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アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


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第20話 余裕でいけるⅢ

()()は、人間と同じ頻度でとるのか?」


「魔力の消耗次第ね。いざとなれば二、三週間くらい我慢できるわよ。不足しないに越したことはないけれど」 


「二、三週間か、かなり燃費がいいな。……歳いくつ?」


 朝昼晩の日に三食のような単純計算は出来ないが、年齢さえ聞き出せばおおよそどれくらい食ってきたか割り出せるかもしれない。下世話な算数を思いついておもしろ半分に尋ねてみる。

 

「……二十六よ、……その……、体は」

 

「体は?」


 急に口ごもりだしたサラヴェリーナの肩に腕を回し、よく聞こえるように引き寄せた。この態度、俺にとってなにかしら愉快な話題の気配がする。

 

「純粋な人間とは老いるスピードが違うの。安定した質と量の精力を取り込める環境なら、ほとんど老化もしないし……」

 

「へえ? スピードが違うってどのくらい?」

 

「……十分の一くらいね」

 

「つまり、二百六十歳? マジ?」


 肩を抱いたまま体を屈めて、フードの奥を覗く。長命でも女は女。年齢の話題は気に障るのか、微妙に不機嫌そうなサラヴェリーナと目が合う。二百六十……。歳だけで考えりゃ、まぎれもなく老人……。

 

「……なによ」


 うん。いけるな、余裕でいける。()()の回数は数万から数十万回か? 普通に暮らしてたらちょっとお目にかかれないレベルの手練れだ。高い技術力(テクニック)に期待できる。くそ、笑ってやろうと思ったのに、むしろ価値が上がってしまった。

 

「……足腰は頑丈か? 俺、婆さんとヤッたことないんだけど……」

 

「誰が婆さんよ! 年寄り扱いしないで! 体は二十六だって言ってるでしょ! ほんと嫌な男ね! 」


  わめくサラヴェリーナの声をBGMに、串焼き肉の最後の一切れを頬張る。しばらくすると中央に樫の木に似た大木がそびえ立つ広場へ出た。村で見かけたどんな木よりも枝葉が青々と茂り、昼間だというのに木陰はかなり深い。陰の下にはこちらを横目に口元を押さえてコソコソと笑い合う、感じの悪いご婦人方が数名。無視して横切ろうと前に向き直った瞬間、肩に重い衝撃が走った。


「きゃっ」


 誰かにぶつかられたと気付いたときには、よろめいた俺の身体に押されてサラヴェリーナが尻もちをついていた。ずれたフードを深く被り直し、よろよろと立ち上がる様子を下卑た笑みを浮かべた若い男二人組が見下ろしている。怪しいよそ者をからかってみたら、運良く外套の下に隠されたおこぼれを覗けたらしい。サラヴェリーナの前に立って視界を遮ると、舌なめずりでも始めそうだった二人の顔が一気に歪む。わざわざ悪意を乗せて挨拶に来てくれた主犯の男に向き直った。


「悪いな、よそ見してたんだ。怪我してないか?」


「はあ……?」


 笑顔で謝罪の言葉を返す俺を気味悪そうに睨みつけ、男が痰の混ざった唾を吐き捨てる。もっと面白い反応を期待していたんだろうが、残念だったな。見るからに欲求不満そうなニキビ面の田舎者の挑発に乗って、時間と労力を割いてやるほど暇じゃない。


「……チッ。邪魔だ、どけよ。腰抜けが」


 鈍くさい頭でもこれ以上の反応を望めないことは察せたようだ。未練たらしく外套に隠されたサラヴェリーナの体を気にしながら、ついでにもう一度ずつ肩をぶつけて俺を押しのけ、二人は市場の方向へと去っていった。


「大丈夫か?」


「平気よ、これくらい。あなたこそ、よく穏便に済ませたわね……? 」


「ただの縄張りアピールだろ。いちいち相手にするかよ、めんどくせえ」

 

「賢明よ。ほら、あそこの二階建ての建物。星型の吊り看板があるでしょう? あれは宿屋のシンボル。地元の人間と争うところなんて見られてたら入れてもらえなかったかも」


 星型の吊り看板――広場を抜けた少し先に特徴と一致した建物が見える。周りには他のシンボルを掲げた建物もいくつか点在していた。杯は酒場、ハンマーは鍛冶屋といったところか。この世界の人間じゃない俺にもひと目で意味が通じるのはありがたい。


「早く行きましょう。やっと落ち着けるわ」


 わかりやすく弾んだ声をあげるサラヴェリーナに腕を引かれて歩き出す。キィキィ軋む星の下、分厚い木の扉へと手をかけた。


 

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