここで簡単に俺を殺させるわけにはいかない。そんなことになれば、俺から与えられた恥辱は消し去れないまま永遠に確定してしまう。

 ニクラス坊ちゃんがいま、何より欲しているのは復讐じゃない。自分は男だと証明できる舞台だ。


「ごちゃごちゃうるせえんだよ! さっさと死――」


 兄弟が俺の頭を挟んで両隣に立った。月光を反射する刀身が視界の端で光り、剣が頭上に振り上げられる。


「嫌っ! ネイト!!」


 恐怖はない。焦りも。これは賭けですらない。もうわかってる。こいつは振り下ろせない。あいつが振り下ろさせない。


「――待て! 殺すな、兄貴!! やめろ!!」


 刃が落ちてくるより早く、待ち望んだ絶叫が響いた。



「……ニクラス?」

 

 中途半端に止められた剣が俺の頬をかすめ、地面に突き立てられる。困惑する兄を無視して、顔をひきつらせたニクラスがサラヴェリーナを引きずりながら近づいてくる。


「お、お前、さ、さっき俺を、ブタの餌にするって言ってたよな……!」


「……言った」


 ニクラスの声が震えている。怒りか、興奮か、……両方だろうな。

 

「だから俺も考えたんだよ、どうやったらお前を死ぬほど怯えさせられるか! 死ぬほど後悔させてやれるか!」


 欠けた歯を隠そうともせず、厭な笑みを浮かべたニクラスが見下ろしてくる。


「お前は簡単には殺さねえ……! 餌だ……!そうだよ! お前はオヴィンニクの餌にしてやる! あの獣どもに生きたまま食わせてやる!」


 周囲の村人たちがざわめく。そうきたか。オヴィンニク。火を吐き、群れで人を狩って喰う化け物。ニクラスはあいつらを俺の死刑執行役に選んだ。


「坊や……、あんた、急になにを……」


 ベルジェが眉をひそめるが、興奮したニクラスは金切り声でまくしたてる。

 

「こいつを! こんなにあっさり殺してやることないだろ! 生きたままもっと残酷な方法で殺るんだよ! いいだろ母さん! 殺されかけたのも仲間を殺られたのも俺なんだ! こいつの死にかたは俺が決める!」

 

 なりふり構わず喚き散らす息子の形相にベルジェは目を細めた。それから周囲を見渡し、村人たちの熱が息子に傾いているのを悟って肩をすくめる。ここで言い争って士気を落とすことは得策じゃないと考えたんだろう。


「……分かったよ、好きにしな。坊やが、そう言うなら……」


 ママのお墨付きをもらってすっかりご満悦のニクラスが俺に向き直って笑った。小屋での屈辱を晴らせると確信している。


 「安心しろよ。お前が生きたまま引き裂かれて、はらわたをぶちまけて、あいつらに骨までしゃぶられてるあいだ、この女は俺が慰めてやる。そうだな、せっかくだから村の男たち全員でなんてどうだ? サキュバスなんだからそれが本望だろ? 」


 喉に短剣をあてたまま、ニクラスが空いた手でサラヴェリーナの腰の曲線をなでる。周囲の男たちが下卑た笑い声を上げ、さっきまで「恐怖の対象」だったサラヴェリーナを見る目が「使い捨ての娯楽」を見る目に変わる。

 

「全員で飽きるまで犯って犯って犯りまくって、どの穴も使えなくなったら火あぶりにしてやるよ。なんの価値もねえ魔族のクソ女を最後に有効活用してやるんだ、感謝しろよな……!」


「……」


 男であることを証明する方法。それは俺と――サラヴェリーナを徹底的に屈服させ、蹂躙し、惨めに這いつくばらせることだ。

 わかっていた。こうなることくらい。わかっていて選んだ。そのためにニクラスの怒りを利用した。仮に俺が大暴れして何人か片付けたところで、サラヴェリーナは殺される。なら、残された選択肢はひとつしかない。時間を稼ぐ。殺されるまでの時間を、最大限に引き延ばす。いますぐ火あぶりにされないために、サラヴェリーナ自身にその時間を稼いでもらう。

 吐き気がするほど不快だ。それでもこんなクズ共に殺されて永遠に俺の手から離れるよりはマシ。



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