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アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


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第35話 バカでチョロくてムカつくビッチⅡ

「カロ……! おい! 嘘だろ畜生! てめえぶっ殺してやる!!」


「おっと」


 ほら釣れた。逆上した指示待ち男が斬りかかってくる。意思よりも先に剣を握った腕が反応し、明後日の方向へそれを弾き返した。勢いを殺せずに体勢を崩した男の首へ、流れるように刃を振り抜く。手応えは大きい。あいかわらずこの身体の無駄と容赦のない剣技には惚れ惚れするぜ。刎ねられた首が床に落ちて転がる。拍動に合わせて切り口から血が噴き上がる。首を失った体が慣性で数歩よろめき、軽く足首を払うと派手な音をたてて積まれた薪の山へ倒れこんだ。ぴくりとも動かなくなった死体の周りに何本もの薪が散らばっていく。


「ヒッ、ひぃっ、ひっ、ヒッ……!」


「……それで、気は変わったか? 返せっつってんだよ。どうせそんなんじゃ満足させられねえぞ」


 壊れたポンプが産気づいたような引きつった呼吸を繰り返すニクラスに向き直り、もう小便をちびる程度の役にしか立たない萎びた股間を顎でしゃくる。慌ててズボンの中に押し込む姿を、サラヴェリーナまでが鼻で嗤って見せた。……相当キレてんなあれは。あの侮蔑の表情、見ているだけで男の精神をえぐる。


「くそっ、くそっ! 殺す! てめえだけは絶対に殺す!」


 横で棒立ちのままうろたえている男を押しのけてニクラスが立ち上がった。ぶちまけられた薪のひとつを引っ掴んで、怒りと屈辱に染まった顔で突っ込んでくる。振りかざされた腕を掴み、手首を捉えて捩じあげた。


「うあっ……!」


 本来の可動域を超えた痛みにニクラスが悲鳴をあげ、手にした薪を簡単に取り落とす。立ち上がったことでよく見えるようになったブーツのデザインを全員と見比べた。ああ、間違いない。


「……お前か」


 隙間から見えたものと同じ。サラヴェリーナを打ち、蹴りつけた男はこいつ。


「痛っ……、離し――」


 ナニと同じで威勢もすっかり萎えたらしい。涙目で見上げてくるニクラスに乞われるまま、手首の締め付けを少しだけ緩めてやった。意識して表情をやわらげ、目線だけで床に転がるサラヴェリーナを指し示す。


「なあ、ニクラス。そいつには俺も手を焼いてんだよ。チョロいくせに危機感がねえし、弱いくせに行動力はあるし、自分の置かれてる立場をわきまえねえで刃向かってくるしよ。ムカつくよな?」


「……? な、なんだよ、それ……、あ、ああ、へへっ、なんだ、お前も本当は――」


 ニクラスの顔に情けない安堵が浮かぶ。媚びてひきつった愛想笑いを向けてくる。俺も笑みを返して、掴んでいた手首を放した。代わりに胸ぐらを鷲掴みにして、鼻先が触れる距離まで引きずり寄せてやる。


「バカでチョロくてムカつくビッチでも、いまは俺のものなんだよ。それだけでてめえの何億倍価値があると思ってんだ? 傷なんかつけやがって、バラバラにされてえのかクソボケが」


「ひっ」


 純粋な殺意だけを込めた囁きに、ニクラスがひくりと喉を鳴らす。酒の臭いに混じって、酸っぱくて熱っぽい古い脂のような臭いが漂ってきた。ああ、知ってる。強い恐怖、死の淵に晒された人間からは決まってこの匂いがする。言うなればストレスの臭いだ。掴んでいた胸ぐらを離し、一歩だけ下がって距離をとった。


「まあ、するけどな。ちょうどこの村、腹減ってそうなブタがたくさんいるし。食わせてやるか。その前にこれは、サラヴェリーナ(そいつ)のお返し」


 体重移動、腰の回転。すべての力を拳に一点集中して放った渾身の右フックをニクラスの頬骨にめり込ませる。鈍い破裂音が響き、頭が横に弾けた。唾液と血飛沫、それからいくつもの歯が宙に放物線を描く。床のうえで白い欠片がばらばらと跳ねて、遅れて膝から崩れ落ちた体がうつ伏せに床板へ叩きつけられた。


「……あ? あー、くそ、……マジかよ」


 床に伸びたニクラスの体が浜に打ち上げられた魚みたいに痙攣を繰り返し、やがて完全に沈黙した。横顔を覗いてみると白目を剥き、口からは血混じりの泡を吹いている。……死んだか? いやいや、まさか。お前はまだまだこれからなんだよ。嘘だろ、おい。これだけで? つま先で転がす。反応なし。

 ………………あ、死んだかもなこれ。くそ。この身体が血の滲むような努力を重ねて鍛え上げたであろう筋力を忘れていた。力加減を間違えたらしい。元の身体の感覚で殴ったら、貧弱な奴はワンパンで死ぬ。さすがに細かい調整は時間をかけて覚えるしかなさそうだ。お前も、殺すつもりがない時に勝手に死ぬんじゃねえよニクラス。この、勢いだけの打たれ弱いチワワ野郎!



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