終焉の旅路-終わりの始まり
「もう率直に言う、世界を滅ぼすために俺に協力しろ」
「……は?」
情報量が多すぎて、思わず腑抜けた声が出た。目の前のグレイズとかいう男があの終焉者で、世界を滅ぼすために仲間になれと言うのだ。
そんなの信頼できるはずもないし、なにより確実に不可能だ。
「そもそも世界を滅ぼすなんて出来るはずがない」
「チッ」
彼が舌打ちしたのを私は聞き逃さなかった。
私が否定するとグレイズは明らかに不機嫌な顔になる。つまるところこう言いたそうだ、即ち「めんどくせぇ」と。
「世界を滅ぼすまでの道のりは俺が保証してやる。説明するのも疲れるから、とりあえず協力しやがれ!」
「だから、その道のりを教えてよ」
グレイズは更に不機嫌な顔になる。私が知ったことではないので、別に機嫌を取るつもりもない。
グレイズはイライラするように軽く足を踏みながら、嫌そうに説明する。
「仕方ねぇ、冷静な態度でいるのも疲れたし、ここからは大雑把に説明する。世界を滅ぼすのにはます戦力がいる。今じゃ確実に足りないだろ」
そりゃそうだ。もとより協力するつもりはないが、私とコイツだけで世界がほろぼせるはずがない。
疑問の目を向けながら、グレイズの話の続きを聞いた。
「その戦力を集める方法だが、方法がいくつかある。その1つにだがーー『魔力炉の欠けら』って知ってるか?」
「魔力炉の欠けら?」
初めて聞いた言葉に私は首を傾げた。一度も聞いたことがない単語だ。
はてなマークを頭の上に浮かべる私にグレイズは面倒そうに答える。
「つまり、常識だと考えられない量の魔力の結晶のことだ。コイツは各地に散らばっていて、色んな形に変形してる。うまく利用さえ出来れば、国ですら一夜で滅ぼせる」
「……!」
国を滅ぼせるほどの力。結晶自体は想像はつかないが、それだけの力があることが予想できた。
私を一瞬で切り刻んだあの双剣の老人。あれは只者ではなかった。あれに真っ向から戦いを挑むことになるなら、その結晶ーーすなわち更なる力が必要だろう。
本当は協力するつもりは無かったが、そういうことなら話は別だ。確率は低くとも、手段がこれしかないのだ。
「その過程でお前も強くなれる。どうだ、協力する気になったか?」
……何も守るものがない今、悪魔に魂を売ったところで後悔はなかった。
歪んだ決意に満ちながら、私は首を縦に振る。
きっとあの頃の私じゃこんな決断は出来なかった。そういう意味では、皮肉ながらカイルやレイラのおかげで今の自分になれた、というところだろう。
ーー後悔はないか?
心のどこかでそう聞こえた気がした。きっとこの先進めば、後に戻る道はない。
それでも良かった。この胸に滾る憎しみを晴らせるなら、覚悟の上だから。
こっちを鋭い眼差しで見つめるグレイズに、私は名乗る。私が飛ばされた森で、山賊達に言い放ったように。
過去の光景と、今の自分が重なる。
不安ながらも決意に満ちたあの場面、集まる山賊達にこう名乗った。
『私の名前はアリア・エスタニア。カイルの恋人にして、アルデン王国の継承者の妻よ』
「ーー私の名前はアリア・エスタニア。アルデン王国を滅ぼす者にして、あなたの協力者になる者よ!」
悲しいとは言わせない、成り下がったとも言わない。あの頃と比べて私はーー
ーーきっと、強くなった
「ふっ、はははは!!」
私の名乗りを見たグレイズが、大げさに笑い出した。何がおかしいのか分からなかったが、さっきの態度とは全然違った。
「なに、急に笑い出して!」
「いやだってさ、急に名乗りあげるもんだから、笑うしかないじゃん」
たしかにそれもそうだ、よくよく考えればグレイズが笑い出したのも無理はなかった。私がむすっとした表情になると、やっとグレイズは笑うのをやめてくれた。
「まぁ、とりあえず協力してくれるのは分かったが問題は山積みだ。もう時間がない、少し休んだら旅の準備をしろ」
「はぁ、わかったわ」
軽いため息をつきながら、旅の支度を始めた。きっと長い旅路になる、そう思いながら手を動かした。
食料とグレイズ所有のよく分からない道具、武器などを簡易に収納が出来る、腕輪型の魔道具に収納し、グレイズと次の目的地を確認した。
ーーエリアート帝国
ここはダルガ大陸の最も端、北東にある小さな遺跡だと言うことがわかった。ここから西に行ったところに、エリアート帝国というところがあった。
グレイズ曰く、魔法ではなく機械が発達した巨大な国らしい。隣のアルミナ国と仲が悪く、国と国の間には大きな壁がそびえ立っているらしい。
「ここに魔力炉の欠けらっていうのがあるのね」
「ああ、そうだ。だが場所の目星はつかない、現地で情報収集するしかなさそうだな」
そう言うグレイズの顔をちらりと見た時、ふと思った。
(片目だけ紫色なんだ…)
右は通常の黒色、左は透き通るような紫色の瞳をしていた。気配だけでなく、明らかに普通の人間ではないことが良く分かった。
あらかた確認し終わった私たちは、後々困らないように遺跡に残っている私たちがいた証拠を全て隠滅した。
「お前は違うかもしれないが、俺にとってはこれからは世界を滅ぼす旅路になる。こういうところで尻尾を掴まれたら面倒だからな」
「それもそうね」
私は軽く頷く。あまり実感はしないが、今から私たちは全ての生命を根絶やしにする、世界を終焉へと導く旅路をするのだ。
何故だろう、この人といるとそんな馬鹿げた目標も達成出来る気がする。
私はグレイズの方に顔を向けた。グレイズは無愛想そうな顔でこちらに少し視線を転じ、すぐに進行方向へ戻した。
どうなるかは分からない、それでも私は前に進むしかない。過去を切り捨て、未来を壊すために。




