第5話:深淵の水路
『ディープ・フィルター』.....ロスト・ストリートの地下に位置する
水路と研究所と実験場が存在する高難度エリア......。
転送時の浮遊感が収まり暗転していた視界がゆっくりと開けていく。
最初に肌を刺したのは、ロスト・ストリートの乾いた埃っぽさとはまるで違う
湿り気を帯びた重く冷ややかな空気だった。
(うわぁ.....ここ、雰囲気が全然違うなあ.......。)
天井からは水滴が落ちてきて、足元の水溜まりに小さな波紋を描いている。
どこか遠くでさび付いた金属パイプのキーキーといった音が響き
不気味な静寂を際立たせていた。
新調したヘルメットのクリアバイザーを降ろし、周囲を見渡す。
内蔵されたヘッドセットが、落ちる水滴の音や遠くの風切り音
自分たちのわずかな呼吸音まで鮮明に拾い上げ、耳元に届かせる。
「AOちゃん、目が慣れるまで暫く耐えてね~!
目が慣れりゃライトなんて要らないほどに見えるようになるよ!!」
「分かった...それで、どこに行く?」
2人で近くの壁に寄りかかりマップを開く。
今いる所はマップの中央より少し左側、書かれている名前を見れば
『旧実験場:B』となっていた。
「ここからなら右下に進みながら水路通って....
そうだねぇ、『旧研究施設:A』側に進んでいこうか!!!」
「分かった、足音を消しながらゆっくり...だね?」
「そーそー!AOちゃはすっかりスカベンジャーだねぇ!!
重装のNPC達にも気を付けながら進んでこうねぇ!!!」
RINはM60E4を、私はMPX-K改をしっかりと握りながら
足音を消し、慎重な足取りで暗がりを進んで行く。
ライトのない暗闇でも生まれ変わった愛銃は頼もしく
確かな安心感を与えてくれた.....その時
カツン......カツン.........パシャ.........
硬い地面と、水溜まりを踏む足音がヘッドセット越しの耳に届いた。
身体が少し硬直する、緊張感が高まり
銃のグリップを握る手が強くなってるのを感じる。
「.....プレイヤー?」
「いいや、NPCだろうよぉ.....だが多いなぁ........。
サプ付いてんのはAOちゃだけだし、パパーっと倒してよん!」
軽いなあと思いつつ、私はMPXを構えなおし前に出る。
今いる水路から大体20mくらい前方、右に進んだところだろうか
少し前に出れば射程内な事に少しだけ安堵しつつ.....接敵する。
NPCの警告音声を聞き流し、パス...パス...パス......と
一人ひとり丁寧に頭を撃ちぬいて行く。
四人目を倒したあとに周りをクリアリングすれば
他のNPCもプレイヤーもいないことが分かり安堵する。
「終わったよ、誰もいない.....と思う。」
「ナイスAOちゃ~!華麗なキルだったぜぃ~!」
後ろからRINが親指を立てながら歩いてくる。
試射したとき以上に使いやすいMPXはとても頼もしく
NPCのデスボックスを漁る手つきも慣れてきているように感じる。
「さすがディープ・フィルター!NPCだろうが多少なりとも稼げんなぁ!
さてさて、水路を進みながら探索を続けていこうかぁ!!!」
NPCが来た方向の通路を進んでいけば
重厚な錆びついたセキュリティドアが出てきた。
それをくぐれば雰囲気が一変し、白を基調とした
タイル張りの壁と壊れた精密機械が並ぶ
静まり返った『旧研究施設:B』の廊下へと躍り出る。
「ここを抜けりゃ施設:Aだけど...いったんここを漁ってから
抜けていくかどうするか決めよっか!!」
「そうだね....足音も今は聞こえないし。」
私達は手分けをして、荒らされた研究室や施錠された保管庫を探索する。
鍵のかかった電子キャビネットをマルチツールで開けば
ロスト・ストリートの比ではないくらいの希少アイテムが並んでいた。
「わ...みてRIN、凄いお宝だよ...。」
「どれどれぇ....おっほぉ~~~!!
機密データチップじゃないかよぅ!!!
売りゃあ1個で80万Cの超激レアなお宝だぜぇ!?
大当たりじゃにゃいかAOちゃ~~~ん!!!!!」
RINが目を輝かせながら歓声を上げる。
インベントリへ慎重にお宝を詰め込み、ほくほくとした
達成感が胸を満たしていく。
この一回のレイドで、カスタム費用も防具代も
軽々と回収できるんじゃないかという高揚感も生まれてきた。
「来て正解だったね、脱出地点までこの調子で.....」
私が笑顔で振り返ろうとした、その瞬間。
キーッ.....カチャ..............
ヘッドセットから、廊下のずっと奥...私たちが向かう側
『脱出地点へ向かう道』から響いた微かな金属音が聞こえた。
「.......!AOちゃも聞こえたよね...?」
「うん.....行こうとしてた方からだよね......。
どうする?引き返すかやり合うかだけど.....。」
2人で遮蔽に身を隠し、銃口を音のした方向へ向ける。
さらに複数人の足音も聞こえだし、緊張感は高まっていく。
カツ..........カツ..........カツ...................
静かな足音.......だけど迷いがない。
地形を熟知し、足音を最小限に抑えながら慎重にこちらへ向かってくる動き
NPCではなくプレイヤー、しかも高レベルのパーティーだと
初心者の私でも理解できた。
「チッ....逆湧きのルート被りか.......。
しかも大ベテランと来たもんだ、2人じゃ心細いぜぃ......。」
RINが歯噛みをしながら低く呟く、MPX-K改のグリップを強く握りなおす。
手に入れた高額のアイテムと生まれ変わった相棒。
無事に生還するためには、目の前に迫る強敵を突破するしかなかった。




