第16話 ミス・フォーチュンⅡ
「……サポートすれば、私の意思や意見も通るの?」
「もちろん。ある程度は。おねだりだって受け付けるぜ」
「それじゃあ、すぐにでも王都を目指しなさい。あなたたち……ええと、あの賊たちに邪魔されたけれど、私はもともと王都を目指して旅をしていたの。どうしても行かなきゃいけないのよ。それにあそこなら首輪の解呪ができる魔術師もいるはずだわ。あなたも早く、これ外したいんでしょう?」
そういや、馬車の中で男たちに啖呵を切ってた時もそんなことを言ってたな。必死な形相で「いそいで王に伝えなきゃいけないことがある」とかなんとか。あの時は頭のおかしな女の戯言だと思ってたが……。王に王都か、悪くない。人が集まる場所には必ず欲と嘘と綻びが芽吹き、運が良けりゃ殺していいレベルの悪党が花盛りになる。渇きを癒すにはもってこいの場所。
「目指すのはいいとして、何をそんなに伝えたいんだよ? そもそも、俺の認識じゃ王なんてそんな簡単に会える相手じゃねえんだけどな?」
「必ず会ってくれるわ、重要なことだもの」
「ふーん……。村の用水路が壊れたから直してくれとか? 畑がモンスターにやられて困ってます? あー、税金関係? 悪政敷かれてたりする?」
適当な思いつきを口にしながら御者台の外に目をやると、ツノの生えたウサギがぴょんぴょん跳ねながら馬車と並走していた。口元には立派な牙も覗いているが、襲い掛かってくるような敵意は感じない。つぶらな瞳で、つかず離れずの距離を保ち様子を伺っている。好奇心旺盛らしい。その向こうでは地面からでかいキャベツみたいなモンスターが湧き出て短い足で歩き回っている。時々立ち止まっては、光る綿毛のようなものを空に飛ばす。なにからなにまでよくわからないが、平和な光景だ。あくびが出る。
「そんなものとは訳が違うのよ! 魔王の現れる場所がわかったの! アウラドリイス様の加護の力で予知したのだから、間違いないわ。覚醒が近いことを私が一番にお伝えすれば、きっと――!」
「まてまて、魔王……? 魔王ってあの魔王か? 暴虐非道な悪の親玉的な? アレがいるのか? この世界に?」
思わず身を乗り出すと、意外な反応だったのかサラヴェリーナが目を丸くして俺の顔を見つめた。
「そう……。あなた、勇者や魔王のことすら知らないのね……。ようやく腑に落ちたわ。私に対するあなたのその態度……」
「態度?」
はぁ、と小さく息を吐くと、金色のまつ毛に縁取られた目を伏せて表情を曇らせる。読み取れるのは、あきらめやほんの少しの自己嫌悪。
「いいわ、教えてあげる。いるわよ、あなたの言う魔王。正確にはまだ覚醒していないけれど、すぐに現れる。それから勇者、彼は二年前に選ばれているわ。勇者も魔王も人智を超えた天命によって選ばれ、周期もバラバラ、出現に規則性はないの。天啓を受けたり印を持って産まれてくるものもいれば、何の前触れもなく覚醒することもある」
「周期がバラバラ……勇者か魔王どっちかしかいないこともあるのか?」
「そう、呑み込みが早いわね。勇者が現れず、魔王の暴虐が何世紀も続いた暗黒時代の記録が残ってるわよ。逆に魔王が現れず勇者だけが存在する時代もある。戦う敵がいない場合、彼ら勇者が平穏に暮らせるかといえばそうじゃない。強大な力やカリスマ性を時の権力者に利用されて政争の道具にされたりね。歴史上、多くの勇者が人に裏切られてきたし、魔王が不満を味方につけて民衆を取り込んでしまうこともあった。つまり、どちらも新たな厄災の芽として危険視されるのよ」
「ははぁ、読めてきたぜ。もう勇者が選ばれてるってことは、二年前からこの世界には警鐘が鳴り響いてるってわけだな」
「そうね……その認識でいいわ」
まったく、ここにきてこんなに愉快な話を聞かせてくれるとは。お前こそ女神だよサラヴェリーナ。つまりこの世界はイベント開催前夜。俺は最高のタイミングで介入できたわけだ。たとえこいつの予知がただの妄想で魔王が現れなかったとしても、勇者はとっくに撒かれている。あとは、誰かが火つけるのを待つだけ。どこかで大きな戦争でも始まってくれりゃ、俺がどこでどう趣味を楽しもうと、大目に見てもらえるかもしれない。
そして、もし本当に魔王なんてもんが現れた日には大当たり。連日連夜殺し放題のパーティーが始まる。傭兵にでも転職するか? 運が良けりゃ世界の終わりにだって立ち会えるかもな。ああ、ゾクゾクするね。混沌よ来たれだ。




