第17話 ミス・フォーチュンⅢ
「で、いまの話と俺の態度に何か関係あったか?」
「……魔王が覚醒すれば、魔族の血を引く者はほぼ強制的に共鳴するのよ。魔王の力が増すほどに、眷属である私たちの力も増していく。どんなに穏やかな性質であろうと、魔王の引力には逆らえない。高揚、焦燥、破壊衝動、理性をやられて魔王の望むままに他種族と敵対するようになる。これがどういうことかわかる?」
「お前もそうなるって?」
サラヴェリーナは肩を落とし、膝の上で揃えた両手を握る。弱々しくかぶりを振って続けた。
「……わからないわ。そうならないように……努力はしてる……。純粋な魔物には魔王の誕生を待ち望む者も多いのよ。でも私のような人と魔の混血にとっては、ただの恐怖。 いつ裏切るか、牙を剥くかわからない異物として差別と迫害の対象になる。もともと好まれてはいないのに、勇者が選ばれてからはまともに扱ってもらえなくなった……」
なるほど、どうりで。いままでのぞんざいな扱われ方に納得がいく。「覚醒が近いことを私が一番にお伝えすれば」――そうすればきっと、自分は魔王に従わず誰のことも裏切らない、無害の証明になると思ってるんだろう。
「……なぁ、お前に対して俺の態度がまともだった瞬間あったか?」
「あなたのその態度ですらまともに感じるくらい、この二年は最悪だったってことよ。……少なくとも、あなたは私を見殺しにしなかった。私を傷つけないとも言ったわ」
「そんなの、お前を都合よくモノにするための嘘かもしれねえだろ? 奴隷にされたの忘れたか?」
俺の言葉にサラヴェリーナは小さく笑った。表情を曇らせていた影をどこかに押しやって、余裕の女の顔を見せる。何かが吹っ切れたような、美しくもしたたかな笑みだった。
「私にはあなたの本質が視えるのよ。あなたは自分も他人も小バカにした、厭世家気取りのすかした男。嫌な奴だし気に入らないわ。だけどまだ、何かを諦めきれていないのは伝わる。コケにされるのも、自分のものに手を出されるのも我慢ならないんでしょう? 本当は自尊心の強い異常なほどのナルシストね。それなら私は、奴隷でいるあいだ存分にあなたに庇護してもらうわ。だってほら見て? あなたの所有物なんだもの」
そう言って、高価なアクセサリーでも見せびらかすように、両手の指先で首に刻まれた紋様を指し示した。唇が挑発的な弧を描いている。勝ち気な様子に鼻で笑って応えた。これじゃ預言者というより、精神科医か占い師だ。
「好きにしろよ、幸運のお嬢さん。おもしろい話は聞かせてもらえたしな」
遠い山脈の稜線が、インディゴブルーの空を背景にうっすらと白くけむっている。足下に広がる闇も、もうすぐこの世界の太陽に暴かれる。目指す灯りの先で、村の屋根がぼんやりと輪郭を浮かび上がらせていた。




