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第6話 七不思議は危険がつきものですか?

「ねえ知ってる?この学校の七不思議の話」

「知ってる!あの新聞部の件でしょ?」

「うん、あの後2人が病院送りになったみたい」

「怖〜い、やっぱり幽霊とかっているのかな?」

「やめてよ!夜に1人で帰れなくなるじゃない!」

 こんな話を周りがするようになったのは、ある事件がきっかけだ。

 時を遡ること、3日前。


「ねえねえ、こっくりさんやらない?」

 桜が目を輝かせながら発言した。

「「……?」」

 他の2人は、「彼女は何を言っているんだ?」と言わんばかりの顔だ。

「ねえ2人とも、こっくりさんやろうよ!」

「……えーと、桜先輩?それって……」

「その『こっくりさん』とは、一体何なのですか?」

「出たよ毎度お馴染み箱入りお嬢様……いい向日葵?こっくりさんにはこれを使うの!」

 桜は1枚の紙を見せた。それには五十音と、『はい』『いいえ』、1番上には赤い鳥居の絵が描かれていた。

 そして桜は10円玉を財布から取り出し、鳥居の絵の上に置いた。

「次にみんなで10円玉を人差し指で押さえて……うーん、何て言うんだっけ、紅葉?」

「『こっくりさん、こっくりさん、おいでください』って言うんですよ。まったく……言い出しっぺが覚えていないってどういうことですか?」

「そのあとは、こっくりさんに質問するの」

「何をです?」

「何でもいいみたい」

「あのー……向日葵ちゃん、ちょっといい?」

「はい、何でしょう?」

「こっくりさんって、怖い遊びなんだよ」

「ええっ!?」

「もし失敗したら、霊に取り憑かれるって言われていて……」

「そ、そんな危険な領域にわたくしたちは踏み込もうとしていますの!?」

「大丈夫だって2人とも、そんなの迷信だから。ルールさえ守れば楽しいおまじない遊びだよ?」

 からからと笑う桜だが、他の2人は不安を隠せない。

「それじゃあ、やってみよう!」

「や、やるのですか!?危ない遊びを!?」

「そうですよ!呪われたらどうするんですか!?」

「ちなみにこれ、1人でやると、死ぬって」

「「ひっ……!」」

 低めの声色で圧をかける桜に、言葉を失う向日葵と紅葉。

「まあそんなわけで……やろ、2人とも!」

「「……はい」」

 渋々席に着く2人。3人が1台の机を囲む形になったところで、それぞれが人差し指を10円玉の上に乗せる。

「あ、そうそう向日葵。もしも怪奇現象が起こった時は即写真ね!いい?」

「なぜ怪奇現象が前提なのですか……?ですが、わかりましたわ」

「では、せーの……」

「「「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」」」

 部室に静寂が走る。

 10秒ほどの沈黙が続いたのち、最初に口を開いたのは、意外にも紅葉だった。

「わ、私は雀様のような最高のアイドルになれますか!?」

 すると、質問を待っていたかのように、10円玉が動いた。そして、『はい』で止まった。

「……っ!ほんと?本当なの!?」

 喜びで思わず声が上ずる紅葉。

「では次はわたくしが、わたくしが今1番食べたいものを当ててくださいまし」

 待ってましたと言わんばかりに、10円玉が五十音の上を滑り、『た』と『い』に止まった。

「せ、正解ですわ……」

 驚きを隠せない向日葵。

「向日葵ちゃん、鯛が食べたいの?」

「はい、シェフが今日は鯛のフルコースにするそうですの」

「そーなんだ!いいなー、あたしにもご馳走してよー」

「ではシェフに来客用にもう1人分用意するよう伝えておきますわ」

「まじで!?ありがとー!いつかお礼させてね!よーし、じゃあ次はあたし!次の国語の期末テスト、赤点回避できる?」

 10円玉はビュン!と素早く移動して、『いいえ』に着地した。

「えー何で!?やってらんねー!」

 機嫌を損ねた桜が即座に指を離し、部室を出ようとする。

「ちょ、ちょっと桜先輩!?」

「コーラ買って……あれ?」

 扉に手をかけ開けようとするが、開かない。

「は……?何で?」

「わわわっ、ちょっと!急に動かさないで向日葵ちゃん!」

「わ、わたくしじゃありませんわ!10円玉が勝手に……!」

 10円玉がまるで意思を持ったかのごとく、紙の上を縦横無尽に飛び回っている。

 いや、正しくは、3人以外の『何者か』が動かしていた。

 しかし、3人はまだ、そのことに気づいてすらいなかった。

「どどどどうしよう向日葵ちゃん……向日葵ちゃん?」

 先程まで一緒に慌てていた向日葵の様子がおかしい。

「……うゆーん……」

「どうかしたの、向日葵ちゃん?」

「うゆーん、うゆーん」

「えーなになに?向日葵その声超可愛いんだけどー!」

 スマホで動画を撮り始める桜。

「ちょっとちょっと先輩!何を呑気に撮影なんか……」

「うゆーん、うゆーん」

「大丈夫、向日葵ちゃん?体調とか悪くない?」

「……ろす」

「へ……?」

「……殺す、呪う……」

「ほらあ、桜先輩のせいで怒っちゃったじゃないですか!」

「えー?あたしそんなことしたかなあ?」

「したじゃないですか!」

「殺す、呪う、殺す、呪う……」

「向日葵ちゃんも、落ち着いて……」

 そう言って、横からなだめるような仕草をする紅葉。しかし、向日葵の目は虚ろなままだ。独り言も続いてる。

 向日葵はゆっくりと足を前に踏み出し、スマホで録画中の桜の元へ歩みを進め、間近まで来ると、これまたゆっくり両腕を前に伸ばし始めた。

 そして、桜の首に手をかけ、力強く絞めた。

「がっ!?」

 あまりに突発的な出来事に、思わずスマホを落とす桜。

「向日葵ちゃん!?」

 目の前で起こった衝撃的な場面に素っ頓狂な声を上げる紅葉。

「ちょ、ちょっと!何やって……ひっ!」

 止めようとした紅葉だが、触れる寸前で、ただならぬ気配を感じ、思わず手を引っ込める。

 3人の内の誰でもない、そこに居る『4人目』の気配を。


 その頃、職員室では1人の教師が、異変をいち早く察知していた。

「何かしら」

「どうか……した?」

 冬雪が無表情のまま尋ねる。

 彼女の視線の先には、2.3mはある身長に、格闘家ばりの筋肉質な身体の上から黒いタンクトップを着た、黒と灰色のオッドアイにピンク髪の坊主頭と真っ赤な口紅、さらにはブルガリの香水の香りが存在感のある男教師が虚空を見つめる。

「教頭先生、少し席を外します」

「おう、いいぞ」

 教頭が返事を返す。

 そして男教師は、机の横に立てている、先に釣り針がついた細長い糸が巻き付いてある丸太をひょいと担ぎ、職員室を後にした。冬雪も後に続いた。

 そこから男教師は、猛スピードで廊下を駆け抜け、階段を3段飛ばしで駆け上がると、躊躇なく校舎の3階にある新聞部の部室の扉を勢いよく開けた。

「そこまでだ!この小悪党め!」

「ひいっ!?」

 突然の来客の野太い大声に驚く紅葉。

「ふう、やっぱり第一声(ファーストインパクト)は大切よね」

 巨漢は自分の言葉を噛み締めながら、丸太を縦に振り下ろし、針と糸を向日葵に飛ばして一気に引っ張る。

 すると、何かがかかったように糸がピンと張り、すぐさま大物を釣り上げたように元に戻った。

 その直後、向日葵は魂が抜けたように手を離し、その場に倒れた。

「向日葵ちゃん!」

 すかさず駆け寄る紅葉。

「げほっげほっ!はあ、はあ……」

 桜も喉を抑えてへたり込む。

 針の先には、ペット用の赤い首輪がぶら下がっていた。

「さて、あなたはなぜ、ここにいるの?」

 男教師は、首輪を指でつまみながら、誰もいないはずの空間に話しかける。

 いや、正確には彼にしか見えない『誰か』に話しかけている。

「はあ……はあ……やっと……追いついた……」

 肩で息をしながら、冬雪も合流した。

「お前……俺が見えるのか?」

「ええ、あなたは誰?」

「人に名前を聞くなら、まず自分から名乗れ」

「そうね、アタシは北山(きたやま)(たけし)。あなたは?」

小栗(こくり)(りょう)

「これがあなたの依り代かしら?」

 そう言って武が首輪に手を伸ばした刹那、10円玉が拳銃弾並みの速度で武の真横を通り、後ろの扉を貫き、そのまま窓ガラスも割った。

「触るな」

「あら、これは失礼」

 その頃冬雪は、部室の壁にもたれかかろうとして、手をついた。

 その瞬間、膨大な残留思念が冬雪の頭に流れ込んだ。

(これは……!)

 それは一言で言うなら、爛れていた。

 ある日は生徒、またある日は教師、そのまたある日は同じ教育実習生と、毎日女を取っ替え引っ替えしていた。

 内容もスタンダードなものから、メイドプレイにペットプレイなどのコスチュームプレイ、玩具を使ったりお散歩したり、果ては緊縛やSMやらとても他所様に言えるものではない。

 ただでさえこの能力は脳がパンクしそうなのに、内容が内容のせいでとっくにキャパオーバーしていた。

「変態……不潔……夜の帝王……」

 この言葉を最後に、冬雪は気絶した。

「この首輪が、どうして大切なものかしら?」

「俺の最後の女のものだ」

「……そういう趣味なの?」

「ポン子とは、一生を添い遂げる仲だった。でもその矢先、俺は後ろから刺されて死んだ。ポン子を目の前で殺された直後に……!」

「動機に心当たりは?」

「ないな、ここで毎日日替わりで女とヤリまくっていただけだ」

「あるじゃない」

「だって一度女の味を覚えたら止まらなくなったんだ!そのままそれを続けていたらセフレがめちゃくちゃ増えた!もう後には退けない、そんな関係に疲れていたところでポン子と出会った。はみ出し者同士、すぐに仲良くなった。そのうちに、一緒が当たり前になった。そして将来を約束した直後、俺たちは殺された」

「そうだったの、じゃあポン子ちゃんのためにも……あなたを使役してあげる」

「は……使役?」

「ええ、強制成仏は見送るってこと。徳を積めば極楽に行けるか、また人に転生できるわ」

「ま、待て。俺は俺らを殺したやつに復讐できればそれで……」

「じゃあ地獄に堕ちたいの?」

「う……」

「なら決まりね。ちょうどよかったわ、アタシもそろそろ眷属が欲しかったの」

 さて、と武は釣竿を背負い、次に、倒れている向日葵を右肩にひょいと乗せ、教室を出ようとして、気を失っている冬雪を発見し、それを左肩に担いだ。

「そうそう、あんたたち?もう怪しい遊びはなしよ。さもなきゃ今度は本当に死ぬかもしれないからね」

「「はい……」」

 諭されて縮こまる紅葉と桜。

 こうして、七不思議の1つが解決した。

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