第24話 すげえ自制心だなⅡ
「価値……?」
「お前から見ていい男か? 酒場で誘われたらついて行くか? 元の世界の俺は母親似でさ、どっちかというと中性的な見た目だったんだよ。典型的な金髪碧眼の、男にも女にも余計な警戒心を与えない甘いマスクってやつ。第二次性徴期までの愛称は天使だ。笑えるだろ? 獲物の懐に入るには便利なルックスだったが、この身体は存在感がありすぎて使い勝手がまだわからない。だから確認な。この世界の女的にどう? 威圧的すぎるか? 魅力を感じるか? なんで目ぇ逸らすんだよ、よく見ろ、ほら」
「あっ、う、ちょっ、ちょっと待って……」
顔を背けようとするサラヴェリーナの頬を片手で掴み、正面から向き合わせた。瞳が潤み、無理やり合わせた視線が揺れている。首筋から頬まで白い肌がじわじわ赤く染まっていく様が、欲と羞恥の境界線を匂わせる。ああ、これだよこれ。抵抗したがる理性と惹かれる本能をこれでもかと見せつけてきやがる。こいつのこれにやられたんだ。ここまで「堕ちてる」と男に錯覚させて、征服欲を煽り立てるのは才能。真正の魔性だなこいつは。
「どうだ、この顔に不快感は? 怖くないか? 俺に身を任せられるか? 信用できるか? 抱かれたいと思うか? もしお前が俺の所有物じゃなくても、喉を、腹を、やわらかくて大事なところを、こうして無防備に晒してくれるか?」
「ふっ、うっ、うぅ……」
「どうなんだよ、教えてくれなきゃわからねえだろ」
肩を震わせ浅い呼吸を繰り返すサラヴェリーナの、薄く温かい腹を手のひらで撫であげる。紋様を隠している手首を掴み、青い血管が透けて見える内側のやらわらかな場所に軽く歯を立てた。息を詰める気配と、唇に伝わってくる狂ったような脈拍の速さ。
「顔、真っ赤だな。体が熱い、脈も速い。いいね、体は正直ってやつ。沈黙は肯定と受け取るぞ、この世界の女相手に通用する見た目ってことでいいんだな?」
ぎゅっと目を瞑り何度も首を縦に振るサラヴェリーナの様子に満足して、頬と手首を解放してやる。異世界と俺のいた世界で、美の基準にそう大きな違いはないようだ。俺が「良い」と感じるものは、ここでも「良い」ものとして通用する。……それを確認したかっただけなんだが、少し遊びすぎたかな。
「はぁ……っ、ネイト……」
甘く湿った声。見上げてくる紫水晶の瞳はまだ潤んだまま、熱病に浮かされたかのようにとろけている。
「お前、さては……」
「なあに……?」
「面食いだろ」
「うっ……! そ、そんな、そんなの、だ、誰だってそう……」
飼い主に盗み食いを叱られた猫みてえに、サラヴェリーナの目が泳ぐ。図星か。
「いや、無理やり奴隷にしてきた相手にそこまでときめいてるのはやべーだろ……、顔が良けりゃ何されてもいいのか? いくらサキュバスだからってそれは……」
「きゅ、急に常識人ぶらないでよ……! ときめいてなんていないわ、これは、お腹がすいてて……そう、食欲をそそられているだけで、食べられるなら別に誰でも――」
「へえ、誰でもいい?」
「ひっ」
声の調子を落とし、耳元で囁きかけるとサラヴェリーナの肩が面白いくらいに跳ねた。頬を両手で包み込んで、鼻先が触れそうな距離で微笑みかける。赤く染まった肌がさらに熱を持つ。どこまで耐えられるか試してやろうか。そう時間がかからないことは目に見えている。
「本当に? 俺じゃなくていいの? この顔と身体をよーく見て、もう一回言ってみろよサラヴェリーナ」
「うっ、うっ、むり、も、もう無理……限界……」
「なに? なにが無理?」
肌の熱が伝わる距離で見つめあって、慰めるような口ぶりで追いつめる。後ろ手に注射器を、ナイフを、ワイヤーを隠しながら、この手の流れは幾度となくこなしてきた。殺す前のリップサービス。仕留める寸前の高揚が僅かに思い出されて、喉が渇いてくる。
「か、顔……が」
「ん?」
吐息で濡れるサラヴェリーナの唇を親指でなぞり、少し身を引いて顔を覗き込む。紫がきらめき、瞳の奥で理性が弾けたのがわかった。
「顔が良い! 顔が良いのよ! もう無理っ! 悔しい……! 認めるわよ! あなた美しいわ……! 私の妄想から出てきた白馬の王子様みたい……! 降参よ、だからもう焦らすのはやめて……!」
「うわ、チョロ……」
わあっと、悲鳴交じりの声をあげてサラヴェリーナが胸に飛び込んでくる。勢いにたたらを踏んでいる間に、胸板に頬を擦りつけ背に爪が食い込んできた。行動だけ見りゃ可愛いもんだが、すごい力だ。狩りにきている。半分魔物だという事を忘れていた。ベッドに引きずり込まれる前に落ち着かせようと子供をあやすみたいに軽く背を叩いてみたら、何を勘違いしたのかさらに強くしがみついてきた。
「痛て、待て、爪っ、痛ててて、おい待て、首輪締まるぞ、落ち着け。風呂! とりあえず風呂行ってこい。俺はちょっとやる事があるから……!」
「……?」




