表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/50

第27話 いまは無理Ⅰ

 壊れている。ものごころがついたときにはわかっていた。周りの連中にはあたりまえのように備わっている部品(パーツ)が、自分には足りていない。産まれるときに腹のなかにでも忘れてきたのか、単なる設計ミスか。とにかく出荷されたときにはすでに欠落品(ジャンク)――修理不可、返品不可。結果として俺はいつもラインの外に立ち、なにもかもが他人事。すべてが鈍く、分厚いガラスの向こう側。皮肉にも見た目と聡さだけは秀でていたおかげで、観察と同調はどんどんうまくなる。素敵な笑顔、喜ばせる言葉、使い捨ての優しさ、期待通りの反応。乾いていく。磨り減っていく。空洞(あな)が開いているんだ。その空洞を埋めねえと、長くはもたない。俺はいつかこの虚しさにすら飽きて、自らの手で人生に幕を引くんだろう。それすらもわかっていた。


「どうしたの? ずいぶん大人しいのね。あなたも望んでいたことでしょう? サキュバスを相手にするのは始めてで、緊張してる……? ふふっ、心配しないで」


「……」

 

 ターニングポイントは幼稚園(キンダーガーテン)での、小さな事故。ネイト少年は偶然にもガラスを叩き割る方法を知ってしまった。安心、興奮、生きている実感。壊れた回路が繋がり電気が走る。()()は加速度的に意図的な実験へと変わり、両親の心労と示談金の額を増やしながらエスカレート。ついに殺しへと辿り着いたときには漠然とした仮説は疑いようのない確信へ。誰かの命の灯火がこの手のなかで消えたとき、ガラスが砕け散り、俺は(せい)の鮮烈な躍動を感じることができる。壊れた魂に血が通う、わずかな時間だけ正常に機能する。人並みに眠り、人並みに繋がりを求め、人並みに歓楽を享受できる。――愉しい。空洞が満ちる。これが悦び。これだけがただひとつの、呼吸をつづける方法。

 


「あなたのしたいこと、させたいこと、どんな欲望にも応えてあげる。お腹がすいて仕方がないのよネイト……。あなたが食べさせてくれるのを、ずっと待ってるのに……」

 

「……いまは無理」


 瞳を潤ませ、甘ったるい挑発を口にしながらサラヴェリーナの手が下腹部を滑っていく。どこをどう触れられたら男が喜ぶのか知りつくした指の動き。ベルトのバックルが外され、ひとつひとつボタンを解かれる。蛇みてえな(なま)めかしさでズボンのなかへ手が滑り込んできて、中心を撫でさすった。


「……?」


 俺の身体にぴったりと覆いかぶさり、首筋や胸についばむようなキスを繰り返していたサラヴェリーナの動きが止まる。困惑した表情ですこしだけ体を起こして、手のなかに握っているモノを確認。反応の兆しすらないそれに数秒間思考停止。こちらに向き直るころには、自信満々に浮かべていた妖艶な笑顔はすっかりひきつっていた。


「……き、気分が乗らない? 性急すぎたかしら、意外と繊細なのね……。大丈夫よネイト、怖がらないで。なんでもあなたの好きにしていいのよ……? ほら、見て、触って……きっとすぐ元気に――」


「だから、いまは無理なんだって」


 そう、誰かの命の灯火がこの手のなかで消えたとき。

 安心、()()、生きている実感。

 ()()()()()()()()()()()()()()()


 それ以外の時間はスイッチの入らない不良品。飢えた美しい女が俺を求めてどれだけ息を荒げていようが、熱は生まれず血は通わない。周りの連中が当たりまえのように味わっているこの世のすべての愉しみは、分厚いガラスの向こう側。


「な、な、なんで……? わ、私の魅力が足りないの? う、嘘よ、そ、そんな、わ、わわ、私に反応しない男なんていままで――」


 いままでこの体の魅力と誘惑が通じなかった男はいなかったのか。哀れなほどに青ざめて唇を震わせるサラヴェリーナを前に、多少の罪悪感を覚えなくもない。女のプライド――というか、サキュバスとしてのアイデンティティをへし折ったに等しい。しかし不本意ながら俺はこういう展開に慣れている。うんざりすほどな。言いわけのストックも、相手のこころを掴んだまま意識を俺の下半身から逸らす手先の器用さも持ち合わせてる。問題ない。とにかくフォロー、それからやり込める。


「落ちつけ、お前は充分すぎるほど魅力的。綺麗だし、エロい。最初から言ってんだろ、マジで好み。 だから、これはそういう単純な話じゃな――」


「じゃあ何!? あなた不能なの!? あれだけ偉そうにしておいて!? あれだけ私をそそのかしておいて!? その顔と体で!?」


 思っていた以上にグイグイ来るな……。ここまでの道中、俺の下世話な言動をあしらってた澄まし顔はなんだったんだ。裸になると理性まで脱ぎ捨てちまう性分か? 肩を掴まれ、乱暴に揺すられる視界のなかで豊満な胸が重たく跳ねる。魅力的、それは間違いない。ただ、いまは目の保養以上の意味を持たないだけで。

 

「いやいや、不能ってわけでもない、使えるときにはすげえから……。ただその使えるときが限られてるだけで――」


「この状況を見なさいよ! ベットで、裸で、二人きり! あなた好みの女があなたを求めてすべてを差し出してるの! 美しくて従順で奴隷属性まで付いたサキュバスを前にして何が気に食わないのよ!? ここで手を出せないのが不能じゃなかったら何!? 役たたず! 裏切りもの! いま使わずにいつ()()を使うの!? 宝のもち腐れよ! バカ!」

 

「うるせえな! 殺しのあとだよ! 殺しのあと! 誰かを殺さなきゃ勃たねえの! そういう仕様! お前に首輪をつけたときにはバチバチに勃ってたよ!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ