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「藤井、そういえばお前ストーカーどうなった?」
聞いてきたのは大阪出張から帰ってきた部長だ。
「あぁ、毎日のようにいますよ。今朝だってまたいましたしね」
「・・・嘘だろ?」
「そんなことで嘘なんて言いませんよ」
「まだ・・・いるのか?どんなやつだっけ」
「赤い帽子被った細い人です。同じ事しか言わないんだもん。私に近づくことはしないからまだあれなんですけど」
「近づかない?毎日いるって、本当にそいつなのか?」
「はい。毎日同じ格好してうちの前に立って、私が出てくるの待ってるみた
いなんです」
「そうか・・・」
部長は額の汗を拭きながらネクタイを緩めた。
「部長?具合悪いんですか?」
「いや、なんでもない。そういや彼氏は?」
「はぁ・・・今日はうちにいますけど」
「・・・そっか」
「・・・大丈夫ですか?」
「あ・・・おお」
ひっきりなしに流れる汗を拭きながら部長はちょっとでかけてくると言って外に出てしまった。
「あ、部長!荷物まだ貰ってないんですけどハンコ!」
「デスクにあるから勝手に押せ」
勝手に使っていいんだ?だったらもっと早く言ってよ!
部長のデスクに置いてあるハンコを探し出して、それを持って総務部に向かう。
総務部には見知ったお局おばちゃんの塔野さんがいて、彼女は人と目が合うと手を挙げて挨拶をする人だ。
「ごめんねぇ。本当は荷物渡してあげたいんだけどさ、規則だから・・・」
「大丈夫、部長のハンコ持って来たから。了解済み」
「それなら良かった。なんかこれたぶんCDかなんかだと思うわよ」
CD?
なんかとても嫌な予感がして、背中がひんやりとした。
その場で封を切って中身を確かめると、一枚のDVDが入っていた。
『お送りしたDVDはご覧頂けましたか?』
「・・・例のあのストーカーもどきの話覚えてます?」
「あぁ、ここ一週間くらいずっと家の前にいる奴のことでしょ?」
「今日もいたんですよ。それで、送ったDVDは見たのか?って言ってたんです。しかも今日はなんか真剣っぽかった」
「ちょっと何よそれ」
塔野さんは呆然とする私と私の手にあるDVDを交互に見た。
「まなみちゃん、ここで観てみようか?一人よりは二人の方が心強いだろ?まぁ、あたしで頼りがいもないから悪いんだけど」
「そんなことない。むしろ有り難いです」
一人で観るのは勇気がいるし、怖い。
塔野さんが一緒に観てくれるなら心強いってものだ。何が映されているのかは分からないけれど、気分の良いものじゃないのだけは、分かる。
敏夫は9時には起きていた。
寝ていても何か変な臭いが鼻について寝ていられなかったからだ。
臭いの元はどこだかを突き止めることにして、申し訳ないとは思ったが部屋の中を見て回ろうとしているところだった。
まずは、台所だ。水回りをきれいに保っているまなみは、水回りの掃除は日課にしていたのでそこに何か腐ったものなどがあることはなかった。
次に見たのは冷蔵庫だ。
しばしば野菜やなんかを腐らせてしまって、そのまま冷蔵庫に放置されているってことも、ある。そこからの臭いかと思い、冷蔵庫をくまなく探したが、ここにもそれらしきものは何もなかった。必要なものだけしか冷蔵庫には入っていない。
牛乳の消費期限もいまのところまだ切れていないが、捨ててもいい程度の量しかないのに冷蔵庫に入っているのも不自然だった。
彼女の性格からして、こんな中途半端な残し方はしない。
残ってるくらいなら飲んでも平気だよなと、残りの牛乳を口元に運んだときに違和感を感じた。
臭いが違う。
牛乳の中に何かが混じっている、臭いだ。
しばらく考え込んでいたが、そうこうしているうちにも鼻につく臭いは届いてくる。
飲むことは無く、牛乳をシンクに捨てて水で流した。
洗面所にも何もない。
部屋中探してはみたが特別これというものは見当たらなかった。やはり、外の下水の問題か?しかしこの臭いは下水なんてものではない。
肉の腐った臭いに近い。
玄関とベランダ側のドアを全開にして、部屋の空気を入れ換えれば幾分か和らぐだろうと思い、朝から部屋中のドアというドアを全開にした。
ふと見上げたそこには押し入れがあるが、ここはまだ見ていないところだった。
きっとここには見られては困るものが入っているに違いない。
例えばそれは使い古した下着であったり、見せられないくらい着古したパジャマであったり、でも愛着があって捨てられない服や物などが入っているだろう。
そういうところは開けてはならない。それが優しさでもある。
ドアを開けたからか臭いはするりと風の流れと共に部屋を流れて外へと押し流されていった。
偶然にも目の前はドラッグストアーだ。
消臭剤を買いに行く間、部屋を開けっ放しにしていてもなんてことないだろう。ほんの数分のことだからと、敏夫は財布だけ持って、鼻歌を歌いながら階段を降りて行った。




