第9話:『レッドコア』を求めて③
激しい銃声と地鳴りのような爆発音が
冷たい雨の降る街並みに、不気味に響き渡っていた。
マップの中央付近で点滅する『レッドコア』の鮮明な赤いピン。
それは刻一刻と位置を変え、集まったプレイヤーたちが
まさしく命がけの奪い合いを繰り広げていることを物語っている。
「あぁうずうずするぅ....!!!AOちゃん!StriX!
早く乗り込んでブッパなそうぜぇ.....!!!!!」
物陰に身を潜めながら、RINが愛銃である【M60E4】を固く握りしめ息を巻く。
後ろで壁に背を預けていたStriXは
それに対して軽薄な笑みを崩さず、首を振った。
「焦っちゃダメだRINちゃん。
真正面から飛び込んでも、人数の差でハチの巣だよ。
『獲物が弱ったところを.....横から颯爽と奪い取る』
それが......僕たち、スカベンジャーの嗜みさ。」
StriXはそう言うと【Orsis T-5000】を構えなおし作戦を決めた。
「僕が少し離れたところ....高所からクリアリングと案内をする。
2人は足音を消して、中央の激戦区まで潜伏しながら進むんだ。
雨音と銃声に紛れれば、気づかれずに接近は出来る。」
「......分かった、行こうRIN。」
「おうよ、バックアップは任せたぜぃ....!!!」
StriXはひらりと闇の中に消えていき
私とRINは姿勢を低くして移動を始めた。
雨足が強まる廃墟の街。
バシャバシャと音を立てないよう慎重に足を運び
倒壊した建物の影や捨てられた車両の裏を縫うように進む。
握る【MPX-K】の、冷たい金属の感触が
高鳴る鼓動を少しだけ、でも確実に落ち着かせてくれた。
広場の手前、崩れたコンクリート壁の裏へ滑り込み
私とRINは息を殺して覗き込んだ。
目と鼻の先.......距離にして、約50m。
広場の中央では、色鮮やかに赤く発行する
『レッドコア』を抱えた4人パーティが、周囲から群がる他のプレイヤーたちを
圧倒的な火力で返り討ちにしている最中だった。
だが、そのうちの1人は『レッドコア』本体を大事に抱え
銃を撃っていない.....実質3人で抑えている状態で
これでは火力勝負に負け、倒されるのは時間の問題だ。
「なんでインベントリの中に仕舞わねぇ?
あれじゃ人数不利と大して変わんねぇのに.....。」
RINが困惑しながら顔を歪め、低く呟く。
「仕舞わないんじゃなくて、仕舞えないんじゃない?
アイテムの仕様として手に持って運ぶしかないとか......。」
私の推測に、RINが息を呑む。
もしそうならコアを手に入れた瞬間、そのプレイヤーは
『一切の攻撃手段を持たない、歩く的』になる、という事だ。
私達が動きを決めあぐね、StriXの通信を待っていると........
高所から壮大な狙撃音が響き、『レッドコア』を手にしていた
プレイヤーの頭に弾丸が叩き込まれた。
そのプレイヤーは崩れ落ち、Deadマーカーと共にボックスへと変わる。
「!?どこだ!?スナイパーがいるぞ!!!」
パニックに陥ったコアを保持したパーティへ、周囲に潜んでいた
無数のプレイヤーたちが、まさにハイエナの如く襲い掛かる。
四方八方に群がるプレイヤーたちに為す術はなく
集中砲火を浴びて数瞬のうちに倒された。
『いやぁ....凄かったね......。
撃ってよかったでしょ?どうせこうなるって分かってた。』
ヘッドセットから、ノイズ混じりにStriXの苦笑いを含んだ声が届く。
「どうする...?何パーティいるか分からないし
まだ私達みたいに潜んでる人がいるかも......。」
私のその質問に、RINは少し悩んだのちこう返した。
「いったん引こう、作戦は中止だ........。
今ここでやり合って、もし勝てたとしても弾も回復も無くなっちめぇ。
別の作戦を考える......StriXもいいだろ?」
『大賛成だ、今マップにピンを刺した。
その大乱闘も、推定だけど脱出地点も見える高台だよ。
そこで落ち合おう......クリアリングはしてるから、道中は居ないと思うよ。』
RINは悔しそうに歯噛みをしながら決断する。
私達はStriXの刺したピンを目指して、後退を始めた。
背後からは『レッドコア』を奪い合って、次々と倒されていく
プレイヤーたちの悲鳴と銃声が、今もなお響き続けている。
「........はぁ、マジで地獄絵図だなこりゃ。
あのまま無理に突っ込んでたら、今頃ハチの巣だぜぃ....!」
「うん.....でもStriXさんが居てくれてよかったね。
2人だけだったら突っ込んでたかもね........。」
『お褒めに預かり光栄だよ、サプを外しといてよかった。
あの騒ぎじゃあ僕の位置を特定するのは難しい......
狙撃手がいるって事実だけを埋め込むのが大事なんだ。』
ノイズ混じりの軽い声、それとは裏腹に状況の厳しさは増すばかりだ。
雨音がさらに強まる中、私達はStriXがマップに刺したピンを目指し
非常階段を駆け上がっていった。
あの鬼畜な仕様を前に、どんな作戦で戦えばいいのか......
私は胸の奥で高鳴る鼓動を感じながら、雨に濡れた屋上のドアへ手をかけた。




