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 身体がだるい。特に下半身が本当にだるい。

 

 ぐっすりと眠っていたから疲れも取れるはずなのに、どういうわけか疲れは取れなかった。というよりむしろ疲れている。

 敏夫がいた日だけは、なぜか以前のようにすっきりと目覚められた。

 熱いシャワーで頭から浴びて、少しだけ汗をかいて心も体も頭も目覚めさせようとした。

 朝ご飯はシリアルにしようかと冷蔵庫にあるはずの牛乳に手を伸ばしたら、シリアルが食べられるほどの牛乳は残っていないことに気付いた。

 一口にも満たない残量しかない。昨夜はそんなこと無かった。

 そしてシリアルですら、残り少なくなっていた。


 私、いつ食べた?


 しばらく牛乳とシリアルを交互に見ていたけど、そんなことをしている間に家を出なきゃならない時間になっていた。

 仕方ない、今日はコーヒーショップで朝食を買ってから仕事に行こう。

 家を出て新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込むと、


「まなみさん、おはようございます。ちょっと見てもらいたいものが・・・見ていただけました?」

「・・・・・」


 毎日毎日同じ事しか言わない気持ちの悪いコンビニ店員は、今日も無視。

 追いかけてくることもしないし、それ以上話したりもしない。ワンブロック歩いて後ろを振り返ると、もうそこにはいない。いつもそうだ。本当に不思議な人だ。

 会社につくと今日は部長は出張で大阪に行っているということだ。

 総務に荷物が届いているってことを思い出したけど、うちの会社は部長のハンコがないと取り出せないシステムになっている。なので、急なものや重要なものについては送らない方がいい。

 そもそもが私は会社宛てに荷物を届けてもらうことなんてしたことがない。なんの荷物だか教えて貰ったら、薄い茶封筒ということだ。

 にしても、誰が送ってきたのか?

 差出人の名前はないという。そして部長がいないんじゃ話にならないので明日まで待つしかなかった。

 携帯のバイブが胸ポケで鳴ったのはデスクにつくほんの少し前のことだ。相手は敏夫。


「おはよ」

「おはよう」

「どうしたの?」

「今日早く終わるから夜行けそう」

「ほんと!じゃごはん作って待ってるね」

「分かった。じゃお酒でも買ってく」

「りょうかい!」


 たわいのない、みんながしているような彼氏彼女の話。今、本当に幸せだ。本当に何気ない日常なんだけど、それが幸せな一時だ。一緒に食事してテレビを見て、お風呂に入って、一緒に寝る。

 身体の相性もいいし、愛されてると実感する。身体の芯からじーんと染み渡る温かさ。

 夕飯の買い物を近くのスーパーで済ませ、家に帰った。

 冷蔵庫に材料を入れたときにまた違和感を感じた。お水が無い。

 もしかして誰かが私のいない間に家に入り込んでる・・・とか?

 はは、まさかね。

 うちは2DKのコーポの2階だ。

 玄関入ってすぐにダイニング。キッチンが右手にあって、そこに小さなテーブルが置いてある。二つの部屋は壁で仕切られていて、ガラス戸を開けると畳の8畳の部屋が一つ。そこにはテレビとソファーとテーブルしかない。その隣の部屋にはベッドとカラーボックスが二つ。

 だれかが入って来ていたらすぐに分かるし、気配だって感じるはず。

 でも今のところそれは無い。

 疲れてるのかな?もしくは生理前だからか?

 夜、敏夫が帰ってきたらそれとなく聞いてみることにして、料理をしてしまおう。腕をふるって料理を作りながら待ってるなんて、なんか新婚気分。

 そういえば最近部屋の中がなんか臭く感じることがある。消臭剤を置いているんだけど、その臭いよりも強く感じることもある。

 ここは下町だし、外の下水の問題なのかもしれないけれど、やはり古い家ってのも考えものだなって思う。情緒があっていいかもしれないけれど、匂いはさすがに厳しい。


「ただいま」

 そんなことを考えながら料理してたら、早めに敏夫が帰ってきた。

 料理をしている後ろからべったりとくっついてきて耳からうなじにキスをしてきて、料理ができない。

「ちょっと、それじゃ料理できな・・・」

「それも欲しいけどまずは・・・」

 そのままベッドになだれこみ・・・

「ん?なんか変な臭いしない?」

「あ・・・やっぱり?外の下水かなんかかなぁ」

「あー・・・ここ田舎だからな。しかも明日雨降るだろ?」

「そっか!雨降る前って案外臭ったりするんだよね。しかも梅雨でじめじめしてるし」

「だな」


 ベッドで何回も上下を入れ替わって何回も何回も意識を飛ばした。料理は作り途中のまま、買ってきてくれたお酒もキッチンに置きっぱなしのまま、冷蔵庫に入れることもなく、疲れ果てて眠りについてしまった。


「行ってくるー」

 今回は私が仕事に行き、敏夫は休みを貰って一日うちにいる。

「いってらっしゃい」

 玄関まで来てくれる彼ってそうそういないよね。大事にしようって思う。

 帰国してから今まで働きっぱなしで休みがなかったのもあって、きっとこのまま夕方までは起きないだろう。

 本人もそんなこと言ってたから、今日はメールも電話もちょっと我慢してゆっくりしてもらおう。

 会社が終わって家に帰る前に一回メールでもしようかな。

 ひとまず今日は仕事に専念しよう。


「まなみさん、おはようございます。ちょっと見てもらいたいものが・・・見ていただけました?」

「・・・・・」

「お送りしたDVDはご覧頂けましたか?彼氏さんは家ですか?」

「・・・・・」

「今日はお父様は?」

「は?あんた何言ってんの?うちの父のことまで知ってるわけ?」

「ええ、ついこの前ここに来ましたから」

「・・・何言ってんのよ」

「見ていただけました?」

「何も見てない!」

「見てほしいんですよ。急いでいるんです」

「・・・ほんと警察呼びますよ」

「それはそれで、そうして頂けると一番いいんですけど」

 コンビニ店員は意味の分からないことを言っていて、今朝は焦っているようにも見えた。

 電柱のところからは動かないんだけど、でも少しでも多く私と会話をしてこようと早口にまくしたてているふしもあった。

 DVD?そんなものあったっけ?

 そういえば最近ポストの中なんて見ていないし、もしかしたら何か入っているのかもしれないと思って、歩き出した歩を止めて踵を返した。

 そんな変なことを言われたら誰だって気になるはず。

 しかしもう、そこの電柱のところにコンビニ店員はいない。

 ポストを覗き込んだけれど、それらしきものは何も無い。入っているのはピザ屋の出前メニューくらいだ。

  やっぱちょっとおかしい人なんだろうか。思い込みが激しいというか、精神疾患かなんかなんだろうか?

 再度電柱の方を見たけれど、やはり誰もいない。

 

 鳥肌の立つ身体を落ち着かせ、駅まで急いだ。



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