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国境突破

ーーアルデン地方とアルミナ地方の国境にて


辺りはすっかり暗くなり、松明を持った2人の門番が見張りをしていた。


「こっちは異常なし、そっちはどうだ?」

「こっちも異常なしだ。案外、国境の見張りってのは楽なもんだな」


そう話しているのはアルデン王国の兵士2人だ。この平和なご時世で、敵が攻めてくるなんてことはないため、見張りの仕事を放棄して2人で世間話を始めたのだ。


だがそれが間違いだった。


「お前らッ、戦闘準備だ!!正体不明の超巨大な魔力反応がアルミナ地方の空に確認されたとの情報が入った!物凄いスピードでこっちに向かってるらしい!!」


他を見張っていた見張りの1人が大急ぎで情報を伝えてきた。2人にそのことを伝えると、別の場所にその情報を伝えに走って行ってしまった。


1度も戦争や戦いを経験していなかった2人の未熟な兵士は、突然の出来事に口をポカンとさせていた。


「…………いや、まさかねぇー!」

「この時代にそんなの、ありえないっしょ!」


少しの沈黙の後、2人の兵士は大声で笑った。そんなことはありえないと思っていたからだった。


そして、それが現実になるなんて思いもしないだろう。


「来たぞ、正体不明の魔力反応だ!!」

「「え?」」


夜なのにも関わらず、辺りが明るくなり、空の色が赤く変化した。


それは、世界の終焉を思わせるような禍々しいものだった。そして空を見上げれば、赤い空の中心に君臨する、見たこともないほどの大きさの巨大な竜の姿があった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ここがアルデン地方とアルミナ地方の国境じゃのう。して、この先にアルデン王国があるのじゃが、これは…』

「結界、しかもかなり大規模ね」


アルデンとアルミナの間にあったのは超大規模な結界だった。並みの魔術師では作れない、大魔術師が100人揃ったとしても厳しいだろう。


しかし、ミルターナにはこの結界を作った人物が予想出来ていた。


『さすが魔術王、これほどの結界を作るとはのう。………しかし今代の魔術王はまだ未熟よ』


ミルターナは1つ大きな咆哮を上げた。


咆哮が波動となり波動が破壊となって、大気が震え、大地が割れ、結界に直撃する。


凄まじい衝撃波が発生し、辺りに存在したもの全てが吹き飛ばされていく。まさにその光景は、昔、婆さまから聞いたお伽話そのものだった。


「すごい、これが覇王竜の力……!」


アルラさんの口からその言葉がこぼれた。


ビキビキビキッ…


やがて、衝撃に耐えきれなくなった結界にヒビが入った。そしてーー


バリイィィンッ!!


覇王竜の咆哮によって、アルデンとアルミナを隔てる結界は崩壊した。


散り散りになった結界は跡形もなく消滅し、覇王竜の傷跡をその地に刻んだ。そして私達は、アルデン地方へと入っていった。


ーーこれから起こる惨劇など知らずに。


あの日、運命の分岐点まで、残り3日。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ーーアルデン王国 魔力観測室


魔力観測室にて、アルデン王国屈指の魔術師達が、国王カイルの指示で必死に魔力の観測を行っていた。


唐突に現れた巨大な魔力反応は、国境の大結界を破り、現在アルデン王国の周辺をさまよっていた。


まずはそれが何者で、どういう目的で動いているのかハッキリさせなければならなかった。


「!!カイル様、結果が出ました!この反応は主に『地』属性とその他複数の属性によって構成されているものです」

「よし、そのデータを解析班に送れ。それで国民の避難の状況は大丈夫か?」

「もう既に終えてます!」

「よくやった」


カイルは的確な指示を出し、国民を避難させていた。王国に残ったのは、国を守る兵士と魔導師、そして情報を集める魔力観測班の魔導師とカイル自身だけだった。


最初はカイル自身が残ることを皆が反対したが、それを押し切って残ることになった。


「情報が入りました!視認した者によると、巨大な竜の姿をしているようです!」

「巨大な竜か…」


巨大な竜。お伽話で聞いた終焉者の使役していたバハムートがカイルの頭によぎったが、それはあくまでもお伽話なので気にしないことにした。


主に地属性で、竜王クラスの現存している竜。考えられる竜はーー


「覇王竜ミルターナ。そうだろう、カイル王よ」


カイル王の背後にいたのは、1人の老人だった。


しかし、その左目の傷跡とその鋭い眼光。そして腰にかけられれいる2本の双剣は明らかに普通の老人ではないことを証明していた。


「貴方はーー」

「安心せい、ミルターナはわしらのことを襲う気などない。盟約があるからの」

「竜同士の盟約ですか」


竜同士の盟約。表には公表されていないが、四王竜の間には、暗黙の盟約があることをカイルは知っていた。


その盟約の内容を詳しく知るものはいないはずだ。……この老人を除いて。


「ロイ殿、竜同士の盟約とは一体どういったものなのですか?」


カイルはその老人、ロイに問いた。


ロイは表情を一切変えずに、視線を窓の外に向けると、こう答えた。


「いつか知ることになる、その時まで待て。戦いの時はまだ先じゃ。その時までに力をつけるが良い」


ロイはカイルにそう告げ、その部屋を立ち去った。カイルは、ロイの出ていった扉をしばらくの間、見続けていた。


「カイル様、動きがありました!巨竜はアルデン王国少し西にある崖に降り立った模様。その後、アルミナ地方へと帰って行きました!」

「わかった、西の崖に調査隊を派遣するのと、避難も解除するように指示しておけ」

「了解しました!」


カイルは近衛兵にその指示を出し、その部屋を出て行った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


カイルは王室に戻り、壁に掛けてあった先王様の絵画の視線を向けながら、「やれやれ」と言った様子でこう呟いた。


「まさか結婚式の3日前にこんなことになるなんてな」


そして、カイルは視線を彼女の方に向けた。


赤い長髪で誰が見ても美人だと思う彼女。地位も高く、皆んなから慕われる人。そして、カイルの結婚相手。


カイルは、彼女の頰を優しく撫でた。


「でも大丈夫、俺がいるから」


カイルが彼女を見つめるのと同時に、彼女もカイルのことを見つめた。


彼女はゆっくりベッドから立ち上がって、カイルの手を取った。そして、優しく微笑むようにしてカイルに答えた。


「そうだろ?レイラ」

「もちろんよ、カイル」


その彼女、レイラ・アークウェスは優しく微笑み、カイルの頰にキスをした。


しかし微笑みに対し、その裏側にあるものは、あまりにも残酷だった。

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