第8話:『レッドコア』を求めて②
「やあやあ、そこの可愛いスカベンジャーさん。
何かお困りかい?」
頭上から降ってきた軽薄で楽しそうな声に
私は思わず息を呑んで見上げた。
圏内エリアの狭い路地裏....古い配管の上に腰を掛け
片足をプラプラと揺らしている1人のプレイヤーがいた。
ダボッとしたパーカーのフードを目深にかぶり、その上から無骨な
タクティカルベストを着こんだスタイル。
マスクはなく、フードの陰から覗く顔立ちは恐ろしいほど整っていて
一見すると中性的な美男子のようだった。
その背中には金属フレームの削り出しが剥き出しとなった
大きなボルトアクションライフルが斜めに背負われている。
余計な装飾は一切なく、大型のスコープとサプレッサーだけが載った
ストイックで鋭利な佇まいだ。
「あ.....えっと、あの.....。」
「迷子かい?それとも人探し?
困った顔をしている君を放っておけなくてね。」
彼は配管からひらりと軽やかに飛び降りると
一切の着地音を響かせずに私の目の前に着地する。
身のこなしに隙は無く、私はごく自然に彼を
『凄腕のスカベンジャー』だと認識する。
「いま....えっと『レッドコア』を一緒に戦ってくれるメンバーを探してて...
私と知り合いの2人しかいないから、人手不足で.....。」
「そうかいそうかい、そりゃあ大変な事だねぇ.....。
大概はもう組んでたりソロって決めこんだりしてるからねぇ.....。」
彼は顎に手をあて、少し考えるそぶりをする。
まもなく、パチンと指を鳴らし私の前に手を差し出してくる。
「なら、僕なんてどうだい?」
「......ぇ?」
思わぬ提案に情けない声が出た。
細められた瞳がニヤリと歪み、揶揄うように彼は笑う。
「腕は保証するけど......僕じゃ不満かい?
なら別を探すと良いけど、あと6分で見つかるかな....?」
「いや、そんなことは........
でもなんで、良いんですか...?」
「面白そうだから、いいよ?」
理由になっていないその言葉に、私は思わず呆気に取られてしまった。
けれど着々とタイムリミットは迫っている、ここで断って
次に誰か見つかる確証なんてどこにもないし、断る理由も無かった。
「わかりました、お願いします....!」
「ふふ、こちらこそよろしくね。」
差し出された手を握り、握手をする。
彼が満足そうに口元をゆがめたのを見届け、私は急いでメニュー画面を開き
RINに向けメッセージを飛ばす。
『1人見つけたよ!』
『マジィ!?ならもう時間無いしイベントロビーで合流じゃ!!!』
チャットを送ればすぐに既読が付き、返信が飛んでくる。
そのテンション高めなメッセージを見れば、向こうは成果無しなのだろう
ということが容易に想像がついた。
「イベントロビーで合流しようって事になりました、行きましょう。」
「オッケー、なら案内してくれお嬢さん。」
足を引っ張らないようにしなきゃ、という少しの緊張感と共に
2人で参加者たちでごった返すイベントロビーへと向かった。
青く輝く巨大な転移門の前にはカウントダウンウィンドウが表示され
殺気立ったパーティが、開始時間を今か今かと待ちわびていた。
その人混みを後ろから見る形で待つこと数十秒
息を切らしながらRINが走ってきた。
「AOちゃ~!!!どこだ~!!!!!
どこどこどこどこ......居たァ!!!!!」
私を見つけるなり飛びついてくるRIN。
その勢いに押し倒されそうになるが、何とか耐える。
「あはは、賑やかなパーティみたいだね。」
RINがバッと顔を上げる、私の隣に立つ彼を見て
その背中に背負われたライフルへと視線が吸い込まれた。
ミリタリーオタクの血が騒いできたようだ......。
「おっほ~~~!!!【Orsis T-5000】かぁ!!!!
削り出しのメタルアームフレーム!シュッとしたこのシルエット!!!
そこを損なわないスコープとサプだけのカスタマイズ....!!!
アンタ分かってんねェ~!!!仲良くなれそうだ!!!!!」
「ふふ、お眼鏡にかなったようで光栄だよ。
僕は『StriX』好きに呼んでおくれ。」
「StriXね、よろしく!!!
私はRIN、こっちはAO!『レッドコア』報酬は三等分で
達成できない場合は各自のルート品を合わせて三等分.....それでいい?」
「構わないよ、むしろ報酬なんて要らないくらいだ。
君達みたいな可愛いパーティの護衛をさせてもらえるなら...ね。」
フードの奥から楽しそうな声と
可笑しそうに歪められた口元が見える。
その言葉にRINは少し上機嫌になったみたいだ。
「んにゃ、そういう事なら遠慮なくぅ?」
「冗談さ、やめておくれ....。」
そんな軽口を叩きながら、私たちは試合開始時間を待ち続ける。
いつものテンションが戻ってきた、過度な緊張感が晴れていく。
転移門のカウントダウンが..........『0』を刻んだ。
我先にと転移門へ向かって駆けだすプレイヤーたちの姿は、見えなかった。
眩い光がイベントロビー全体を包み込み、私たちの眼前には
冷たい雨が降る廃墟の街並みが........
イベント専用特設エリア『封鎖区域:セクター9』が広がっていた......。
「うわぁ......ここがイベントマップ.....。」
「ぶぇっっっっくし!!!!寒ぃ~!!!
ずっと居たら風邪ひいちまうぜこんなマップぅ~!!!!」
「はは....でも、これだけ暗ければ
僕みたいなスナイパーは狙いやすいだろうねぇ......。」
解禁されたばかりの初見マップ。
何処に何があるか、どこから敵が来るか
どう襲ってくるのかも、誰も分からない。
私とRINが周囲を窺っていると、後ろを歩いていたStriXが
軽快な足取りを止め私の耳元で囁いた。
「ねえAOちゃん、そこの曲がり角の先.....巡回AIの足音が少しズレた。
多分だけど.......背中を向けたタイミングじゃないかな。」
「え.....うん、分かった...見てみるね。」
言われた場所を、息を殺して確認すれば
少し大きめの巡回NPCが、背を向けて歩き去っていくのが見えた。
「スナイパーの観察眼は伊達じゃないねぇ~!」
その言葉だけで済ませていいものか.....私はすこし異常に感じた。
ベテランのスカベンジャーはこんなにも凄いのかと、少し不気味に感じる。
さらに前へ進み、迷路のような地下配管エリアに差し掛かったときも
StriXはマップ画面も開かずに当たり前のような顔で先導して見せた。
「左の排気口に入ろう、風の音が微かに聞こえるから
地下の出口か....広い所につながってるはずだ。」
言われた通りに排気口を進めば、その通りに
地下の出口...大通り沿いの脇道へ抜けることが出来た。
「すごいねStriXさん...初めて来るんだよね.....?」
「ん?まあね、こういう施設のマップなら
こんな感じの道は用意されてるものだからね....ただのゲーム勘だよ。」
ゲーム勘という言葉では片づけられないほどの精緻な誘導。
私の胸の奥に小さな違和感と引っ掛かりを覚えたが.......次の瞬間
...........フォォォォォォォォォン!!!!!
マップ全域に広がるだろう、鼓膜を突くような
高音のアラームと警告音が響き渡った。
【警告:レッドコアが確保されました】
私達のミニマップに、鮮明な赤色の危険ピンが強烈に点滅を始めた。
息を呑む、すこしすれば遠くの街並みから地鳴りのような銃撃音と
爆風が巻き起こり、全プレイヤーがその一点を目指して
殺到し始めたのが分かった。
「早いねぇ、やっぱり最速湧きはあったか。」
「.......ッ!もう他のパーティに....急がなきゃ!!!」
先を急ごうとするRINをStriXは制止する。
背中の大きなライフル.....【Orsis T-5000】を引き抜き
ボルトを引いて弾を装填する。
「ちょっかいかけるのはラストパーティだけで良い......。
一番美味しい所だけを頂こうか.......!」
不敵に笑うStriXの横顔を見つめながら
私は愛銃であるMPX-Kのグリップを強く握りなおした。




