覇王竜ミルターナ
フリードさん達のいる所に戻ってきた私達は、皆んなに先程までの状況を説明した。
赤いワイバーンが竜人の少女だったこと、その子がライルに付いていくと言い出したこと、肉はちゃんと無事だったこと。
その話を全て聞いて、フリードさんはキッパリこう判断した。
「ダメだ。竜人なんざ連れて行けん」
「なんでっすか!」
思わずライルが反発した。しかし、竜人を連れて行けないのにも理由があった。
「アルデン王国は人間以外の存在を認めていない。悪魔、竜、獣族。本来信仰されるべきはずの神や天使の存在まで否定されている。ここまで言えば分かるな?」
「アルデン王国に人間以外は入れないんすね…」
フリードさんは無言で頷いた。
私が知っている限りだと、現在のアルデン王国は人間絶対主義の王国で、それ以外の種族、混血であろうと許されていなかった。
それは全てカイルの決めたことなので、私がどうにか出来る問題ではなかった。
「で、でもっーー」
「これ以上はやめろ、ライル」
アルラさんがまだなにかを言いたそうにしているライルを止めた。ライルは悔しそうな顔をしていて、諦めきれない様子だ。
そんなことは知らんとばかりに足を先に進めようとするフリードさんに、今度はレイシア自身がある提案を持ちかけた。
「………お父様の所に何しに行くのか知らないけど、私を連れて行くならお父様に交渉してあげる」
「…なに?」
フリードさんが食いついた。
お父様とは大型の竜種のことだろう。フリードさんはその蛇のような鋭い眼光でレイシアに視線を向けた。
大型の竜種、それはある意味間違っていた。
「……私達、ワイバーンの生みの親。四王竜のうちの1体、私達のお父様。『覇王竜ミルターナ』っていえば分かるでしょ」
「…!」
珍しくもフリードさんの顔に戦慄が走った。
ーー覇竜王ミルターナ
四王竜の一体であり、名を聞けば知らぬ者はいないとされる、の覇者の竜だ。
1000年前の大厄災。終焉者の起こした聖戦では、暴走した竜王の1体を鎮めたととしても有名だ。
そんな竜と交渉など無理に等しかった。
ーーましてや、こんな少女に交渉など出来るはずがない。
フリードさんはそう考えた。そして、レイシアの提案を断ろうとした時だった。
それは突然現れた。
「ふぉっ、ふぉっ、レイシアよ。こんなところで何をしておるのじゃ」
1人の竜人の老人がレイシアの後ろにいつの間にか立っていた。
私達の中心にいるのに、誰も気づかないのだから、それは驚くだろう。
「……あっ、お父様」
「お父様……?って、覇王竜ミルターナ!?」
「いかにも」
ライルが思わず叫んだ。そりゃ世界最強の竜の一角がこんな所で現れるなんて誰だって驚愕するだろう。
しかし、姿はどこにでもいそうな老人だった。
「して、レイシアよ。わしは『天視』でお主の行動もちゃんと見ていた。この者達に付いて行きたいのじゃろう?」
「………どっちかというとライルに付いていきたい」
ミルターナは1つ頷くと、ライルの方にゆっくり視線を向けた。緊張でガクガクしているライルは、ビクッとした。
「ライルと言ったな。お主はレイシアを大切にする覚悟があるか?」
「なんでお嫁さんを引き取る感じになってるんすか」
思わずライルがツッコミをいれた。しかし、ミルターナの表情は変わらず、ライルを試しているようだった。
ライルは少しの沈黙の後にこう答えた。
「……正直大切にできるかどうかは、分かりません。ですが、これだけは確実に言えます」
「ほぅ?」
ライルはレイシアの方に視線を向けた。
「仲間とてして共に過ごすのなら、俺はレイシアを絶対に見捨てるような真似はしません」
少しの間、ライルとミルターナの間に沈黙が続いた。ライルとミルターナは、お互い何かを見定めるような目で睨み合っていた。
しばらく沈黙が続いた後、その沈黙を破ったのはミルターナの方だった。
「ふふ、わっはっはっは!!」
「何がおかしいんすか!」
「実に見事じゃのう。ライルよ、お主ならレイシアを任せられそうじゃ。フリードといったか、1つ取引をせんか?」
「いいだろう」
フリードさんは、いつになく強張った表情で答えた。
「お主達の目的は分かっておる。お主達をアルデンまで連れて行ってやろう。その代わりにレイシアに広い世界を見せてやってくれ」
「……了承した。この少女、レイシアにこの世界を見せてやればいいんだな」
「うむ、そういうことじゃ」
ミルターナは満足したように頷くと、「少し離れておれ」と私たちに言った。
しばらくすると、ミルターナの足元に直径30mはありそうな巨大な魔法陣が出現した。
一瞬辺りが光に覆われ、そして、私達の目の前に現れたのはまぎれもない竜王の一角。まさに巨竜。身体中に染み付いた傷は、その強さを示していた。
『さぁ、背に乗るのじゃ。アルデンまで飛ぶぞい』
私達は言われるがままに、ミルターナの背に乗った。
私達の向かう先はアルデン王国、ダルガ大陸最大の人間国家にして、私の愛しているカイルがいる所。
(待っててね、カイル。今行くから)
私は心の中で、カイルへの想いを募らせていた。
ーーやはり、この時の私は愚かすぎたのだと、やはりそう考えてしまう。
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アテラ山の中腹、森の中で通信魔導機器を展開する冒険者の姿があった。
否、今の姿は黒いローブを身にまとい、冒険者よりかは黒魔導師の姿だった。
やがて黒魔導師は通信魔導機器を展開すると、それに魔力を注ぎ込んだ。
『報告せよ』
低い声の男が通信機器に応答した。
黒魔導師は体制を整え、正確に報告を始めた。
「はい、アルミナ地方、アテラ山にてアリア・エスタニアの姿を確認。現在は複数の仲間といる模様。男2人の名前は、ライル、アルラ、そして竜人の少女とその他複数人と行動を共にしています」
『了解。早急にレイラ様の元に帰還せよ』
「はっ」
黒魔導師は通信を終えると、通信機器をしまいながら1人でにこう呟いた。
「全く、あいつらに武器を向けられた時は死ぬかと思ったぜ」
そして黒魔導師は森の奥に消えていった。
次話からアリア目線に戻るのと、プロローグの最終章が始まります。




