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第4話 副部長の夢は叶いましたか?

『私、中学校に入学する頃に家族で日本に引っ越したけど、その前から幼稚園や小学校で髪色のことでいじめられて、不登校の時期があったんだ。でもある日、家族で日本に遊びに行ったら、そこで出会った見ず知らずの日本人の女の子に「アイドルライブに行こう!」って誘われて、始めは、何をされるか分からなくて怖かったけど、いざ行ってみたら、すごく楽しかったんだ。そこからどハマりして、いろんなアイドルのライブに参加してヲタ芸やMIX(ミックス)を学んで、他のドルヲタとも仲良くなって、自分の推しも見つかって、そんな時に、初めて誘ってくれた娘が「アイドルを目指せば?」って提案してくれて、最初は「自分には無理」だと思っていたけど家族やドルヲタ仲間もぐいぐい勧めてくるから「やれるだけやってみよう」って思うようになったの』

「そうだったのですね。あの踊りも、アイドルとして観客に披露するためですのね」

『うん、でもあれは厳密には、ゴールデンウィークにあるオーディションに向けたやつなんだけどね』

「今回初めて受けるのですか?」

『ううん、たくさんあるけど、どれも落ちちゃった。だから、今年がだめだったら、諦めるつもり』

「ええっ!?なりたいのですわよね!?」

『うん』

「ならどうして……」

『本業は学生だからね、来年度は受験生だし』

「……そうですか、ならばなりましょう」

『えっ?』

「わたくしも及ばずながら協力しますわ。できることなら何でもしましょう!」

『向日葵ちゃん……」

「秋月先輩はお顔立ちやスタイルがよろしいのはもちろんのこと、あの人を惹きつける踊りを見れば誰もが虜になりますわ!」

『……ありがとう、向日葵ちゃん。私、頑張る!』

「そういえばまだ、秋月先輩がアイドル好きを隠している理由を聞いていませんでしたわ!」

『それなんだけど、小学5年生の児童会の選挙のときに、立候補したクラスメイトの応援でヲタ芸を全校児童の前で披露したら、その子に全く票が入らなかったっていう苦い思い出があるんだ……さらにその日からクラスメイトや同学年だけじゃなく先輩後輩からも「オタクだ」って言われ続けて……だから自分を知っている人がほとんどいないこの学校に入学したんだ』

「失礼ですが、ヲタ芸とは?」

『えっ!?あー……じゃあ、オーディションが終わって、誰もいないときに見せてあげるね。それと、これからは私のことは、名前で呼んでほしいな』

「わかりましたわ」


 そして次の日から、2人の秘密の特訓が始まった。

 2人になったことで、紅葉は自分の動きの癖を客観的に見てもらい、教えてもらえるようになった。向日葵から、こうしたほうがいい、ああするともっといいとアドバイスを貰ったことで、紅葉のダンスはより華やかに、よりキレを増した。


 そして日は流れ、オーディション当日。

「ううう……緊張するなあ……」

「大丈夫ですわ、練習通りにやればいいのですから」

「そ、それはそうだけど……」

 2人は、会場前でこんなやり取りをしていたが、やがて紅葉は意を決して入場した。

 向日葵は「どうか先輩が合格しますように」と祈った。


 1時間後、紅葉が会場から出てきた。

「せんぱーい!」

 向日葵が紅葉に駆け寄る。

「手応えはどうですか?」

「周りを見てもみんな可愛い子ばかりだったけど、とりあえずベストは尽くしたよ」

「そうですか、それは何よりですわ」

「結果は後々に通知が来るみたい」

「なら、あとは吉報を待つだけですわね!」

 それから2人は、それぞれの家に帰っていった。


 その日の夜、向日葵のスマホに一通の着信が来ていた。

『今日はありがとう。向日葵ちゃんのためにも、絶対アイドルになるね!』

 それを見た向日葵は『応援していますわ』と返した。


 1週間後、結果発表はホームページ上で行われるため、紅葉は震える手でスマホを持ち、そっと画面をタップした。

 すると、合格者の名前がずらりと並び、それを見た紅葉は驚愕した。

 そしてスマホをもう一度見て、泣いた。それから5分経って泣き止んだ紅葉は、母がいるリビング走って向かい、こう言った。

「お母さん!私、受かったよ!アイドルになれたよ!」

「Really(本当)!?」

 母は驚きのあまり、思わず母国語が飛び出してしまった。

「うん!」

「まあ!すごいじゃない!Congratulations (おめでとう)!お父さんにも知らせるわね!」

 紅葉は部屋に戻ると、電話をかけた。相手はもちろん向日葵だ。

「もしもし向日葵ちゃん、私、受かったよ!」

「えっ!?本当ですか!?それはおめでとうございます!やりましたわね!」

「うん!私、諦めなくてよかった。応援してくれてありがとう、向日葵ちゃん!」

 それから、向日葵との電話を終えた紅葉は、家族でも桜でもないある人物に電話をかけた。

「もしもし虎美(とらみ)ちゃん!私、アイドルになれたよ!」


 その後の紅葉は多忙だった。ダンスレッスンにボイトレなど学業との両立はなかなか大変なようで、部活にも顔を出すことも少なくなっていた。

 しかし、そんな中でも、忙しくとも、向日葵とのメールは毎日欠かさず続けていた。たとえどんな些細なことでも教えあうようにしていた。


 ある日、放課後に部室で向日葵と桜が談笑していると、扉を叩く音が聞こえた。

「はーい」

 桜が引き戸を開けると、そこにはジト目でハーフツインテールの女子がいた。

「どーもー」

「あんた誰?もしかして入部希望?」

「違いまーす」

「じゃあ何の用?」

「桜先輩と向日葵ちゃんはいますかー?」

「桜はアタシだけど……」

「わたくしが向日葵ですわ」

「ならこれ」

 そう言うとその女子は、桜に封筒を1枚渡した。そして、そのまま立ち去ろうとしていた。

「じゃ」

「あ、あの!」

 向日葵が引き止める。

「ん?」

「中身は何ですの!?」

「見ればわかるよ」

「それと、あなたの名前は!?」

西道(にしみち)虎美」

 それだけ伝えると、虎美は鼻歌を歌いながらその場を後にした。

「何だったの、あの子……」

 桜が呆れつつ、封筒の中から封入物を取り出す。入っていたのは、チケットが2枚と、1通の手紙だ。

「これは……なになに?『Idol(アイドル)s() outdoor(アウトドア) festival(フェスティバル)?」

「はっ……もしや……!」

「手紙は紅葉からだ」

『向日葵ちゃんと桜先輩に、私からのプレゼントです。部活にほとんど顔を出せずごめんなさい。当日を楽しみにしてください!紅葉より』

「えーっと……これって?」

「あら、桜先輩はご存じないのですか?」

「なになに?教えて!」

「紅葉先輩はアイドルになったのです」

「え……えええええ!?紅葉が!?アイドル!?まじで!?あの子そんな子だったっけ!?普段から自信なさげだったから……」

「確かに、どちらかというと内向的な方ですが、ずっと憧れていたらしいですわよ」

「へ、へえー」

 驚きのあまり言葉を失う桜。

「しかし、あの虎美という方は、一体何者なのでしょう?」


 そして、フェス当日。

「お待たせしました」

「おー向日葵、あたしも今来たとこ」

「それでは入場しましょう、まずは物販ですわね」

「うわっ、すごい並んでる!まだスタートまで1時間以上あるのに」

「うちのメイドからの情報によると、グッズは早めに買うほうが良いらしいですわ」

「ええっ!?それを昨日までに教えてくれてたらもっと早く来てたのに!」

「どうやらこのフェスは、日本中どころか世界中のアイドルとアイドルヲタクたちがたくさん集まる有名な催しのようですわ」

 2人は物販でそれぞれペンライトとTシャツを買った。


 それから2人は、トイレでTシャツに着替え、他の観客が集うところの1番後ろに並んだ。

「もうこんな後方に……最前列の方々はいつから陣取っているのでしょう?」

「それな」

 桜が同感の意を示す。

「それはさておき、ここでは『MIX』なるものを使うらしいですわ」

「みっくす?」

「前奏や間奏、後奏で使う言葉の羅列らしいですわ」

「へー」

「それと、フェスは基本的に撮影が禁止されていますの」

「だから今日の向日葵はノーカメラなのね」

 そこへ、チャイムと共にアナウンスが始まる。

「まもなく、フェス開始10分前になります。5分前には、物販が終了しますので、お急ぎください」

 10分後、スピーカーから重厚な音楽が流れ、同時にアイドルたちが舞台に現れ、観客の歓声が響いた。

「みんな!今日はIOF(Idol’s outdoor festivalの略称)に来てくれてありがとう!初っ端から飛ばしていくよ!」

 トップバッターの軍服ワンピースのアイドルグループのセンターが、笑顔で手を振りながら、マイク越しに大声を上げる。

 観客が一気に沸いた。


 そして、そのアイドルグループがパフォーマンスを1曲披露すると、短いMCに入る。

「さあ続いては、今日が初ステージのこの子たち!『Cosmos(コスモス)』です。どうぞー!」

「あっ、今から紅葉先輩が来ますよ!」

「そうなの⁉︎」

 2人の会話のこの辺りで音楽が流れると、ポップアップから、星空を彷彿とさせるビジューをたくさん仕込んだ紺色のアイドルドレスを身に纏った少女が3人飛び出した。

 同時に観客が「うおおおおお!」と雄叫びを上げた。

 そこから、歌と踊りが始まった。

(すごい……やはり素晴らしいですわ、先輩)

 あんなに自信なさげだった少女はそこにおらず、大きな舞台で、大観衆の目の前で堂々と歌って踊っている1人のアイドルがいた。

「「「ありがとうございました!」」」

 曲が終わると、観客が歓声と拍手を送った。

「続いては、皆さんご存知の純和風アイドルグループ『大和撫子』です、どうぞ!」

 途端に、観客席が先ほどの倍以上の盛り上がりを見せた。同時に、着物のようなアイドルドレスを身につけた6人のアイドルたちがステージに現れた。そしてその中に、黄色い着物ドレスを着た西道虎美がいた。

「あのハーフツインテールの方は……!」

「あんときの!?


 フェスが終わると、どっと疲れが押し寄せてきた。あまりにも酷いので、爺やにリムジンで迎えに来てもらった。

「爺や、とりあえず桜先輩からおうちに帰してあげてくださいまし……」

「かしこまりました、お嬢様」

 爺やは笑顔のままリムジンを走らせた。

「桜先輩、大丈夫ですか?……あら」

 隣を見ると、桜は寝ていた。


 次の日、新聞部では紅葉のアイドルデビューを学校新聞に載せるか否かを話し合っていた。

「どうする?載せちゃう?」

「さ、桜先輩。それはちょっと……」

「え〜何で〜?いいじゃんいいじゃん!」

「おおお願いですからそれだけは……」

「学校の人気者になれるよ?」

「わ、私としては、人気を得るためにアイドルを志したわけではなく、憧れに少しでも近づくため、そして何より、なりたい自分になるために、アイドルを目指したので……」

「うーん、アタシはいいと思うんだけどなー、よし!ここは多数決でいこう!アイドルになったことを載せていいって人!はーい!」

 桜だけが挙手した。

「じゃ、じゃあその逆

「「「はーい」」」

 桜以外全員が手を挙げた。その中にはいつの間にか、新聞部顧問の柊冬雪もいた。

「嘘でしょ!?アタシ以外全員反対⁉︎てかいつからふゆきりんいたの!?」

 密かに幽霊顧問と思っていた冬雪がいたことに驚く桜。

「雄弁は銀、沈黙は金……」

 冬雪がぼそりと呟く。

「じゃ……じゃあさ、代わりのニュースを……」

「実は私、持ってるんです!」

 こうして話し合いの結果、来月の学校新聞の見出しは、『衝撃!学園内のパン屋で焼きそばパン買い占め騒動!』になった。

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