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DVDには私の部屋が映し出されていた。
ぞくりと身体の毛が総毛立ち、髪の毛までもが逆さになるようだ。ぞくりとした背中に、胃はきゅっと締め付けられる。
寝室だ。ベッドに寝ているのは・・・私?
・・・間違いなく私だ。
足下の方から撮られている。
画面右側に黒い影が入ったと思ったら、それは、大柄な人だった。音からして押し入れから出て来たのだろうか。黒い大きな影は私の方へと向かい、寝ている私の顔を覗き込んでいる。
死角になっていて顔が見えないし、部屋も暗いから、どうなっているのかは定かじゃないけど・・・
甘い音が聞こえる。
「嘘でしょ」
「まなみちゃん・・・これって礼の?」
塔野さんも私も声が震えている。
「分からないけど、こんな大きくなかった気が・・・」
私、キスされてる。
肩が上下し、呼吸が荒くなった。
気持ちが悪くなってハンカチで口元を覆った。
映像はまだ続いている。その影は台所へ行った。画面奥が明るくなったってことは冷蔵庫を開けているってことだ。喉が鳴る音も聞こえるから、きっと水を飲んでいるんだろう。その後、シンクに何かを流している音が聞こえた。冷蔵庫の明かりの中にうっすらと見えたの牛乳パックだ。
影は口元を手で拭いながら寝室に向かってきた。ジャージかなにかを着ているのだろうか?黒い影はゆっくりとした動作で服を脱ぎ始めた。上も下も全て。
「ちょっと待って。何これ」
「まなみちゃん、これ警察に・・・」
「待って」
立ち上がった塔野さんの手を掴んで、首を振った。
この後どうなるのかを確認しなければならない。この影が誰なのかを確認しなければならない。
黒い影は全裸になるとベッドの横に座り、私の髪を執拗に撫でつけている。そのまま頬を撫でつけ、そのまま顔を近づけて顔中を舐め回している。
気持ちが悪くて吐きそうになった。身体中が震え、塔野さんが腕をさすってくれていなければ気がおかしくなりそうだ。
この後は・・・だいたい想像がつく。
影は布団の中に入り込み、そこで何をしているのかは映像には映っていないけど、ベッドから落とされる私が着ていたパジャマや下着を見れば嫌でも分かる。
黒い影・・・その男の息づかいが荒くなって、動きも加わった。
布団がめくれ、男の背中が画面に映し出された。汚い中年の背中だ。
激しさを増したかと思うとそのまま動きが止まった。しばらく肩で息をすると、慣れた手つきで私に服を着せ始めた。ゆっくりと自分も服を着て、こっちを振り返った。
「嘘でしょ」
画面に映し出された男の顔を見て私は目の前が真っ白になった。
その顔はよく見慣れた顔だったから。
人間、本当にびっくりすると声なんか出ない。
絶句するだけだ。
私も塔野さんも、絶句したままの状態で真っ暗になった画面に釘付けになっていた。
「・・・敏夫に電話しないと」
震える手で内ポケに入れてある電話を取りだしたけど、手が震えすぎていて床に落とした。 その音を聞いて塔野さんが意識を戻し、電話を拾い上げてくれた。
「私はこいつを探してくるから、あんたは彼氏に電話して、部屋からすぐ出るように言うんだよ!いいね」
こくこくと頷く私は、敏夫に連絡しないとっていう気力だけで保っているようなものだ。急いで出て行く塔野さんの背中をじっと見て、手元の携帯に目を移す。電話をかける前に画面に目を向けたが、真っ暗なままだ。
あのコンビニ店員じゃなかった。彼はこれを知らせてくれようとしていたんだ。
だったらなんでこんなまどろっこしいやりかた・・・
とにかく、敏夫に電話だ。
何回コールしても出ない。寝ているんだろうか、それとも・・・
嫌な気持ちが体中を巡り呼吸が乱れるけれど、何度も何度も出るまででコールし続けた。
敏夫はドラッグストアーに入るところで何かが鳴っていることに気付き足を止めた。
耳をすませば、なんてことない、自分の携帯の着信音だ。
まなみの部屋から聞こえる自分の携帯の着信音はかなり長く鳴っている。仕事先からかもしれないので急い階段を駆け上って部屋に戻った。
テーブルの上に置いておいた携帯のディスプレイには『まなみ』
立ったまま電話に出ると、まなみの声は震えていた。
「敏夫、今どこにいる?」
「おまえんち。家の前の薬屋に行こうとしてたんだけど?」
「すぐ、そこから出て」
「は?何言ってんの?」
「いいから、すぐにうちから出て」
弱々しいまなみの声に敏夫は眉間に皺を寄せた。
「どうし・・・」
「いいから、さっさと出て!」
いきなり怒鳴られて面食らった敏夫は言われる通りに財布だけ持って部屋を出て階段を降りた。
階段を降りきった時、目の前にタクシーが一台止まった。
中から中年の男が出て来て、焦ったように2階を見上げた。
目の前で立ち止まっている中年の男を不信に思い、敏夫は『どうしたんですか』と声をかけた。
「あ、あぁ、どうもこんにちは。君はここに住んでいるんですか?」
「あー・・・」
「あそこ、2階の今玄関が開いている部屋、誰かいます?」
「は?」
「いや、すいませんすいません。あそこに住んでいるのは私の娘でしてね。連絡がつかなくてこうやって見に来たんですけど、誰かいたらあれかなって思いましてね」
「・・・・・部屋開いてますからね、娘さんいるんじゃないですか?」
「ははは、そうですね。いやいやすみません」
中年の男は焦った様子で階段を一気に駆け上がって行った。




