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まただ。
この身体の気だるさは一体なんなんだろう。最近いつもこうだ。
まるでヤッた後の身体のだるさに似ている。そして朝起きるとシーツに血がついていることだってあるし頭もすっきりしないし、下半身は痛みもあって重たくもある。
今日は海外に出張していた彼氏が帰ってくる日だから、あらかじめ休みを貰っていて、これから成田に迎えに行くところだ。
熱いシャワーを浴びて気分をすっきりさせて、この前のバーゲンで買った新しいワンピースを着る。昨夜はしっかりパックをしたからか、うん、 化粧乗りはいい。
「まなみさん、おはようございます。ちょっと見てもらいたいものが・・・・見ていただけました?」
「・・・・・」
家を出たすぐそこで、赤い帽子を被って白いシャツを着て、くたびれたデニムパンツを履き、胸の前で茶色い角形3号(B5対応)の封筒を大事そうに持ったやせた男に声をかけられた。私はこいつの名前なんて知らない。いつも家の前の電柱の影に隠れていて、私が出てくると挨拶をしてくる。
表情も無く、いつも青白い顔をしていた。
今のところはストーカーじゃない。身元は既にバレている。
彼は近くのコンビニの店員さんだ。何回か見かけたこともあった。それに、もし何かをされたとしても、どこの誰だかはっきりと分かっているので、この人も挨拶以外何をしてくるわけでもない。
私は挨拶の変わりに睨みつけてやる。これも毎日の事だ。コンビニ後払いで通販で服を買った時に、たまたまレジがこの男の人で、たまたま私の住所を知った。それ以来毎朝のように家の前に立っている。私に挨拶をすると満足するのか、そのまま姿を消す。本当に理解に苦しむ。
が、今のところ私に害は無いので、放っておくことにしている。
警察に相談にも行ったけれど、それだけでは何もできないと言われてしまった。事が起こってからでないと手が出せないということか。なんとも心細い解答を貰ってから、相談に行くのはやめた。行っても意味がないから。
到着ロビーで彼氏を待っていたら、荷物をカートに乗せた敏夫がきょろきょろしながら出て来た。
成田空港で4ヶ月振りに会う彼氏は、何も変わっていなかった。そして、私を見つけると両手を広げて迎え入れてくれた。
「ただいま!」
「うん。おかえり!」
抱き合い、人目も憚らずキスをした。
「アメリカどうだった?」
「田舎だった」
「LAとか行かなかったの?」
「俺行ったのルイジアナだよ。遠いっつの。しかも会社はケチだから、仕事が終わったら観光する暇もくれずにさっさと帰れってさ」
「かわいそうー」
「まなみ元気そうでよかった!なんか綺麗になった?」
「ありがと、敏夫は相変わらず変わってないねー」
「ひどいな、ちょっとは男に磨きがかかったとか、ない?」
「それは、これから分かるかも」
夜のことだ。
4ヶ月何も無いと身体も心もうずうずしてくる。付き合いで飲み会に行ったら、誘われることもあったけど、それに応じるようなそんな軽い女じゃない。
その日の夜は何度となく求め合い、探り合い、腰を抑えて放さないように深く深く、絆を深めるように重なり合った。
「明日、明後日は会社に顔出して、片付けないとならない仕事がある。取引先にも挨拶回りしないといけないから会えそうもないよ」
「うん、分かった。寂しいけど我慢する」
「俺も我慢する」
「って何を?」
ケラケラとベッドの中で笑い合って、4ヶ月の空白を埋めるようにべったりとくっついて離れなかった。
翌日朝早く、敏夫は出かけていった。玄関まで送りに行った後、シャワーを浴びて、私も出勤の準備をした。
「まなみさん、おはようございます。ちょっと見てもらいたいものが・・・見ていただけました?」
「・・・・・」
今日もいる。そして無視をした。
「彼氏さんですか?さっき出て行ったの?」
「え」
「かっこいいなって思って、おもわず挨拶しちゃいました」
「何・・・考えてんのよ」
キモイ!
話し始めるとつけあがるから、できれば無視をして下さいと警察に言われていたのを思い出し、それ以上何も言わずに足早に駅に向かった。
途中で心配になって敏夫にメールをしたら、そんな奴いなかったぞって返信があった。
どうなってるんだろう。
確かにコンビニの店員さんは挨拶をしたって言ってたのに。からかわれたのか?だったらけっこうムカツクし、洒落になっていない。
コンビニに行って文句を言ってやろうと思ったけど、文句を言いに行くのは止めた。
それを違った意味に捉えられても困るから、例えばそう、会いに来てくれたんだって勘違いされてもいい迷惑だし、エスカレートされても困るのは私。
『会いたいよ』ってメールを送ったら、『俺も』って返ってきて、それだけで一日がハッピーに過ごせるんだから、恋っていうのは何か不思議な力を持っている。
「おい、藤井、ちょっとこれお願いできる?」
「はい、分かりました。いつまでです?」
「わりぃ、出来れば昼までには」
「っとに部長言うの遅いんですよ」
ぶーぶー言えるのも信頼関係があるからだ。島田部長は40代後半のてっぷりとしたおじさんだ。うちの部署のマスコット的存在でもある。見た目はタヌキ、性格は犬。優しいし頼りがいもあるので、みんなから好かれていた。奥さんも出来た人で、お手本になるような人だ。部下にも気配りをしてくれて、よく飲みにも誘ってくれる。私のことも気にかけてくれる。
「あ、そうだ。総務にお前宛の荷物が届いてるみたいだぞ」
「あ、はーい」
総務に行ってる場合じゃないよ。たったいま振られた無茶振りの仕事をお昼までに終えるのは相当集中しなきゃできないよ。
気合いを入れて、髪を後ろに一つにまとめた。
「よし、やるか!」
結局家に帰ったのは夜9時を回っていた。
そのままベッドに倒れ込みたいのを我慢してメイクを落としてお風呂に直行した。部屋の中は昨日まで敏夫がいたそのままの状態になっている。静かな部屋は少しだけ寂しいけどあと1日の辛抱だ。
冷蔵庫から牛乳を取りだしてコップに入れた時、なんか少なくなっていることに気がついた。牛乳だけじゃなくて、お水も少なくなっている気がした。そして極めつけに、買っておいたヨーグルトが消えている。
食べた記憶は無い。敏夫が食べたのかな?いや、それは無い。だって、今朝は彼の方が早く出て行ったんだから。
食べたことを忘れちゃったんだろうか?最近忙しいし、疲れてるのかもしれないなぁ・・・早く寝ちゃおう。それに限る。
疲れからくるものなのか、急激に睡魔が襲ってきた。目を開いているのが苦しいくらいの睡魔が私を包み込んだ。牛乳の後味が少し変だったけれど、これも疲れからだろうと気にもしないでいた。
これが大きな間違いだった。




