第29話 いまは無理Ⅲ
「うっ、ううっ……」
「ははは。……な? だめだろ?」
脚のあいだで肩を落として泣いているサラヴェリーナを前に、乾いた笑いが込み上げる。結果はまあ、ご想像の通り。大の大人がガチ泣きだ。だから言ったんだ、諦めろと。聞きわけさえよければここまで打ちのめされることもなかったろうに。
「し、し、信じられない……! ひっく、私はサキュバスなのよ……!? 魅了魔法だってかけてるのに、どうして効かないの……!? うっ、うっ、 屈辱……! こんなの屈辱よ……!」
「お前が夢みてきた理想の男から栄養を搾り取りたきゃ、誰かを殺すのを待つしかねえってことだ……」
いつのまにか妙な術までかけられていたらしい。効かなかったが。上体を起こすと、サラヴェリーナの涙ぐましい努力の痕跡がぬらぬらと光っているのがよく見えた。シーツを引き寄せて雑に拭う。そのシーツは無言で奪われて、鼻をかむのに使われた。寝る前に、ベルジェから新しいのをもらってこねえとな……。
「ひどいわ、こんなの生殺しよ! ひっく、酷い目に遭いっぱなしで、ようやくっ、ようやく少しイイ思いができると思ったら、顔だけの男だったなんて……! ううっ、アウラドリイスさま、なぜです、どうして私がこんな目に…… 」
「もう泣くなって、ベッドで泣かれるのがいちばん萎え――」
「最初から萎えてたわよ!!」
なんて瞬発力と切れ味だ……。早く機嫌を取らねえと、一晩中これの相手をさせられて何度も地雷を踏み抜くことになる。
「はー……。ほら、交代だサラヴェリーナ。頑張ってくれたしな、無駄だったけど。安心しろ、俺はちゃんとお返しするタイプ」
めそめそと顔を覆っている腕を引いて体勢を入れ替える。仰向けにされたサラヴェリーナは、勃たないくせにどうして私の上にいるの? みたいな表情で見上げてくる。涙の跡がのこる目じりや頬にキスをして、開かせた脚のあいだに身体を滑り込ませた。いい眺めだ。これだけでだいぶ勝った気にはなれるのが情けない。
「性欲を燻らせた女の厄介さはよく知ってる。というか、それでだいぶ痛い目を見てきた。おかげでナニを使わずとも満足させる技術は磨きあげられたんだよ。存分に味わってくれ」
「私はお腹がすいてるのよ! 性欲を発散したいわけじゃないの!」
「まあまあ。まずためしてみろ。あれだけ偉そうで、あれだけお前をそそのかした男がどの程度のレベルなのか知っておきたいだろ? スッキリするし、気もまぎれるよ。本気で嫌ならいつでもやめてやるから。騙されたと思って、な?」
髪を撫でて、ほほ笑みかけて、じっと見つめれば、赤くなって視線を逸らしはじめる。面食いめ。このチョロさで、これまでどうやって身の安全を守ってこれたのか不思議なくらいだ。
「……下手だったら、承知しないわ。もっと手が付けられなくなるわよ」
「いいよ」
唇にもう一度、短いキスを落とす。所有物のケアも立派な主人の務め。ご機嫌取りのご奉仕も、この生意気な態度を崩せるなら悪くない。せいぜい乱れてくれるといい。静かに上がっていく体温を感じとりながら、やわらかな肌に指先を沈める。




