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アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


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第19話 余裕でいけるⅡ

 想像通り、村はのどかで退屈そうな場所だった。砂ぼこりの舞う剥き出しの土道、藁葺き屋根の家々。井戸端では女たちが桶を並べ、肥った鶏が我がもの顔でそこらじゅうを歩きまわる。穏やかなようでしかし、村人から向けられる視線はどれもじろじろと値踏みするものだ。これもまあ想像通り。薪を割る手を休めた男は、俺の腰に吊るされた剣と、フードで顔を隠した不審者の姿をあからさまな警戒の目で見つめている。


「注目されてるわね……」


「そりゃあ、こんな小さなコミュニティにいかにも訳ありのよそ者が現れたらな。石投げられないだけマシだろ」


「早く宿を見つけましょう。一晩休んで準備を整えたらすぐに出発よ、いいわね?」

 

「そのまえに飯。なんかうまそうな匂いしねえか? 腹減ってきたわ」


「ちょっと……」


 香ばしい匂いに釣られて歩を進めると、小さな露店が連なる通りに出た。樽や木箱に板を渡しただけの粗末なカウンターの上に、野菜の束や固そうな黒パン、串に刺して焼かれた肉なんかが並んでいる。この村の市場のような場所かもしれない。人通りは意外に多く、すれ違う村人たちからはちらちらと好奇と訝しむ目が向けられる。足元をうろつく鶏を蹴飛ばさないよう避けながら、手早くいくつかの店で食い物を買い込んだ。店の人間ははじめこそ不愛想、懐から銀貨を見せると一様に態度を和らげる。金の匂いは万国共通、好ましいことだ。


「ほら、食えよ」


 市場を抜けたところで焼きたての串を一本サラヴェリーナに差し出した。だが、じっと見つめるだけで受け取ろうとしない。


「腹減ってねえの? それとも肉は食わない主義? パンがいいなら――」


「お腹は空いてるし、それを口にすることもできるけれど……。食べ物で私の空腹は収まらないわ」


 自分のぶんの串に噛りつき、言葉の意味を反芻する。食べ物では空腹が収まらない。つまり別の何かで食欲を満たす必要があり、こいつはサキュバスを名乗っている。


「……俺の世界じゃ、サキュバスってのはおとぎ話の存在なんだよ。理想の美女の姿で男の夢の中に現れて、誘惑してセックスして精力を奪っていくっていう。まあ、夢精でパンツを汚したやつらの言い訳に作られたんだろうなって感じの夢魔な。……で、サラヴェリーナ、まさかお前もそういう変わった食事のとり方をなさる?」


「惜しいわね。夢の中じゃなく、現実で誘惑してセックスして精力を頂くわ。精力とは生命力そのもの。私たちサキュバスのような吸精型の種族は、取り込んだ精力を体内で魔力に変換して生きる糧にしているの。性行為が私にとっての食事よ。魔力に変換できないこれを食べても意味がない」


 そう言って。俺の差し出した串を指先で示す。仕方なくこれも自分で食うことにした。


「エロイベントを引き起こすための体質って感じだよなぁ。手垢まみれの願望と欲望の具現化。男にとって都合のよすぎる存在だわ。さすが異世界、ブレねえな」


「そうかしら? 私にとっては、あなたたち男性のほうこそ無料で食事を提供してくれる、とても親切で都合のいい存在よ? 美しさを前にたやすく理性を手放し、喜んでその身や財産を差し出してくれる。食べられているのは自分だと認識できず、支配者を気取る姿は愛らしくすらあるわね」


「親切なだけじゃねえ奴だっているだろ」


「なかにはね? でも、あまりサキュバスを侮らないほうがいいわ」


 フードの奥で声だけが楽しげに響く。本心なのか皮肉なのかはわからない。どちらにしても、こいつは自分が食われる側ではなく食う側であるという明確なプライドを持っている。どこか自分と似た捕食者の匂いを感じて、妙な居心地。

 

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